資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)の解禁②
スーパーの豆腐コーナーあたりに並んでいるのは米麹ベースの甘酒が多いようで、隣に酒粕も置いてありました。一方、先週末とあるイベントの出店で甘酒を買い、原料を聞いてみましたら、酒粕でした。酒粕をミキサーでかくはんしてつくるのだと製法まで教えてくれました。
資金移動業者の話の続きです。
資金移動業者を分類してみた
「資金移動業者」とはどういうものかを理解しないとこの改正は理解できないはずという立場に立って、金融庁に登録されている84業者(令和4年12月現在)について「資金移動業者登録一覧」という資料をもとに分類してみました。その結果は下表のとおりです。
ちなみに「資金移動業」の定義は、一般社団法人日本資金決済業協会の「資金移動業の概要」をご参照ください。
資金移動業者類型別一覧
類型 | 説明 | 件数 |
外国人向け海外送金サービス | 41 | |
スマホ決済アプリ | スマホのアプリにチャージをすることにより店舗等で支払いができるサービス。「○○ペイ」等 | 10 |
Fintech系 | 新たな金融サービスや決済方法等を開発するITベンダー等 | 8 |
金融会社系 | カード会社、証券会社、決済代行会社等が資金移動業者として登録するケース | 7 |
マルチペイメントサービス | 店舗等に対して様々な決済サービスを一括して提供 | 5 |
給与前払サービス | 給与を支給日より前に受け取るニーズに対するソリューションを提供 | 4 |
海外旅行者向けサービス | 2 | |
その他 | 3 | |
不明 | 4 | |
計 | 84 |
※筆者がそれぞれの会社名を検索し、そのWebサイトのサービス案内から独自に分類したもの
この結果をご覧になって、どうお感じになるでしょうか。筆者は少し驚きました。よくある「資金移動業者(○○ペイなどのスマホ決済サービスを運営する会社)」などといった表現が実態を表していないのがよくわかると思います。もっとざっくりと分類するとすれば、「外国人向け海外送金サービス」がほぼ半数、それ以外が約半数ということになります。
これら以外にも知らないサービスがたくさんあり、また、現に開発されつつあるということがわかり、今後も今までになかった想像できないようなサービスが実装されて世の中に出てくるのかもしれません。
ちなみに厚生労働省は「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」の冒頭で、
『キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、…』
といった表現を使っていますが、より正確に実態を表しているように思います。
「送金サービス」を何となくスルーしてしまいがちなのは、銀行ATMやカードを使った「送金サービス」も広い意味では「デジタル」なのでしょうけれど、なんとなく「デジタルマネー」や「デジタル払い」と言ったときに、手元のスマホの操作でお金を動かせることをイメージしてしまうことからなのだろうと想像しています。
メディアによる報道等では「キャッシュレス決済」に視点が行きがちですが、「送金サービス」も重要な類型となっているわけです。
それぞれの類型について、以下見ていきます。
外国人向け海外送金サービス
外国人が日本の銀行に口座をつくるのが困難なケースがあります。筆者もこのような方が数十人いる企業のケースを実際に経験したことがありますが、現行では現金での支払いをするしかありません。金種をそろえて現金で手渡すことの煩雑さは、経験したことのない方でも想像に難くないでしょう。
賃金支払が可能となるのは資金移動業者のうち厚生労働省の指定を受けた「指定資金移動業者」だけですので、約40ある「外国人向け海外送金サービス」のうちすべてが対応可能となるわけではないと思いますが、このようなケースの海外の家族等への送金ニーズとともに課題解決に寄与することになるはずです。
給与前払サービス
現時点で数は少ないですが、「給与前払サービス」を見ていきましょう。
「前給」と呼ばれたりしますが、主としてアルバイトの方々向けに、給与の支払日よりも前に給与を払うためのサービスがあります。アルバイト側からのニーズと、人材確保のためそのニーズに応えたい企業側の必要性に対応するものです。
すでにスマホのデジタルウォレットに前給をチャージするというサービスも存在するようですが、これは法的な「賃金」ではなく、会社から本人への社内融資であるという整理を前提としているようです。
法的に正式に解禁となれば、この類型への参入はより増えてくるものと想像できます。
スマホ決済アプリ
上記二類型のような事情がない場合の「○○ペイ」への賃金支払はどうでしょうか。まず考えられるのが、スマホ決済アプリを運営している会社です。銀行が自社の銀行口座への振込を促すのと同じ構図です。
それ以外の一般的な企業の場合、当面「○○ペイ」への賃金支払に対応する必要はないと考えてよさそうです。企業が資金移動業者の口座への賃金支払を行うときに本人の同意が必要、という話であって、本人から希望があったときに義務が生じるわけではありません。
万が一、「○○ペイ」への賃金支払について問い合わせがあったときには、多彩なチャージ方法があることを教えてさしあげてはいかがでしょうか。
「〇〇ペイ」によって多少の違いもあるとは思いますが、筆者が利用しているものは銀行口座からの自動や手動のチャージも可能ですし、それは避けたいという方であっても、自分の取引銀行だけでなく、コンビニのATMからもチャージが可能です。銀行口座を持っていて、前給のニーズもない方にとって、多彩なチャージ方法さえ把握していれば、ダイレクトに「○○ペイ」に賃金がチャージされる必要性は必ずしも高くはないと言えそうです。