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低額譲渡(所法59)の解釈適用に誤りがあると指摘、控訴審に差戻し

 取引相場のない株式の譲渡が低額譲渡に該当するか否かの判断が争われた事件で最高裁(林景一裁判長)は、株式の譲受人が少数株主であることを理由に配当還元方式による評価額を譲渡時の価額と判断した原審(東京高裁)の判断には低額譲渡を規定した所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法があると判断して国側敗訴部分を破棄するとともに、譲渡時における株式の価額等の審理を更に尽くさせるため、控訴審に差し戻した。

 この事件は、代表取締役(被相続人)が所有していた株式を有限会社へ譲渡したことを受け、所得税の納付義務を承継した相続人らが、株式に係る譲渡所得の収入金額を配当還元方式に基づく譲渡対価と同じ金額で申告したところ、譲渡対価が類似業種比準方式に基づく株式の価額の2分の1に満たないことを理由に、原処分庁が低額譲渡に当たると認定して更正処分等をしてきたことから、相続人が原処分の取消しを求めて提訴したのがそもそもの発端。

 その結果、一審が原処分を妥当と判断して棄却したため、更にその取消しを求めて控訴したところ、東京高裁が配当還元方式に基づく評価額が譲渡時の価額として妥当であると判断、納税者側の請求を認容する逆転判決を言い渡したわけだ。その判決内容を不服とした国側が、控訴審判決の取消しを求めて上告したという事案である。

 最高裁は、控訴審の判決内容を是認できないと判示した上で、更に審理を尽くすよう控訴審に差し戻したが、上告審はその理由として、譲渡所得課税の場面では、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきであると指摘。

 また、所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価の際に、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる同族株主に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達に基づいて算定した価額とする旨を定めているが、この定めは譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについてもその株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができるとも指摘した。

 その結果、控訴審は株式の譲受人が少数株主に該当することを理由に、配当還元方式で算定した額が株式譲渡時の価額であると判断したものであり、その判断には所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法があると判示して、控訴審で更に審理を尽くすよう差戻しという判決結果になった。

(2020.03.24最高裁第三小法廷判決、平成30年(行ヒ)第422号)

提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)

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 取引相場のない株式の譲渡が低額譲渡に該当するか否かの判断が争われた事件で最高裁(林景一裁判長)は、株式の譲受人が少数株主であることを理由に配当還元方式による評価額を譲渡時の価額と判断した原審(東京高裁)の判断には低額譲渡を規定した所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法があると判断して国側敗訴部分を破棄するとともに、譲渡時における株式の価額等の審理を更に尽くさせるため、控訴審に差し戻した。 この事件は、代表取締役(被相続人)が所有していた株式を有限会社へ譲渡したことを受け、所得税の納付義務を承継した相続人らが、株式に係る譲渡所得の収入金額を配当還元方式に基づく譲渡対価と同じ金額で申告したところ、譲渡対価が類似業種比準方式に基づく株式の価額の2分の1に満たないことを理由に、原処分庁が低額譲渡に当たると認定して更正処分等をしてきたことから、相続人が原処分の取消しを求めて提訴したのがそもそもの発端。 その結果、一審が原処分を妥当と判断して棄却したため、更にその取消しを求めて控訴したところ、東京高裁が配当還元方式に基づく評価額が譲渡時の価額として妥当であると判断、納税者側の請求を認容する逆転判決を言い渡したわけだ。その判決内容を不服とした国側が、控訴審判決の取消しを求めて上告したという事案である。 最高裁は、控訴審の判決内容を是認できないと判示した上で、更に審理を尽くすよう控訴審に差し戻したが、上告審はその理由として、譲渡所得課税の場面では、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきであると指摘。 また、所得税基本通達59-6は、取引相場のない株式の評価の際に、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる同族株主に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達に基づいて算定した価額とする旨を定めているが、この定めは譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし、少数株主に該当するか否かについてもその株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができるとも指摘した。 その結果、控訴審は株式の譲受人が少数株主に該当することを理由に、配当還元方式で算定した額が株式譲渡時の価額であると判断したものであり、その判断には所得税法59条1項の解釈適用を誤った違法があると判示して、控訴審で更に審理を尽くすよう差戻しという判決結果になった。(2020.03.24最高裁第三小法廷判決、平成30年(行ヒ)第422号)提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)
2020.04.06 16:21:19