HOME コラム一覧 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)の解禁①

資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)の解禁①

post_visual

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
年末年始には甘酒を飲む機会が多くなると思います。神社仏閣に出店が出ていたり、無料でふるまわれるようなこともあるでしょう。そこで甘酒って、そもそも「酒」なのでしたっけ?という疑問がもたげてくることがあると思います。
甘酒の原料は大きく分けて酒粕と米麹とがあり、酒粕の場合はアルコール分が含まれていますが、加熱の段階でアルコール分のほとんどが飛んでしまうものの、若干アルコールが入っていると捉えた方がよさそうです。一方で米麹が原料の場合はアルコールは含まれません。最近の発酵ブームもあってか、米麹ベースの甘酒をよく見かけるようになったように思います。
先日とある出店には「お子様も飲めます」という表示がしてありました。このような表示をしてくれることは多くないと思いますので、車での移動の途中であれば、原料などについて率直に尋ねてみるのがよいかと思います。
それでは新年最初のおしながきは「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)」です。

現金か、それ以外か

この改正を理解するにあたっては、賃金の支払方法に関する過去の改正の経緯から振り返って考えると理解が深まると思います。

1970年代前半まで 通貨(現金)のみの時代
1975(昭和50)年 銀行振込が通達にて許容 通達に記載された一定の要件を満たす方法による場合に限り、法第24条に違反しないものとする
1988(昭和63)年 銀行振込が法的にも解禁 法第24条の改正とともに上記通達の内容が施行規則に明記される
1998(平成10)年 証券総合口座が解禁  
2023(令和5)年 資金移動業者の口座が解禁  

賃金の支払いは銀行振込が当たり前と思っている方も多いと思いますが、法的には通貨(現金)払いが原則であることは今も昔も変わりがありません。こうして振り返ってみると、第一弾として銀行振込が解禁されたわけですが、通達にて実質的に許容された時代から法改正が行われるまで13年の歳月がかかったというのが時代の違いを感じます。現金での支払いをアナログと捉えれば、銀行振込も広い意味では「デジタル払い」であり、「賃金のデジタル払い」は約50年前にすでに解禁されているとも言えます。
こうしたこともあってか、厚生労働省はこの改正について「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)」というような表現を使っていて、「賃金のデジタル払い」という文言は、「いわゆる、賃金のデジタル払い」というようなニュアンスの位置づけとなっています。

定まらない言葉

「電子マネー」「デジタルマネー」「デジタル通貨」「スマホ決済」等々、様々な通貨や決済手段が次々に登場し、人によってそれぞれの言葉が持つイメージが異なっていたりするのは、多様化が急速に進みすぎて、それぞれの定義やカテゴリーが定まらないうちにまた新たな手段や概念が出てくることが背景にあると思います。
この改正の話をしているときに、『仮想通貨もOKなのですか?』と聞かれたことがありますが、「デジタル払い」という表現を見たときに、そういう受け止め方をする方もいるでしょう。この点について厚生労働省は、「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」特設サイトの「よくあるご質問への回答」にて下記のとおり回答しています。

質問 

賃金のデジタル払いを選択した場合、ポイントや仮想通貨などで賃金が支払われることがありうるのでしょうか。

回答 

現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払は認められません。

さすがに『デジタル払いって、50年前に解禁されてるじゃん?』という言い方をする人はあまりいないと思いますが、「デジタル」が持つ言葉の意味は多様であり、ふわふわとしていて、一体何を指しているのか、どこからどこまでを指しているのか、よくわからないのが正直なところです。

資金移動業者とは何か

じゃあ一体何が解禁されるのかと言ったときに、「資金移動業者」って一体何?という話になるはずです。
「資金移動業者」がどういうものかわからずにこの改正の話はできないはずなのですが、なぜかこの点を深掘りした情報はあまりありません。筆者自身も資金移動業者について正直言って詳しいわけではないのですが、調べてみました。
金融庁が「資金移動業者登録一覧」という資料を開示しています。令和4年12月現在で、84業者。ざっと見ていくと、カタカナや英語名の企業ばかり。有名な企業もちらほらありますが、聞いたことがない会社が多いようです。また、本社所在地は東京都がほとんどであることが特徴的です。
筆者は、資金移動業者とは一体何かを知るために、全84社を社名で検索してみましたが、なるほどこういうことなのか、何もわかっていなかった、というのが正直な感想です。

甘酒をアルコールが若干入っている可能性がある酒粕ベースのものと思っていると全体像が見えないのと同様に、資金移動業者を「○○ペイ」のようなサービスを提供している会社と捉えるのはちょっと違うということがわかるのですが、この点について次回詳しくお伝えします。

執筆者情報

加藤 正紀

社会保険労務士法人法改正研究所

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

人事労務の法改正茶屋

記事の一覧を見る

関連リンク

「求職者の個人情報の取扱いについての改正」③

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2023/img/thumbnail/img_64_s.jpg
あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。年末年始には甘酒を飲む機会が多くなると思います。神社仏閣に出店が出ていたり、無料でふるまわれるようなこともあるでしょう。そこで甘酒って、そもそも「酒」なのでしたっけ?という疑問がもたげてくることがあると思います。甘酒の原料は大きく分けて酒粕と米麹とがあり、酒粕の場合はアルコール分が含まれていますが、加熱の段階でアルコール分のほとんどが飛んでしまうものの、若干アルコールが入っていると捉えた方がよさそうです。一方で米麹が原料の場合はアルコールは含まれません。最近の発酵ブームもあってか、米麹ベースの甘酒をよく見かけるようになったように思います。先日とある出店には「お子様も飲めます」という表示がしてありました。このような表示をしてくれることは多くないと思いますので、車での移動の途中であれば、原料などについて率直に尋ねてみるのがよいかと思います。それでは新年最初のおしながきは「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)」です。
2023.02.09 14:53:01