相続税の物納
相続税の物納
Q、骨董品を集めるのが好きだった父が亡くなりました。かなりの骨董品が家にあるのですが、正直言って処分に困っている状況ですが、相続税を骨董品で納付できると聞きましたが、本当でしょうか?
A、
国税は、金銭で納付することが原則ですが、相続税に限っては、延納によっても金銭で納付することが困難な場合、一定の相続財産による物納が認められています。
財産の生前贈与を受けて相続時精算課税又は非上場株式の納税猶予を適用している場合には、それらの適用対象となっている財産は、贈与者の死亡によりその贈与者から受贈者が相続により取得したとみなされることとなっていますが、それらの財産は物納の対象とすることはできません。
物納できる財産には順位がある
物納に充てられる財産には順位があり、第一順位は不動産や国公債、上場株式等で、第2順位は非上場株式等、第3順位は自動車や美術品等の動産となっています。ただし、登録美術品のうち相続開始前から所有していたもの(特定登録美術品という)であれば第1順位になるため不動産等と同順位になります。
それでは、第1順位となる登録美術品制度とはどのようなものか。
優れた美術品を鑑賞する機会を拡大するため、平成10年に美術品の登録制度ができました。
文化庁に登録申請をして登録が決定すると、登録通知を受けた日から3ヶ月以内に美術館と登録美術品公開契約を結び、その登録美術品を美術館に引き渡します(所有権はそのままです)。
美術館との公開契約は、5年以上の期間にわたって有効なものであり、契約期間中は、契約者が一方的に解約の申し入れをすることができません。
なお、登録美術品になったら物納が容易になりますが、登録美術品になっても必ず物納しなければならないということはありません。
納付資金の状況を勘案の上、物納しないという選択もできます。
登録美術品・登録の基準について
どのような美術品でも登録を受けられるわけではありません。
登録を受けるには、その美術品が「日本の国宝や重要文化財に指定されているもの」、または「世界文化の見地から歴史上、芸術上又は学術上特に優れた価値を有するもの」でなければなりません。
具体的には美術品種類ごとに登録基準が定められています。
さらに、これらの基準をみたす美術品であっても、その美術品が世界文化の見地から貴重なものであり、かつ、その美術品の製作者が生存中でないものであることが登録基準になっています。
また、その美術品を一定の美術館で公開することも条件になっています。
種類と基準は以下の通りです。
・絵画 製作が優秀なもの又は絵画史上特に意義があるもの
・彫刻 製作が優秀なもの又は彫刻史上特に意義があるもの
・工芸品 製作が優秀なもの又は工芸史上特に意義があるもの
・文字資料 製作が優秀なもの又は文化史上特に意義があるもの
・考古資料 出土品であって、学術上特に意義があるもの
・歴史資料 歴史上の重要な事象又は人物に関する遺品であって、学術上特に意義があるもの
・複合資料 異なる種類の美術品が系統的又は統一的にまとまって存在することにより、特に意義があるもの
登録美術品の申請を行う時期
登録美術品の申請はいつでも行う事ができます。
ただし、相続が発生する前に登録美術品として登録を受けていなければ物納に充てられる順位は第1順位にはならないし、
文化庁へ提出する申請書類は、公開する予定の美術館の協力を得て作成するため、計画的に準備することが重要です。
(執筆:税理士 主任研究員 米山英一 )