財産の戦略デザインの作り方 その5
戦略をデザインする作業工程
本稿では、「財産の戦略づくりのステップ」と「財産の戦略デザインの作り方」の2つをテーマにしてこれまで述べてきました。
財産の戦略をデザインするためには、社長の財産の全容を知らなければなりません。そのために、「財産の戦略づくりのステップ」では、まずは社長の財産のリストを作り、リストから社長の個人財産のバランスシートを作っていくことを述べました、財産を流動資産・固定資産・負債・純資産と4つに区分して、社長にも一目で理解できる個人財産のバランスシートづくりが、戦略のデザインに重要となります。作成したバランスシートを社長と共有しながら、社長の財産の承継をどうしていくのかを社長とともに考えていく過程を示しました。
「財産の戦略デザインの作り方」では、前回のその4までに、社長の財産の多くを占める自社株の管理と承継の戦略デザインの作成を主に述べてきました。
今回は、財産の戦略デザインを作る作業工程について整理したいと思います。
5つの工程
財産の戦略は、5つの作業工程をふまえデザインしていきます。
工程1:社長の思いと事実を知る、工程2:知ったことを整理・分析、工程3:整理分析から社長の課題を推測する、工程4:推測した課題から社長が課題を特定する、工程5:特定した課題について課題解決のロードマップを作る、この5つの工程です。
工程1:社長の「思い」と「事実」を知る
財産の戦略をデザインするためには、社長のことをできる限り多く知る必要があります。戦略をデザインする人(本稿では、社長の財産の戦略をデザインする人を以後、財産戦略デザイナー®といいます)は、社長の信頼を得て、社長のすべてを開示してもらえるよう努めていかなければなりません。
「思い」は、これからの生活やライフプラン、家族、事業の承継、社長の財産の管理・運用などについて、社長が、「心配に思っていること」と「実現したいこと」を社長に開示してもらいます。
「事実」は、社長の家族の状況と社長の財産の2つ関する情報。社長の家族と財産の事実を把握していきます。
社長の家族構成はどうか。家族の年齢、どこに住んでいるのか、家族それぞれの仕事の状況など家族に関する情報を、財産戦略デザイナー®はできる限り把握していきます。
社長の財産については、「財産の戦略づくりのステップ」で説明した、社長の個人財産のバランスシートを作成できるよう、社長が所有する財産について、状況と価額を把握していきます。
工程2:知ったことを整理・分析
工程1で把握した社長の「思い」と「事実」を整理します。
筆者は、社長の思いを整理する際、付箋やカードのようなものを利用します。心配なことを青のカードに、実現したいことを赤のカードに記入して、机一面に広げ、それを区分しながら整理します。これからの生活やライフプラン、財産のこと、家族のことなどテーマを決め区分し、整理していきます。
家族の情報の整理には、家系図を作成します。家系図に社長に開示してもらった家族の情報を記入していきます。
財産については、個人財産のバランスシートを作成します。
思い・家族・財産について整理ができたら、それを眺め、客観的に分析していきます。客観的な分析は、経験が必要と筆者は考えています。分析には、財産戦略アドバイザー®は、主観を捨てきることが必要です。分析し課題を見つけ、その課題解決のために商品や仕組みを提供し報酬を得ようなどと考えていては、主観を捨てきることができないと筆者は考えています。社長本位にかつ客観的に分析をすることを目指します。分析方法については、今後、紹介していく事例のなかでも述べていきたいと思います。
工程3:整理・分析から社長の課題を推測する
これから将来に向かって、社長が実現したいことをかなえられるように、社長の心配を解消するには、現在の社長の状況から何が課題かを推測していきます。自社株に関する課題なら、今後の事業計画や社長や家族のライフイベントもふまえて課題を推測していきます。また、家系図に記された情報を見ながら、家族それぞれの思いを想像しながら課題を推測していきます。社長の財産の多くを自社株が占めていれば、後継者以外の子は、社長の財産を承継する際のアンバランスに不満を持つでしょう。家族のわだかまりの原因になりそうなものを見つけ、財産の承継における課題を推測していきます。
工程4:推測した課題から社長が課題を特定する
事業承継や相続対策の必要性を感じながら、なかなか具体的に進められていない社長が多いのは、この工程ができていないからだと筆者は感じています。
金融機関や税理士など外部の専門家から、相続・事業承継対策を提案された社長は、確かに課題であることは理解しながらも、課題解決が「自分ごと化」していないために、課題解決に着手しないと、筆者は感じています。
財産戦略アドバイザー®が推測した課題を社長に説明し、社長が課題説明を理解し、その課題のなかで解決していかなければならないものを、社長が選定するという過程をふまえることが欠かせないと筆者は考えています。
また、課題は、短期的に解決すべき課題と中・長期的に解決すべき課題に分けて検討することが必要です。短期的な課題は、現状のまま、社長に万が一のこと(社長の突然死)が起こった場合にも対応できるようにしておくことです。短期的な課題については、社長もイメージしやすいので、まずは短期的な課題のみでも社長が「自分ごと化」できるよう、財産戦略アドバイザー®は、推測した課題を説明し、社長が課題を「自分ごと化」する支援をしていきます。
工程5:特定した課題について課題解決のロードマップを作る
社長が、自分ごととして特定した課題解決にむけてロードマップを作成していきます。ロードマップには、課題解決にむけ、「やるべきこと」、その「担当者」、「実行スケジュール(処理時間)」の3つを位置付けます。
課題解決には、それぞれの分野の専門家の関与が不可欠です。関与する専門家がロードマップを共有しながら課題解決を進めていきます。
その際、課題解決を1つのプロジェクトとみたて、そのプロジェクトをマネジメントする者(プロジェクトマネージャー)が必要です。筆者は、財産戦略アドバイザー®として、各課題を解決するまでのマネジメント役を担います。筆者はこの役割を「現場監督的な立場」と称して、各専門家と連携しています。また、専門家と社長の間に入り、それぞれの通訳者的な役割も担います。当事者である社長が、課題解決のプロジェクトを理解して進めていけるよう、社長に伴走する役割が欠かせません。
次回からは、財産の戦略デザインの実践例として、私が経験した事例を紹介していきたいと思っています。
注:本稿で述べた財産の戦略デザインの作業工程についてご興味のある方は、筆者が代表を務める株式会社継志舎のHPにも資料を掲載しております。ご興味のある方はご覧ください。