評価通達に拠るべきでない特別の事情があると認定、訴えを棄却
相続で取得した土地及び建物の評価額の算定の際に、財産評価基本通達の定めによって評価するのが著しく不適当と認められる特別な事情があるか否かの判断が争われた事件で東京地裁(森英明裁判長)は、評価通達の定める評価方法によって財産を評価することは却って租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかであるから特別の事情があると指摘した上で、原処分庁が採用した鑑定評価額は客観的な交換価値を示すものとして合理性を有するものであり、これによって評価することが許されるものと解されると判断して納税者側の訴えを棄却した。
この事件は、相続で取得した財産の価額を評価通達が定める評価方法により評価した課税価格に基づいて相続税の申告をしたところ、原処分庁が相続財産のうち一部の土地及び建物の価額について評価通達の定めによって評価するのは著しく不適当と認定、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしてきたことから、相続人らがその取消しを求めて提訴したという事案である。
つまり、納税者側が評価通達に基づく評価額を主張し、原処分庁側が鑑定評価に基づく評価額を主張した通常とは異なるケースであるが、相続人側は不動産を含む相続財産は評価通達の定めに基づいた評価額によるのが一般的な対応であり、これは広く国民一般にとって周知の事実になっていると同時に、評価通達の定めに基づくことを前提に経済的活動を行い、その予測の下で生活をしているのであるから、原処分は租税に対する予測可能性を著しく失わせる極めて不当なものであり、租税法律主義の趣旨に反し、評価通達6の適用に関する行政庁の裁量の範囲を著しく逸脱した違法なものであるとして、評価通達に拠らないことが相当と認められる特別の事情はないと主張した。
一方、原処分庁側は被相続人が不動産を購入する直前に取引価格が異常に急騰した事実が認められ、評価通達の定めによる評価方法ではそのような急激な価格変動を評価額に的確に反映させることには限界があるため、評価通達の定めに拠らない「特別の事情」 が存在するから、鑑定評価額に基づく更正処分等は適法である旨主張して訴えの棄却を求めたわけだ。
判決はまず、評価通達が定める評価方法を形式的に全ての財産の価額の評価に用いるという形式的な平等を貫くことによって、却って租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかな特別の事情がある場合は、他の合理的な方法によって評価することが許されると解釈。
その上で、近い将来発生が予想される相続に向けて、相続税の負担を減じさせるものであることを認識し、かつそれを期待して不動産の取得及び借入れを実行したものであるから、このことは特別の事情の存在を基礎付けるものであると認定。結局、評価通達が定める評価方法で財産を評価することは、却って租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかであるから、特別の事情があるというべきであると判示して、相続人らの訴えを棄却した。
(2020.11.12東京地裁判決、平成30年(行ウ)第546号)
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