傷病による休業を理由に解雇できるか
弁護士の井上瞳です。
私は、労働事件について、使用者側、労働者側のいずれからもご相談や事件のご依頼をいただいております。
その中で、「(従業員が)傷病で長期間休業しているが、復帰の目途が立たないので、解雇を検討している(または「解雇すると言われたがどうすればよいか」)。」というご相談をいただくことがございます。
そこで、傷病による休業が解雇事由となるのかについて解説をいたします。
1 傷病が業務上発生したものである場合
傷病が業務上発生したものである場合、労働基準法19条1項により、その療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇できません。
また、労働者が業務上傷病を負った場合、使用者は、必要な療養の費用を負担しなければなりません(労働基準法75条)。
ただし、使用者が打切補償を支払った場合や、天災事変などのやむを得ない事由により事業の継続ができなくなった場合は、従業員の解雇が可能です。
打切保障とは、労働者が療養開始後3年を経過しても傷病が治癒しない場合において、使用者がその労働者に対し、平均賃金の1200日分を支払うものです。
労働基準法19条1項に基づく解雇制限が適用されるかどうかに関して、特に労働者が精神疾患にかかってしまった場合などに、使用者と労働者との間で、傷病が「業務上」発生したものであるかどうかが争いになることがあります。
2 私傷病休業の場合
⑴ 私傷病休業とは
労働者が、会社の業務以外の理由で生じた病気や怪我(私傷病)によって勤務できない場合、会社に在籍したまま、一定期間その労務の提供を免除して、療養の機会を与える(会社を休ませる)制度をいいます。
私傷病休業の制度は、労働基準法やその他の法律で認められている制度ではありません。私傷病休業について、会社の就業規則などに定められている場合に、利用できます。
そのため、私傷病休業を取得する際の手続き、休業期間、休業中の手当について、会社の就業規則などに従うこととなります。
⑵ 私傷病休業の場合の解雇の有効性
私傷病休業の制度は、傷病の治癒を待つこと、すなわち、解雇を猶予することが前提となっているといえますので、休業期間中の解雇は認められない可能性が高いです。
休業期間後に解雇を行うにしても、傷病が治癒しており労働者が復職可能かどうか、解雇という手段以外の手段(他の業務への配置転換等)をとることができないか、十分に検討する必要があります。
会社としては、休業期間中も、定期的に、労働者に病状のヒアリングをしたり、必要に応じて診断書を提出してもらうなど、治療の経過を確認することをおすすめします。
⑶ 会社の就業規則等に私傷病休業に関する定めがないとき
労働者が傷病のために休業したことを理由として解雇を検討する場合でも、解雇以外の手段をとることができないかなどについて、十分検討する必要があります。
また、労働者の休業期間が短期間である場合、解雇が無効とされる可能性が高いです。
3 労働者の傷病を理由に解雇することを検討する場合
労働者の傷病を理由に解雇することを検討する場合(または会社から解雇を告げられた場合)、解雇の有効性に関する検討事項は複雑かつ多岐にわたりますので、一度弁護士にご相談ください。