HOME コラム一覧 第一部 第5回 守りの広報、メディアの「本音」とは~記者からの「7戒」②4~7戒

第一部 第5回 守りの広報、メディアの「本音」とは~記者からの「7戒」②4~7戒

post_visual

第一部 中小企業に広報PRが不可欠なワケ ~素手で戦場に飛び込みますか?

 広報PRには「外部効果」、「内部効果」、「守りの効果」の3つの効用があります。連載記事の第5回目の今回は前回に続いて、「守りの広報」についてお話しします。守りの広報とは、不祥事などがあった際に適切に情報を開示し、メディアや読者、視聴者からの過度の批判や自社ブランドの棄損をできる限り抑えることです。
 攻めの広報と同様、守りの広報でも「相手を知る」ことが第一歩です。企業で不祥事などが発生した際に、記者が「会見で、こんなことだけは企業にしてほしくない」、逆に「企業にこうした対応を取ってほしい」ということを知った上で、適切な行動を取ることが必要です。メディア慣れしていない企業では、会見を短い時間で一方的に打ち切ったり、記者が聞いていることに全く答えなかったり、といった対応がよく見られます。不祥事に加えて、この対応の悪さがメディア側の心証を悪化させ、いよいよ厳しい批判記事を招くことになります。批判の矛先が不祥事そのものだけでなく、企業の対応の悪さにまで向かってしまうからです。
 インターネット社会では、こうした記事がすぐにSNSなどで拡散されてしまいます。ネットで「この会社は会見で不誠実な対応をとっており、反省していない」などといった批判が盛り上がると、メディアは次の批判記事を書きやすくなります。「批判が批判を呼ぶ」悪循環が引き起こされ、会社の信用がガタ落ちになれば、最悪の場合、存続の危機に陥ることにもなりかねません。
 ここでは、私が記者たちを直接取材して彼らが企業広報に「やってほしくない」、あるいは「やってほしい」と考えていることを「七つの戒め」にまとめました。今回(第5回)の連載記事では、4~7つ目の戒めをご紹介します。

第5回 守りの広報、メディアの「本音」とは~記者からの「7戒」②4~7戒

■第四戒 遅い対応はNG タイミング良く情報を出し続けるのが吉

 記者に評判が悪い企業の対応に「遅すぎる対応」があります。不祥事が起こった際に、経営者が会見を避け、逃げてしまうこともあります。また、経営者が腹をくくって会見を開こうとしても、幹部らが「まだ必要な材料がそろっていませんから、会見してもちゃんと答えられませんよ」などといって、時期を引き延ばすことがあります。しかし、私の先輩記者は「材料などはいつまでたっても完全にそろうことはない」と指摘します。ずるずると会見を引き延ばしている間に、多くのスキャンダラスな報道が出て、結局は社長が会見に引っ張り出され、集中砲火を浴びるというパターンになります。
 会見では、記者から事実関係を追及されるだけでなく、「なぜ発表を先延ばしにしたのか」「隠蔽してきた理由は何か」などの質問が相次ぐでしょう。記事の内容は、自社が進んで発表したケースの何倍も厳しくなるはずです。大きな不祥事があった場合は、企業側からすれば「拙速だ」と思えても、逃げずに、できる限り早く情報開示をする方が身のためといえるでしょう。
 企業広報の方からは、拙速に会見すると、会見場で「その部分については確認したうえで後ほどご連絡します」という事項が増えてしまい、記者から批判を浴びるのではないかという声があるかもしれません。しかし、会見もせずに経営者が姿も見せない、という企業の姿勢よりははるかに好感をもたれるでしょう。会見時に答えられないことについては、調べた上で、記者に対してできるだけ早く誠実に個別回答すれば、批判は抑えやすくなります。
 さらに、記者側が求めるのが、単に早めに情報開示をするだけではなく、最初の発表の後も必要な情報を迅速に出し続けることです。不祥事についての発表は1度やれば安心というわけではありません。必要な情報はできる限り隠さずに、できるだけ早いタイミングで的確に発信する必要があります。企業側としては「1度会見したのだから、それ以上は情報提供する必要はないのではないか」と思うかもしれません。しかし、発表をしないまま、不祥事の新情報が週刊誌などに暴かれると、新聞やテレビなどに報道が波及し、さらなる大きな騒ぎになるという悪循環になってしまいます。一方で情報開示に積極的な企業については、メディアも「しっかりと情報提供し、社会的責任を果たしている」と見ますから、過度に厳しい追及をしづらくなるのです。

