第二部 第6回 「わらしべ長者」的 メディア掲載のすすめ
第二部 メディアとつながり、社会とつながる
第二部では、企業がメディアとつながり、適切な情報開示をするメリットと具体的なつながり方についてお話します。現在はインターネットを通じて、企業が直接、多くの潜在顧客や投資家に情報を開示することが可能になりました。それでも、1企業のホームページやSNSを毎日のように見ている人たちは多くありません。大企業ですらそうですから、中小企業のHPを見ている人はさらに限られます。
一方でメディアは多くの読者や視聴者を抱えており、毎日、膨大な数の人たちが見ています。メディアは1社だけではなく、企業や政治経済など多分野にわたって逐次、たくさんの情報を発信しており、読者が習慣的に見に来るからです。メディアはたくさんの読者や視聴者、もっといえば「社会」と直接つながっているわけです。メディアはそれ自体がインフルエンサーとも言えます。企業が独りよがりの情報発信で自己満足をしないためにも、メディアとつながり、情報を発信してもらったり、記者と情報交換をしたりすることは重要だといえるでしょう。ただ「そのつながり方がわからない」という経営者や広報担当の方々も多いと思います。それにはやはりコツがあります。企業として無駄な努力をしないためにも、第二部の内容について参考にしていただければと思います。
第6回 「わらしべ長者」的 メディア掲載のすすめ
子供のころ、「わらしべ長者」の物語を読んだ方は多いのではないでしょうか。もともとはわずか3本の「わらしべ(藁の茎)」しか持っていなかった男が物々交換を繰り返してどんどん裕福になり、最後には長者さまになるというお話です。なぜそんな古い物語の話をしたかというと、広報活動もこれに似たところがあるからです。
経営者や広報担当者は、大きなメディアや有名メディアに記事を掲載してもらうと喜びます。当然です。大メディアほど読者や視聴者が多く、影響力が大きいからです。
一方で、小さなメディアが自社を報道しても、まったく喜ばない経営者や広報担当者が多いのも実情です。「小規模なメディアは影響力が小さく、報道されても意味がない」と軽視してしまうのです。しかし、こうした考えは間違いです。新聞や雑誌、テレビなどの記者の行動パターンを理解していないからです。
メディア掲載は連鎖します。初めは小さなメディアへの掲載だったとしても、掲載数が増えてくれば、大手メディアの記者も安心して取材しやすくなります。「報道が多くなればなるほど、取材をしてもらいやすくなる」という報道の仕組みを知らずに、無名企業や中小企業の広報業務の成功はありません。まさに「わらしべ長者」のような方法で「メディア掲載」を出世させていくのも、無名企業や中小企業の広報担当者の腕の見せ所なのです。
■「年4件」だった企業のメディア掲載数が50倍に急増、NHKにも取り上げられた
私が広報代行・コンサルティングをしている企業のうちの1社に、法人向けウェブメディアの制作や管理、海外人材とのマッチング事業などを手がける「全研本社」があります。同社は東京証券取引所のグロース市場に上場し、堅調な業績を誇る企業ですが、コンサルをするまではメディア掲載数が年間4件程度しかありませんでした。
2022年から同社の担当者と協力して広報活動を強化したところ、メディア掲載数は10か月でヤフーニュースなどへの転載を含めて150件以上に急増しました。これは以前の約50倍(年換算で比較)にあたる掲載数です。同年10月にはNHKの高視聴率番組「サタデーウォッチ9」で、日本国内のIT(情報通信)人材の不足の問題と全研本社が取り扱うインドのIT人材の紹介事業について7分半にわたって特集していただきました。
しかし、全研本社も最初からNHKで放映してもらえたわけではありません。メディア掲載の少ない企業がいきなりテレビ局の記者やプロデューサーに「当社のことを取り上げてほしい」と話しても、相手にされないことがほとんどでしょう。このため、私はまず全研本社と協力し、規模の大小にかかわらず、多くのメディアに取り上げてもらえるよう努めました。
