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財産の戦略デザインの作り方 その2

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 前回の稿で、財産の戦略デザインは、まず「まもり」から始めることを説明しました。
 自社株の管理と承継、自社株以外の社長の重要な財産、納税、家族の円満、これらの4点を強固にまもるデザインを考えることが重要として、前回は全体を概論的に述べました。
 今回からはそれぞれについてポイントごとに。4つのなかでも特に重要な自社株の管理と承継の戦略デザインについて考えてみたいと思います。

自社株の管理と承継の戦略デザインづくり

①すべての権力は株主である社長に集中している

 社長は、会社のオーナー(株主)であり、会社の代表取締役です。所有と経営が一体となっている未上場会社の社長の場合、社長の財産の戦略デザインは、社長がもつ自社株をまもることをその基本とします。
 定款に別段の定めがあるときや取締役会設置会社を除いて、会社の取締役は会社の業務を執行します(会社法348条。以下、会社法を会とします)。取締役会設置会社を除く株式会社は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができます(会349条)。このように会社法では、代表取締役である社長は、会社を代表して会社の業務を執行しています。
 取締役の選任は株主総会の決議で決定します(会329条)。取締役は任期がありその任期が終了すると、取締役だった人は株主総会で選任(重任)されなければ、取締役で居続けることができません。
 社長が発行済み株式数の過半数を有していれば、自身を取締役に選任し続けることができます。また、自身の会社経営に協力的な人を取締役に選任することができます。社長が選任した取締役なので、社長が代表取締役となることに異を唱える人もいないでしょう。
 このように株主である社長にはすべての権力が集中しています。社長が発行済み株式を過半数持っていれば、社長は代表取締役として業務を執行しつづけることができます。しかし、社長にすべてが集中していることが当たり前すぎて、社長は、日頃、これらの会社法の規定をあまり意識することはないでしょう。

②戦略の基本は自社株を集中しまもる

 社長の財産の戦略をデザインする者は、この当たり前を維持し続けられるようデザインを描いていかなければなりません。社長の財産の戦略デザインの基本は、社長と後継者に自社株を集中しまもり続けることです。
 社長が経営を続けるかぎり、社長が株主として議決権を行使し続けられるようにすること、そして、後継者が社長に代わって会社経営を担うようになれば、後継者が後に自社株を持てるよう、社長の財産の戦略をデザインしていきます。

③後継者が決まった社長と未定の社長の戦略デザインは異なる

 後継者が決定している社長と後継者未定の社長では、財産の戦略デザインが異なります。

・後継者が決定している社長

 後継者が決定した社長は、後継者に経営をバトンタッチする時期と自社株を渡す時期を決めていきます。財産の戦略デザインは、自社株をいつ渡すか、そして渡したときに生じる負担や不公平感をどう軽減するか、これらを中心に考えて描いていきます。
 後継者を会社の代表取締役にして会社経営をバトンタッチしても、おおかたの社長は、社長が自社株を引き続き所有し、社長が亡くなったときに後継者に自社株を承継します。
 このような社長の財産の戦略デザインは、社長が亡くなるときを中心にして社長の財産について考えていかなければなりません。しかし、社長はいつに亡くなるかは誰にもわかりません。財産の戦略デザインの肝は、株式を集中しそれをまもることと先ほど述べました。社長が、今すぐに亡くなったとしても、ずっと先に亡くなったとしても、会社経営に影響がでないよう株式を集中してまもる戦略をデザインしていくことが必要です。
 社長が今すぐに亡くなっても、自社株を集中してまもるための戦略のデザインの肝は、後継者への確実な自社株承継、自社株を承継する後継者が確実に納税できること、後継者以外の社長の相続人にわだかまりを生じさせないことの3点です。この3点を実現できるような財産構成になっているか、社長の財産の内訳とその金額を把握して、財産の戦略をデザインし、3点を実現する戦術を検討していかなければなりません(戦術については、後に述べます)。
 人生100年時代です。後継者を代表取締役として経営を承継しても、株式を社長が所有したままでは、社長の認知症のリスクがあります。社長が認知症になると、社長が所有する自社株の議決権の行使ができません。そのようなことに備え、信託や任意後見なども時期を見ながら検討していくとよいでしょう。長生き時代に合わせた財産の戦略デザインも必要になります。

・後継者未定の社長

 後継者未定の社長は要注意です。未定ゆえに財産の戦略デザインづくりの必要性を認識していないでしょう。
 準備ないまま突然に社長が亡くなると、財産の戦略デザインの肝である、自社株を集中してまもることができず、会社経営において一気に暗雲が立ち込めます。
 後継者未定の社長の会社は、社長以外の取締役が何人いるかの把握がまず重要です。社長1人だけならば、すぐに取締役を選任しなければなりません。取締役は株主総会で選任すると先ほど述べましたが、株主は、社長の相続人です。相続人が複数の場合には、誰が議決権を行使するのかを決めて、会社に通知をしなければ議決権を行使することができません(会106条)。社長を誰にするのか、なかなか決定しないままに時間がすぎれば、会社の経営は滞り、対外的な取引にも影響がでます。例えば、社長が突銭になくなったときに、会社の資金が不足することに備えて会社が契約した生命保険金の受取り手続き、社長が決まっていなければできません。
 後継者未定の社長は、自身の突然死というリスクに備える戦略を検討しておかなければなりません。後継者が決まったら、自社株の承継、納税、遺産の分割について考えようと社長が考えていたら、それはとても危険です。是非、備えておいていただきたいと思います。

④戦術よりもまずは戦略を考える

 相続や事業承継では、相続税対策、遺産分割対策などのように、その対策法が注目されます。注意していただきたいのは、対策は戦術であり、戦略なき戦術はうまく機能しないこともあります。対策だけに注目せずに、まず戦略をしっかり立てて、社長の自社株の管理と承継について戦略をデザインしていただきたいと思います。
 財産の戦略デザインは、社長の財産構成と内容により異なります。社長の合ったデザインを描けるよう、デザインを作成する者は、社長の「思い」と財産構成などの「事実」をできる限り多く把握してデザインを検討しなければなりません。
 社長の財産の戦略デザインは、まず、社長の思いと事実を把握することから始めていきます。
 財産構成の「事実」の把握は、財産の戦略づくりのステップ1~3で解説したように、社長の個人財産のB/Sを作成しながら進めるとよいでしょう。

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執筆者情報

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石脇俊司

株式会社継志舎 代表取締役

証券アナリスト協会検定会員、CFP®、宅地建物取引士資格取得

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て2016年株式会社継志舎を設立。
継志舎では、企業オーナーや資産家の民事信託を組成するサポートサービスを行うとともに、不動産会社、証券会社、保険会社などに信託を活用したビジネスに関するコンサルティングを行っている。信託の組成を支援するコンサルティングプラットフォーム【信託の羅針盤トラコム®】の開発し、税理士、司法書士、FPなどに提供している。
これまで組成に関与した民事信託は110件を超え、上場企業オーナー、中小企業オーナー、地主など幅広く民事信託を活用した相続・事業承継の対策をサポートしている。
また、一般社団法人民事信託活用支援機構の設立(2015年)に関与し、同法人の理事を務めている。

主な著書
・中小企業オーナー・地主が 家族信託を活用するための基本と応用(共著 大蔵財務協会)
・税理士が提案できる家族信託 検討・設計・運営の基礎実務(共著 税務経理協会)
・パッとわかる 信託用語・法令コンパクトブック(執筆者 第一法規)

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2023.02.10 17:08:33