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財産の戦略づくりのステップ その1

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 いよいよ具体論へと展開していきます。社長の財産の戦略をデザインしていくステップについて順をおって説明していきたいと思います。今回は、財産の戦略づくりに、まず、何を準備したらよいか? について。

戦略はアート

 社長の財産は百人百様です。財産への思いも同様です。
しかし、財産について外部から受けるアプローチは「節税」への手法が多くないでしょうか? 確かに税金が少なくなればそれは嬉しいかもしれませんが、本稿では、それは脇役にしかすぎません。
 社長は、社長の財産をどのように使って今後の自身の人生を充実させるか? そして、財産をどのように次世代に繋げて、自分亡き後の世を形作っていく燃料とするか? そのあたりの社長の浪漫の要素が戦略づくりには必要です。
 社長の財産の戦略は、財産の現状に社長の未来への思いを掛け合わせて作っていきます。百人百様の社長の思い、財産を形成してきた社長の情熱、そしてこれからの夢、これらを財産に掛け合わせてつくる財産の戦略は、サイエンスではなくアートの要素が濃いのです。

サイエンスとアートを掛け合わせる

 財産の戦略づくりには、社長の財産について、客観的な整理と分析が必要です。この整理と分析はサイエンスの要素が濃く、標準化して技術にすることができます。
 整理と分析をもとにして、社長の思いを掛け合わせ、将来、どのような財産へと形作っていくか、その工程表を作成していくことも財産の戦略づくりに含まれます。この工程表作成も標準化できる技術です。
 このように社長の財産の戦略づくりは、サイエンスの要素とアートの要素を掛け合わせて進めていくことになります。

まずは財産のリストを作る

 社長はどのような財産を持っているのか? それを整理することが、財産の戦略づくりのはじめの一歩です。
 筆者はこれまでにたくさんの社長にお会いしてきました。自身の手によって作成した財産の一覧表を持っている方、金融機関や税理士が作成した一覧表を持っている方、またはそのようなものは頭の中にすべて入っているから表にはしていないといった方など、いろいろなタイプの社長がいらっしゃいます。
 まずは、所有する財産を「見える化」することから取り掛かります。所有財産のリストを作ることから始めていくとよいでしょう。リストには、所有する資産に加えて、借入れなどの債務も加えます。

リストから個人資産のバランスシートを作る

 社長が所有する財産のリストを作成したら、そのリストを並び替えます。
 預金や投資信託などの金融資産を流動性の高い資産(流動資産)として、リストの上位に並べます。その後、不動産など(固定資産)を流動資産の下位に並べます。流動性の高いものから低いものへと順番にリストを並び替えていきます。
 また、生命保険の情報もリストに加えます。満期で得る保険金額、亡くなった時に得る保険金額をリストにし、生命保険も流動資産に位置付けます。
 社長が所有する自社株は固定資産に位置付けます。社長の株式は非公開会社の譲渡制限のある株式です(本稿では、おもに未上場会社の社長の財産について取り上げています)。そのため自社株は流動資産ではなく、固定資産と考えます。社長は会社に資金を貸し付けていることもあるでしょう。会社への貸付金も固定資産としてリストに位置付けていきます。
 このようにしてリストが整理できたら、それをバランスシートにしてみます。社長の個人資産のバランスシートです。

資産価額はどうする?

 個人資産のバランスシートを作る際、預金や金融資産の価額はすぐにわかります。しかし、不動産や自社株の価額についてはどの価額とすればよいか、迷ってしまうと思います。
 個人資産のバランスシートの作成では、価額に関するルールを決めておく必要があります。
 筆者が作成する個人資産のバランスシートのルールは、不動産は固定資産税評価額、自社株は会社のバランスシートの純資産額に社長の持株の割合を掛けた額としています。
 個人資産のバランスシートを相続税への対応を分析するものとして使用するならば、不動産や自社株の価額を相続税評価額とすることがよいでしょう。しかし、筆者の経験から、自社株の相続税評価額を定期的に算出している社長の数は、多くないと思っています。まずは、財産の現状を整理することを目標にしていただきたいと思います。一番把握しやすい方法である、不動産は固定資産税評価額、自社株は会社のバランスシートの純資産額を利用してみてください。
 資産の価額を把握すると、どうしても相続税のことが気になってくるでしょう。財産の戦略を考えるにあたり、税への対応をどうするかは重要なポイントとなります。しかし、価額は税だけではなく分け方や運用利回りなどの効率を考えていくことにも欠かせません。税、財産の分け方、運用効率など、どの課題を検討するのかにより、把握すべき価額は変わりますが、まずははじめの一歩として把握しやすい価額で個人資産のバランスシートを作成してみましょう。

流動資産の割合を算出する

 個人資産のバランスシートが出来上がったら、次に流動資産の割合を算出してみましょう。今後、社長の財産の戦略を考えていく際、社長の財産の流動性のある資産の割合は重要になります。
 ほとんどの社長は、社長の財産において自社株の占める割合が高くなっていると思います。財産全体に対して自社株の割合がどのくらいになっているかを確認しておくことも必要です。

連動するバランスシート

 社長の個人資産のバランスシートと社長の会社のバランスシートは連動します。会社の純資産額が社長の自社株の価額に連動します。会社純資産額が大きくなれば、社長の個人資産のバランスシートの自社株の額が多くなりバランスシートが拡大します。負債が増えていなければ、個人資産の純資産額も多くなり、社長の財産の流動資産の比率が下がることにもつながります。流動資産の比率が下がると、社長の財産について課題が生じてきます。会社のバランスシートと社長の個人資産のバランスシート、2つのバランスシートは、財産の戦略にも影響します。
 筆者は、会社のバランスシートはあまりチェックしていないという社長にたまにお会いすることがあります。会社のバランスシートは社長個人資産のバランスシートに連動するため、社長の財産の戦略づくりとその後のフォローには重要です。
 社長の財産についてアドバイスをする方は、会社のバランスシートの情報も常に入手しながらアドバイスしていくことをお勧めします。

執筆者情報

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石脇俊司

株式会社継志舎 代表取締役

証券アナリスト協会検定会員、CFP®、宅地建物取引士資格取得

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て2016年株式会社継志舎を設立。
継志舎では、企業オーナーや資産家の民事信託を組成するサポートサービスを行うとともに、不動産会社、証券会社、保険会社などに信託を活用したビジネスに関するコンサルティングを行っている。信託の組成を支援するコンサルティングプラットフォーム【信託の羅針盤トラコム®】の開発し、税理士、司法書士、FPなどに提供している。
これまで組成に関与した民事信託は110件を超え、上場企業オーナー、中小企業オーナー、地主など幅広く民事信託を活用した相続・事業承継の対策をサポートしている。
また、一般社団法人民事信託活用支援機構の設立(2015年)に関与し、同法人の理事を務めている。

主な著書
・中小企業オーナー・地主が 家族信託を活用するための基本と応用(共著 大蔵財務協会)
・税理士が提案できる家族信託 検討・設計・運営の基礎実務(共著 税務経理協会)
・パッとわかる 信託用語・法令コンパクトブック(執筆者 第一法規)

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2022.11.17 16:40:48