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中小企業向けの賃上げ促進税制の改正

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リエ「中小企業向けの賃上げ促進税制が令和6年度の税制改正で改正されたと聞きました。その内容について教えてください。」

黒田「わかりました。中小企業向けの賃上げ促進税制は、資本金の額が1億円以下の一定の法人である中小企業者などが対象となりますが、令和6年度の税制改正によって、税額控除率の上乗せ措置が見直され、また、賃上げ促進税制を適用して控除しきれない金額がある場合には、その控除しきれない金額を繰り越すことができるようになりました。」

リエ「それは大きな改正ですね。具体的にどのような内容に改正されたのでしょうか。」

黒田「まず、賃上げ促進税制の税額控除率についてですが、改正前は、雇用者給与等支給額の対前年比の増加割合が1.5%以上である場合は15%、2.5%以上である場合は30%とされ、教育訓練費の対前年比の増加割合が10%以上である場合はさらに10%上乗せされるので、税額控除率は最大40%とされていました。改正後は、この教育訓練費の10%上乗せ措置の要件について、教育訓練費の対前年比の増加割合が5%以上、かつ、教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であることと要件が緩和されました。また、新たに子育てと仕事の両立支援や女性活躍の推進に取組む企業への上乗せ措置が新設され、中小企業の場合、くるみん認定以上又はえるぼし認定(2段階目)以上を受けている場合は、さらに5%上乗せされることとなりましたので、税額控除率は最大45%に拡大されました。」

リエ「近年は働き方改革によって、子育て支援や女性活躍のための職場環境を整える企業も増えていると思いますので、くるみん認定やえるぼし認定などを受けることを検討する企業は増えそうですね。」

黒田「そうですね。次に、賃上げ促進税制を適用しても控除しきれない金額を繰り越すことができる繰越税額控除制度ですが、賃上げ促進税制の税額控除額は、法人税や所得税の20%相当額が限度額とされていますので、法人税額等がない赤字法人などは賃上げを実施していても賃上げ促進税制を活用することができませんでした。しかし、改正後は、法人税額等から控除しきれない税額控除限度超過額について、翌期以後5年間の繰越しをすることができます。」

リエ「そうなると赤字法人などであっても賃上げ促進税制の適用に関する検討が必要になりますね。」

黒田「そうなります。なお、賃上げ促進税制の繰越税額控除制度を適用する場合には、繰越控除をする年度の雇用者給与等支給額が前年度の雇用者給与等支給額を超えることが要件になりますので、法人税等がある場合でも雇用者給与等支給額が前年度以下である場合には、繰越税額控除制度を適用することができないので注意が必要です。」

リエ「なるほど。繰越税額控除制度の適用を受けるための手続きは何かあるのでしょうか。」

黒田「繰越税額控除制度を適用する場合の手続きとしては、税額控除限度超過額が発生した年度の申告で『給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書』と『繰越税額控除限度超過額の明細書』を添付して提出する必要があります。また、翌年度以後、法人税額等がない年度では『繰越税額控除限度超過額の明細書』の添付、繰越控除をする年度では『控除の対象となる繰越税額控除限度超過額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類』の添付が必要となります。この賃上げ促進税制は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度について適用されます。」

リエ「わかりました。ありがとうございます。」

監修

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税理士 坂部達夫

税理士法人坂部綜合会計/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

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リエ「中小企業向けの賃上げ促進税制が令和6年度の税制改正で改正されたと聞きました。その内容について教えてください。」黒田「わかりました。中小企業向けの賃上げ促進税制は、資本金の額が1億円以下の一定の法人である中小企業者などが対象となりますが、令和6年度の税制改正によって、税額控除率の上乗せ措置が見直され、また、賃上げ促進税制を適用して控除しきれない金額がある場合には、その控除しきれない金額を繰り越すことができるようになりました。」リエ「それは大きな改正ですね。具体的にどのような内容に改正されたのでしょうか。」黒田「まず、賃上げ促進税制の税額控除率についてですが、改正前は、雇用者給与等支給額の対前年比の増加割合が1.5%以上である場合は15%、2.5%以上である場合は30%とされ、教育訓練費の対前年比の増加割合が10%以上である場合はさらに10%上乗せされるので、税額控除率は最大40%とされていました。改正後は、この教育訓練費の10%上乗せ措置の要件について、教育訓練費の対前年比の増加割合が5%以上、かつ、教育訓練費が雇用者給与等支給額の0.05%以上であることと要件が緩和されました。また、新たに子育てと仕事の両立支援や女性活躍の推進に取組む企業への上乗せ措置が新設され、中小企業の場合、くるみん認定以上又はえるぼし認定(2段階目)以上を受けている場合は、さらに5%上乗せされることとなりましたので、税額控除率は最大45%に拡大されました。」リエ「近年は働き方改革によって、子育て支援や女性活躍のための職場環境を整える企業も増えていると思いますので、くるみん認定やえるぼし認定などを受けることを検討する企業は増えそうですね。」黒田「そうですね。次に、賃上げ促進税制を適用しても控除しきれない金額を繰り越すことができる繰越税額控除制度ですが、賃上げ促進税制の税額控除額は、法人税や所得税の20%相当額が限度額とされていますので、法人税額等がない赤字法人などは賃上げを実施していても賃上げ促進税制を活用することができませんでした。しかし、改正後は、法人税額等から控除しきれない税額控除限度超過額について、翌期以後5年間の繰越しをすることができます。」リエ「そうなると赤字法人などであっても賃上げ促進税制の適用に関する検討が必要になりますね。」黒田「そうなります。なお、賃上げ促進税制の繰越税額控除制度を適用する場合には、繰越控除をする年度の雇用者給与等支給額が前年度の雇用者給与等支給額を超えることが要件になりますので、法人税等がある場合でも雇用者給与等支給額が前年度以下である場合には、繰越税額控除制度を適用することができないので注意が必要です。」リエ「なるほど。繰越税額控除制度の適用を受けるための手続きは何かあるのでしょうか。」黒田「繰越税額控除制度を適用する場合の手続きとしては、税額控除限度超過額が発生した年度の申告で『給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書』と『繰越税額控除限度超過額の明細書』を添付して提出する必要があります。また、翌年度以後、法人税額等がない年度では『繰越税額控除限度超過額の明細書』の添付、繰越控除をする年度では『控除の対象となる繰越税額控除限度超過額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類』の添付が必要となります。この賃上げ促進税制は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度について適用されます。」リエ「わかりました。ありがとうございます。」
2024.04.26 15:53:47