富裕層への課税強化「一億円の壁」とは
Q、
所得税の議論でよく「1億円の壁」という言葉を聞きます。超富裕層への課税強化が狙いと言いますが、この「1億円の壁」について教えて下さい。
A、
所得が1億円を超えると税負担が軽くなる「1億円の壁」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
所得が多ければ多いほど税率が高くなる通常の所得税と税率が一定の金融所得の所得税、この2つの影響がでてくるのがちょうど1億円ぐらいの所得からなので「1億円の壁」と言われています。
所得税の税率が減るわけではなく、富裕層の多くが資産運用によってお金を増やしているために起こる現象です。
国税庁の統計資料「申告所得税標本調査」でそれが確認できます。
下表のとおり、もっとも所得税及び復興特別所得税の負担割合が高いのは5,000万円超1億円以下の26.6%となっています。
令和3年分 (第24表)所得税及び復興特別所得税の負担割合(国税庁資料より)
区分 所得階層 |
平均所得金額 ① 千円 |
平均税額 ② 千円 |
所得税及び復興特別所得税の負担割合②/① % |
100万円以下 |
791 |
9 |
1.2 |
100万円超200万円以下 |
1,523 |
33 |
2.1 |
200万円超300万円以下 |
2,467 |
70 |
2.8 |
300万円超500万円以下 |
3,869 |
151 |
3.9 |
500万円超1000万円以下 |
6,935 |
564 |
8.1 |
1000万円超200万円以下 |
13,810 |
2,065 |
15.0 |
2000万円超5000万円以下 |
29,195 |
6,589 |
22.6 |
5000万円超1億円以下 |
67,346 |
17,929 |
26.6 |
1億円超 |
299,823 |
69,073 |
23.0 |
総平均 |
7,046 |
1,005 |
14.3 |
給料にかかる税金は総合課税です。総合課税の対象となる所得全てを合計した金額に対して、税率が課されます。所得税には超過累進課税が採用されており、対象額の増加に伴い税率も高くなります。したがって、給与所得が多いと税負担額も重くなるのです。
株式の配当金や売却益は原則、源泉徴収されるため、定められた税率が引かれて手元に入ってきます。配当所得にかかる税率は、所得税と住民税を合わせて一律20.315%です。
所得が1億円を超える方の中には、労働による所得以外に投資によって資産を形成している方もたくさんいます。配当所得の割合が大きいということは、相対的に税負担が軽くなるとも言い換えられます。
元の所得は大きいので当然所得税も多くは払っているのですが、実質的な税率は下がっているのです。
(執筆:税理士 主任研究員 米山英一 )