■第五戒 「社会部と経済部の記者は大きく違う」ことを理解しよう

 企業に多くの部署があるように、新聞やテレビの記者にも、それぞれ部署があります。中でも、広報担当者の方々に知っていただきたいのが「社会部と経済部の取材姿勢は大きく違う」ということです。社会部は事件や事故などの担当、経済部や企業報道に携わる記者は、あくまで企業の戦略や業績などについての担当だからです。
 企業が不祥事を起こした際に取材する社会部の記者は、あくまでその事件の真実は何かを追究し、それをどう報道するかを考えます。一方で経済部の記者は、その不祥事を受けて、企業がどう対応するか、再発防止策は何か、業績への影響はないか、などを取材して記事にするわけです。
 しかし、私のある先輩記者(経済部系の記者です)は「メディアに知識のない企業は、社会部と経済部の記者を同じにみて、敵だと思い込んでいる」と嘆いていました。その結果、経済部の記者に対しても、できる限り情報を提供しないようにして、すべての記者を敵に回してしまうというわけです。
経済部など企業担当の記者は、不祥事が起こった後も企業とお付き合いしなければなりません。社長の後任人事なども取材しなければなりませんから、事件終結後は別の事件に向かっていく社会部の記者とは対応や態度が違います。経済部など企業担当の記者は、不祥事後の企業の再発防止策などを大きく報じてくれる可能性があるだけに、ある意味では「企業の味方」にもなりえる存在です。出来る限り丁寧かつ迅速に、情報開示をすれば、報道を通じて、企業イメージ回復に結果的に協力してくれる面もあると思います。ですから、社会部系と経済部系の記者の区別のつかない企業はイメージ戦略で大損をしてしまうリスクが大きくなるわけです。

■第六戒 広報への信頼が会社を救う 社会の常識と会社の常識のズレを埋められるか

 多くの記者が異口同音に言うのが「広報担当者への信頼が会社を救う」ということです。私のかつての同僚記者は「記者も人間だから、取材対象の人間性をみて記事を書くことがある」と話していました。日頃からの付き合いがあり、広報が記者の信頼を得ているかが、記事にも影響を及ぼすことがあるというわけです。公平性の観点からどうなのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、企業広報が信頼されているかどうかで、企業が発表した内容も記者側の信頼を得られるかどうかが変わってくる部分があるということだと思います。
 また、私の先輩記者は「企業では、会社の常識と社会の常識のズレがあることが多い。広報担当者がそのズレを埋められるかどうかで不祥事への批判の程度が違ってくる」と話していました。自社内で「このくらいの情報開示で十分だろう」という過度に少ない情報しか発表しないような論調が強まった際に、社会の常識としては「より広範囲の情報開示が必要だ」と主張できるのは、社会に直接つながっている広報担当者です。
仮に広報担当者までもが内向きになり、自己保身だけを考えてしまえば、会社全体が内向きになります。もちろん、こうした会社の姿勢を記者はすぐに見抜いてしまいます。こうなれば、広報担当者への信頼は地に落ちてしまいます。結果として、その企業は「隠蔽体質である」という悪いイメージが定着し、批判が批判を呼ぶ最悪の結末を迎えるリスクがあります。広報担当者は会社を守る最後の砦だともいえるのです。

