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インボイス制度非対応取引等への対応――下請法等の制限に関する留意事項

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1 基本的な考え方

 令和5年10月1日以降は、課税事業者は免税事業者等からの仕入れについては基本的には仕入税額控除が認められません(法30⑦)。ただし、経過措置としてインボイス制度の施行日(令和5年10月1日)以後3年間は仕入れに関する消費税の80%相当額、その後の3年間は50%相当額の仕入税額控除が認められます(平28改所法等附52、53)。
 このため、このような経過措置を勘案しながら免税事業者等と今後どのように取引を行うのか検討する必要があります。その場合、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者と比較しますと取引条件について通常、情報量や価格交渉力について格差があります。このため免税事業者等は一般的に取引条件が不利になる可能性が高いと考えられます。このような環境下で売上先との交渉により取引条件が見直される場合にその方法や内容に関しては売上先が独占禁止法、下請法、建設業法に抵触して問題となる可能性があります。
 なお、免税事業者等へ支払う消費税ですが、免税事業者等も自らの仕入れに関して消費税を負担しています。このため、免税事業者等はこれを売上価格に転嫁する必要があることから、免税事業者等が請求書等において消費税を請求すること自体は法的に問題がないことを理解しておく必要があります。
 まず、取引相手がインボイス発行事業者の登録を行っているかどうかを確認する必要があります。その上で取引条件等を見直す等の検討を行う必要があります。

2 取引条件の見直し対象となる項目と留意すべき事項

 免税事業者等との取引内容の確認が必要なのは次の項目です。
・免税事業者等がインボイス制度の内容をどの程度理解しているのか。
・免税事業者等の今後のインボイス発行事業者への登録の意思の有無。
 現在までは免税事業者等としてやってきたが、これを継続するのかそれともインボイス発行事業者となる意思があるのか。意思があるとすればそれはいつからインボイス発行事業者となる予定なのか。
・現在の請求書の内容が、消費税の「税込み」か「税抜き」か。
・協賛金等を現在どの程度負担しているのか。
・関連する商品やサービスの利用の程度。
 上記のような項目を確認した上で取引条件を見直すことになります。
 取引条件の見直しは、基本的には取引当事者間の自主的な判断に委ねられる性質ものです。しかし、自己の取引上の地位が相手方より優越している場合に、一方の当事者が相手方にその立場を利用して正常な商習慣から逸脱し、不当な不利益を与える場合には「優先的地位の乱用」として独占禁止法上の問題となる可能性があります。
 こうした懸案に対して財務省や公正取引委員会は令和4年1月に「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」を公表しました。

3 独占禁止法・下請法の取扱いについて

 公正取引委員会では行為者の地位が相手方に優越していることや免税事業者の今後の取引に与える影響を勘案して、その行為を類型化し、考え方を公表しています。
(1)取引対価の引下げ
 免税事業者に対し、仕入税額控除ができないことを理由に、著しく低い取引対価を提示し、これに従わせることは優越的地位の乱用として問題となります。これに対して、仕入税額控除ができない金額に基づいて取引対価を引き下げることは直ちに問題となることは、ありません。この場合においても、仕入税額控除の経過措置等を適切に織り込んだ取引対価をベースとして双方で協議する必要があります。
(2)商品・役務の成果物の受領拒否・返品
 いったん契約を締結後に仕入先が免税事業者であることを理由として商品の受領を拒否することは優越的地位の乱用に該当し問題となります。また、返品について正当な理由がないにもかかわらず免税事業者へ返品を行うことも同様です。
(3)協賛金等の負担の要請
 取引価格の維持と引き換えに免税事業者へ協賛金、販売促進費等の名目で金銭の負担を直接の利益等を勘案して合理的と認められる範囲を逸脱した場合には、優越的地位の乱用に該当し問題となります。
(4)購入・利用強制
 取引価格の維持と引き換えに免税事業者へ当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務の購入を要請することは、免税事業者が業務遂行上必要ではない場合等には、優越的地位の乱用に該当し問題となります。
(5)取引の停止
 免税事業者に対し、著しく低い価格を提示し不当に不利益を与えることになる場合にこれに応じない時に取引を停止することは、優越的地位の乱用に該当し問題となります。
(6)登録事業者となるよう執拗な要請と脅し
 免税事業者に対し課税事業者になるように要請することそのものは問題ありませんが、こうした要請にとどまらず、課税事業者にならなければ取引価格を引き下げるとか、これに応じなければ取引を停止する等を一方的に通告することは優越的地位の乱用に該当する可能性があります。

このコンテンツの内容は、令和5年12月20日現在の法令等によっています。

資料提供(出典)

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書名:消費税申告書作成事例集 インボイス制度対応版

発行日:2024年2月22日
発行元:株式会社清文社
規格:B5判352頁
著者:税理士 上西左大信 監修
   公認会計士・税理士 田淵正信 編著
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2024.03.21 16:11:11