全研本社内の新しいニュースなどを探り、記事ネタを複数つくった上で新聞、オンラインニュースサイトなど、できる限り多くのメディアに記事を掲載してもらえるようお願いしました。1つのメディアが記事を掲載してくれると、安心感があるのか、別の媒体も記事を掲載してくれるようになりました。最終的には私が直接お願いしていない一部の業界紙やオンラインニュースも記事を掲載してくれるようになりました。これは、多くのメディアが国内の人手不足やIT人材の不足という課題とそれを報道する意義を理解してくれたことを示しています。
結果としてNHKの方々の目にもとまり(売り込みの努力はしましたが)、取材をしてもらえたと思います。もちろん、全研本社の方々が真剣に私の説明に耳を傾け、全面的に取材やネタ作りで協力してくれたことも成功の重要な要素になりました。
■なぜメディアの連鎖が発生するのか、理由を知らなきゃ始まらない
なぜこのような「メディア掲載の連鎖」が起こるのでしょうか。その仕組みを知り、メディア掲載の連鎖を起こすことが、広報活動で「わらしべ長者」的な成功をする第一歩だと私は思います。
NHKや日本経済新聞など大きなメディアの記者たちは、取材をする前に、必ずその企業がどんな報道をされているかを調べます。それにより、「危ない企業ではないか」、「取材しても良い企業かどうか」を見極めているのです。また、第三者による報道をよく読むことを通じて、その企業のことをきちんと調べてから取材をしようとします。
こうした傾向は大きなメディアの記者ほど顕著です。彼らは自社や他社のメディアに掲載されたことがなく、信頼してよいかどうかわからない企業の記事を掲載することに厳しいからです。記者たちは、インターネットで検索するだけでなく、日経テレコンのような記事のデータベースでも企業のことを調べます。能力があり、しっかりした記者ほどこうした努力を怠りません。(一方で内容が保守的になり、新しい企業の記事がなかなか掲載されないという欠点もあります)
結果としてメディアへの掲載がほとんどない企業は、記者から「取材されない理由があるのではないか」と疑われ、ますます取材されづらくなります。一方、小さなメディアであっても、たくさん報道されている企業は取材されやすくなります。事前に多くの情報を得られる上、記者側も「ほかの記者が取材しているから、きっと信頼できる企業なのだろう」と思うからです。
つまり、ほかで多く報道されているほど、大きなメディアで記事を取り上げてもらいやすくなります。逆に小さなメディアにも記事を掲載してもらっていない企業は、大きなメディアにも掲載してもらえない状況が続くことになるのです。
■「再生産」される業界紙の記事やネットニュース
多くのメディアに記事が取り上げられている企業が取材されやすくなるもう1つの背景には、記者が記事ネタを探す際に、必ずほかのメディアの記事を検索することがあります。たくさん記事を書くことを求められる記者たちは毎日のように、日経テレコンのような記事データベースやインターネットなどで自分の担当企業の関連記事を検索しています。
全国紙の記者の場合、週末紙面を埋めるための出番原稿を出稿する際には、業界紙などに出ている記事を検索することがよくあります。これはある意味では、記事が足りない時に紙面を埋めるための裏ワザでもあります。業界紙は発行部数が全国紙に比べれば少なく、読者が限られます。仮に同じネタを追加取材して、それを洗練させれば、多くの人たちにとっては新しいニュースになる場合もあります。デスクや部長もすべての業界紙に目を通しているわけではありませんから、社内でも業界紙に掲載されているネタを追加取材していると気づく人はほとんどいません。
もちろん、全国紙の記者がいつもこうしたことをやっているわけではありませんが、決して珍しい話ではありません。広報担当者としては、こうした記者の行動を逆手にとって、大きなメディアに記事を掲載してもらえるようにすることができるわけです。
こうしたことは、インターネットメディアも同様です。ネットメディアに掲載されているエピソードや統計記事、インタビュー記事などの一部が大手メディアの企画記事や番組などの一部で参考になる場合もあります。ネットメディアの記者が取材を申し込んできたら、そのメディアが信頼できる場合は丁寧に対応することをおすすめします。