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代償債権の取得は相続により受けた利益と認定、控訴を棄却

 相続税に係る連帯納付義務の履行の有無の判断を巡って、相続に伴って受けた利益の額は最初の遺産分割の時点を基準にするのか、それとも再遺産分割の時点を基準にするのかの判断が争われた事件で大阪高裁(石井寛明裁判長)は納税者側の主張を斥けた原審(大阪地裁2019.05.17判決)の判断を支持し、代償債務を有していた亡相続人の事業経営の失敗により相続財産を含む資産を減少させたことが原因であると考えられることから、相続税法上の問題によるものであるとはいえないと指摘して、控訴を棄却した。

 この事件は、相続開始後、他界した相続人が不動産の全てを相続する代償として他の2人の相続人らに5000万円の支払義務を負う旨の遺産分割協議をして相続税の納付をしたところ、大阪国税局長から亡き相続人の相続税について原告らが相続により利益を受けた限度で連帯納付義務を負うとしてその履行を求められたのが発端となった。

 そこで原告らは、再度、亡相続人が遺産を全て相続し、原告らは何も相続しない旨の遺産分割協議をしたものの、相続人の一方に所得税又は復興特別所得税に係る還付金につき連帯納付義務に係る相続税に充当する旨の処分をするとともに、もう一方の相続人に連帯納付義務を理由とする普通預金払戻請求権の差押えをしてきたため、相続人らが、連帯納付義務を負わず、それを負わせられるのは憲法29条に反するなどと主張して、充当処分の取消し、還付加算金の支払いを求めて提訴したわけだ。

 しかし、一審の大阪地裁が相続人らの主張には理由がないと判断して棄却したことから、原審の判決内容を不服とした相続人らが控訴して原処分の取消しを求めたという事案である。控訴審で相続人らは、亡き相続人の遺産を承継しない代償として代償債権を取得したものの、現実には代償金を受領しておらず、相続税によって受けた利益があるとは認められないと主張して、改めて原処分の取消しを求めていた。

 だが控訴審は、代償債権を取得すれば相続税法34条1項が定める「相続により受けた利益」があると認められるのであって、これに加えて代償債務の履行(現実の代償金の支払い)が必要であるとはいえないと指摘。また、相続人らが亡き相続人に対して代償債務の履行を求め、亡き相続人からその履行を受けることが可能であったにもかかわらず、これを行わなかったのは相続人ら自らの選択によるものであり、その選択の結果生じた不利益は相続人らが甘受すべきものと言わざるを得ないことは、原判決の説示どおりであるとも指摘した。

 その結果、相続人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であると判示して、控訴を棄却した。因みに、納税者側は控訴審の判決内容を不服として、上告受理申立中である。

(2020.02.07大阪高裁判決、令和元年(行コ)第95号)

提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)

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2022.01.18 15:50:31