■第七戒 広報はトップと直結し、真実を把握している必要がある

 時々あるのが、広報担当者がそもそも不祥事について経営者らから本当のことを知らされていないというケースです。これは広報担当というよりは、会社自体の問題といえるかもしれません。結果として、記者が「広報担当者から嘘を教えられた」「広報担当者が何一つ知らない」などと心証を悪化させ、強い批判記事を招くことになります。
 私の先輩記者は「広報担当者はトップと直結し、常に真実を把握している必要がある。その分、優秀な人がやるべきだ」と話していました。実際の立場や能力はどうあれ、広報担当者は外部の人から「企業の顔」だと見られています。広報担当者が何を聞いても知らなかったり、間違った情報を出したりしていれば、企業全体のイメージは極めて悪くなります。
 広報という考え方が浸透していなかった数十年前であればいざ知らず、多くの企業にとってしっかりした広報担当者が社外に対して適正に情報開示するというのは、現在では普通のことです。社内の広報担当者にすら重要な情報を隠すような会社は、記者からも「隠蔽体質が染みついている」と認識され、まったく信用されませんし、メディアからの強い批判を浴びやすくなります。
広報担当者も優秀であればあるほど、そのような隠蔽体質の会社を見限って、転職してしまうでしょう。情報を共有してもらえなければ、自分も仕事にならないからです。優秀な広報担当者が転職してしまうような会社は、メディアからも批判をされやすくなります。その広報担当者が転職後に会社の隠蔽体質について記者に愚痴をこぼし、その情報が広がることも考えられるでしょう。企業経営者は、能力のある人材を広報担当に配置して、トップが直結させ、正しい情報を共有することこそが、誤解に基づいたメディアの批判から自社を守るための大きな一歩だと心得ていただきたいと思います。

執筆者情報

profile_photo

日高広太郎

1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。その後、小売店など企業担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなど多くの国際会議で日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年に東証一部上場のBtoB企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。年間のメディア掲載数を就任前の80倍超、月別、四半期別では100倍超に増やし、認知度向上に貢献した。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。クライアント企業のメディア掲載数を急増させている。
著書に『 BtoB広報 最強の攻略術』(すばる舎)がある。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

中小企業「一人勝ちPR術」

記事の一覧を見る

関連リンク

第一部 第4回 守りの広報、メディアの「本音」とは~記者からの「7戒」①1~3戒

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2023/img/thumbnail/img_65_s.jpg
 広報PRには「外部効果」、「内部効果」、「守りの効果」の3つの効用があります。連載記事の第5回目の今回は前回に続いて、「守りの広報」についてお話しします。守りの広報とは、不祥事などがあった際に適切に情報を開示し、メディアや読者、視聴者からの過度の批判や自社ブランドの棄損をできる限り抑えることです。 攻めの広報と同様、守りの広報でも「相手を知る」ことが第一歩です。企業で不祥事などが発生した際に、記者が「会見で、こんなことだけは企業にしてほしくない」、逆に「企業にこうした対応を取ってほしい」ということを知った上で、適切な行動を取ることが必要です。メディア慣れしていない企業では、会見を短い時間で一方的に打ち切ったり、記者が聞いていることに全く答えなかったり、といった対応がよく見られます。不祥事に加えて、この対応の悪さがメディア側の心証を悪化させ、いよいよ厳しい批判記事を招くことになります。批判の矛先が不祥事そのものだけでなく、企業の対応の悪さにまで向かってしまうからです。 インターネット社会では、こうした記事がすぐにSNSなどで拡散されてしまいます。ネットで「この会社は会見で不誠実な対応をとっており、反省していない」などといった批判が盛り上がると、メディアは次の批判記事を書きやすくなります。「批判が批判を呼ぶ」悪循環が引き起こされ、会社の信用がガタ落ちになれば、最悪の場合、存続の危機に陥ることにもなりかねません。 ここでは、私が記者たちを直接取材して彼らが企業広報に「やってほしくない」、あるいは「やってほしい」と考えていることを「七つの戒め」にまとめました。今回(第5回)の連載記事では、4~7つ目の戒めをご紹介します。
2023.01.19 16:27:56