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財産の戦略デザインの作り方 その1

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 前回の稿まで3回にわたって社長の財産の戦略づくりのステップを説明しました。
 社長の財産リストを作成し、リストから個人財産のバランスシートを作り、バランスシートを社長と一緒見るというステップをふまえて戦略づくりを行っていくことの説明をしました。
 今回から、社長の財産戦略を社長の意向に応じてデザインする「財産の戦略デザイン」を作っていく流れについて述べていきたいと思います。いよいよテーマの中心部分へと進んでいきます。

「まもり」からデザインを始める

 社長の意向に合わせて戦略をデザインするために、アドバイザーは、まず、社長の意向を把握していかなければなりません。デザインには、社長の「思い」と「事実」の把握が必要です。事実は、財産のリストやバランスシートを作る過程で把握しました。その事実から、戦略をどのようにデザインしていくか。デザインの過程では、社長の「思い」に合わせて戦略を作り上げていきます。
 戦略のデザインには、まずは以下の4点を「まもる」ことから考えていきます。4点とは、①事業継続にむけた自社株の管理と承継、②自社株以外で社長にとって重要な財産、③確実な納税、④家族の円満です。この4点の守りが強固なら、社長の財産は安泰です。まずはまもりを固めていくことから始めていきます。

①事業継続にむけた自社株の管理と承継

・自社株の管理

 自社株の管理は、株主の社長が行っています。管理を安定して継続する戦略のデザインを考えていきます。
 高齢な社長の場合には、社長の健康上の理由で管理の継続が難しくなることも考えられます。管理できなくなるリスクに備えて、管理を社長ではなく他者が行うのがよいか、その場合には適切な他者は誰なのか、どのような仕組みで管理を継続するかなどを社長の意向に合わせて考えていきます。
 若い社長でも、突然の事故などにより社長が管理できなくなることもあります。そのような状況になっても管理の継続性を確保するにはどうすればよいか?
 社長が若くても高齢でも備えは必要です。備えるためにどうしていくのか、アドバイザーは社長の意向を把握しながら、社長と一緒に考えていきます。

・自社株の承継

 社長が行っている事業を継続するためには、事業の承継者が必要です。承継者が決まっている社長は、承継者に確実に承継する方法を確保しなければなりません。いつ、どのような方法で自社株を承継するか、アドバイザーは社長が考えていることを共有してもらいながら検討していきます。
 承継者が決まっていない社長は、まずは決まっていない状況で承継が必要な事態、たとえば社長が突然になくなることへの備えを検討します。今は決まっていないが、後に承継者を決められると思っている社長も多いでしょう。しかし、それまでの間に、万が一のことが生じたら、残された社長の家族が自社株の承継者を決めることも難しいでしょう。社長が若くても元気でも万が一の事態への備えが必要です。
 後継者がいない社長には、アドバイザーは社長の意向を十分に把握する必要があります。事業を終了するのも、他者に渡たすのも、社長は断腸の思いで決断していかなければなりません。無計画に時間を過ごすのではなく、いつまでにどうするか、社長の意向をふまえて、自社株を他者に渡す戦略、事業を終了する戦略をデザインしていかなければなりません。

②自社株以外で社長にとって重要な財産

 社長にとって重要な財産は自社株ですが、自社株以外の財産で、社長が将来にわたりまもり続けたいと思っている財産について、その管理と承継のしかたを検討していきます。
 両親から相続した代々にわたって承継し続けている不動産をまもりたい、絵画、書、骨頭などの美術品など社長の思い入れがある財産があるか、その存在を把握し、まもり続けていく方法を考えていきます。

③納税

 納税は国民の義務ですが、納税額を少なくしたいと思う方がほとんどでしょう。財産の承継には相続税が、財産から得る収入には所得税が課税されます。納税計画は、社長の財産をまもるために欠かせません。社長の財産の状況から、今後必要となる納税額を試算して、財産の管理と承継の方法を、社長の意向にあわせてデザインしていくことが必要です。
 しかし、間違ってはいけないのが、税を減らすことばかりにとらわれて戦略をデザインすると、望ましい財産の状況から変形し、どこかに負担が生じます。節税のために構成しなおした財産内容によって、相続した家族がその財産をまもり切れず、やむを得ずに処分することにもなりかねません。節税も必要と考えますが、節税のために、社長の意向が将来に実現しないのは、あやまった戦略デザインです。そのためにもアドバイザーは、計画的に納税ができる戦略をデザインする必要があります。
 税に関するため、このデザインは税理士の関与が必須です。

④家族の円満

 財産の承継のしかたが原因で、家族のわだかまりが生じることが多々あります。わだかまりが一旦生じてしまうと、その修復はかなり難しいでしょう。残念ながら、筆者は、わだかまりが生じている家族を多数見ています。是非、読者の皆さんには、わだかまりが生じない財産の承継を目指していただきたいと思います。
 家族にわだかまりを生じさせない財産の承継方法を社長といっしょにデザインしていくのがアドバイザーの課された役目です。家族が円満であってこそ、承継された財産が活かされます。アドバイザーは社長の依頼を受けて社長の財産の戦略デザインを作っていきますが、家族の円満をまもる戦略デザインは、財産を承継する人の身になって考えていく技術が必要です。技術といっても根本は簡単で、「自分がその身になったらどう考えるか」、と考えていくことです。自分だけが少ない、負担が他の家族よりも多い、他の家族に比べて何か損していると感じる、といった思いが生じれば、誰でも不満です。その不満を経済的、心理的にどう補足するか、それを考えながら戦略をデザインしていくことが欠かせません。

執筆者情報

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石脇俊司

株式会社継志舎 代表取締役

証券アナリスト協会検定会員、CFP®、宅地建物取引士資格取得

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て2016年株式会社継志舎を設立。
継志舎では、企業オーナーや資産家の民事信託を組成するサポートサービスを行うとともに、不動産会社、証券会社、保険会社などに信託を活用したビジネスに関するコンサルティングを行っている。信託の組成を支援するコンサルティングプラットフォーム【信託の羅針盤トラコム®】の開発し、税理士、司法書士、FPなどに提供している。
これまで組成に関与した民事信託は110件を超え、上場企業オーナー、中小企業オーナー、地主など幅広く民事信託を活用した相続・事業承継の対策をサポートしている。
また、一般社団法人民事信託活用支援機構の設立(2015年)に関与し、同法人の理事を務めている。

主な著書
・中小企業オーナー・地主が 家族信託を活用するための基本と応用(共著 大蔵財務協会)
・税理士が提案できる家族信託 検討・設計・運営の基礎実務(共著 税務経理協会)
・パッとわかる 信託用語・法令コンパクトブック(執筆者 第一法規)

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2023.01.20 15:09:41