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社長には社長の財産の戦略づくりが欠かせない

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 社長は孤独です。会社の経営について、最終的にはすべて自分で決断しなければなりません。そんな会社経営に忙しい社長には、社長の個人財産について、社長のすべての状況をふまえた戦略をデザインする人が必要です。

社長は孤独 ゆえに常に情報を求める

 代表取締役は株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有しています(会社法349条4項)。
 会社法の通り、社長は会社の業務に関して包括的な権限を有し、会社の業務執行を決定しています。他の取締役に相談しながら業務執行を検討するのでしょうが、最後の決断は、社長が行います。
 未上場会社の中小企業の社長は会社の大株主でもあるため、すべての権限が集中しています。一手に権限を掌握しているため、社長は思うところに向かい経営することができますが、とても孤独です。
 決断が間違わないよう、社長は各方面から情報を取得しています。業務上、筆者は多くの中小企業の社長にお会いしますが、社長は常に新たな情報を求めています。社長は価値のある情報を届けてくれる人を常に探しています。

社長に価値のある情報を提供する者

 社長は決定するにあたり、判断材料があるととても助かるでしょう。多くのデータをもとに整理・分析された情報や、真の成功体験を社長に提示する者がいれば、社長はその者の情報を欲しいと思い、その者を傍においておきたいと思うでしょう。
 仕事に関係することであれば、社長は勘所を押さえています。裏付けがあり信用するに足りる情報か否かを判別することもたやすいでしょう。また、情報の提供者についても善し悪しを判断することができるでしょう。
 しかし、社長の個人の財産のことについてはどうでしょうか。

財産の運用に関する情報は提供者が利益を得ることを目的とした情報が多い

 所得税や相続税の節税。社長の節税への関心は高いでしょう。
 節税になる商品への投資勧誘や商品広告はSNS等で多数見かけます。高利回りの金融商品や不動産への投資勧誘も同様です。最近は、円安、物価の上昇を根拠にさまざまな投資勧誘がより増えてきたと筆者は感じています。
 SNSは、発信者がたやすく情報発信できます。事業者は商品を「売る」ことを目的に情報を発信しています。そのため、情報の受け手側は、その情報を正しく理解する能力が必要です。
 しかし、投資等に関する情報は、その道の専門家でなければ情報の良し悪しを判断することが難しいと、筆者は思っています。
 不動産や金融商品への投資経験が豊富な社長ならば、投資に関する情報の判断基準を持っているでしょう。しかし、多くの社長は、自社の業務には専門家であるものの、財産の運用については素人かもしれません。
 簡単にたくさんの情報を取得することができるからこそ、発信される情報への理解を助ける仕組みや人が必要です。
 忙しい社長には、社長の財産についてそのようなサポーターがいるとよいなと筆者は思っています。

社長の財産には課題が多い

 運用が得意でなければ、社長は積極的に財産運用しなくてもよいでしょう。会社経営に集中して利益を出し、役員報酬を増やし、株価を上げていけば社長の資産は運用せずとも増えていきます。会社経営以外に財産運用といったことまでにも時間を取られることがなければ、社長も煩わしくないでしょう。
 しかし、積極的な運用をしないとしても、社長個人の財産にはいろいろと課題があります。社長はあらゆるリスクにも備えが必要です。
 社長の財産の相続について、これも考えておかなければならないことの1つです。
 将来、社長はかならず亡くなります。社長が亡くなれば社長の個人資産は家族に引き継がれていきます。家族にどのように継ぐのがよいのか。継ぎ方が異なれば相続人が納める相続税の額も変わります。また、社長が継ぎ方を決めていなければ、社長に突然相続が発生したときに、社長の遺産分割で家族がもめることにもなりかねません。

後継者が決まっていなくても自社株について考えておく必要がある

 社長の財産の中心は、経営する会社の自社株です。社長の経営努力が蓄積されて、自社株の価値に反映しています。価値のある自社株をどのように家族に承継するのか、その方法だけは考えておかなければなりません。
 たとえ現時点で後継者が決定していなくても、突然、社長が亡くなることのリスクに、社長は備えておかなければなりません。社長が亡くなれば、社長の自社株は遺産となり、後継者未決定のままで、相続人の家族が引き継ぐことになります。自社株を誰が相続するかが速やかに決まらないと、会社の経営にも影響が生じてしまいます。
 社長が元気なときにはこんなことは考えもしませんが、会社経営者としていかなるリスクにも備えておくことが欠かせません。

社長・会社・家族の状況をふまえて社長の財産について戦略を考える

 相続というと、相続税対策がまず思い浮かびます。税対策も必要ですが、税のみでなく社長を取り巻くさまざまな状況をふまえて、社長が望む「ありたい姿」へと続く道のりを見つけることが必要です。
 このありたい姿へと続く道のりを見つけることが、戦略を考えることです。
 社長が戦略を考えてもよいのですが、社長に寄り添って社長の財産の戦略を考える人がいるとよいと思います。

社長の財産の戦略をデザインする者とは

 戦略を立案するには、さまざまな情報が必要です。「ありたい姿」を目指す戦略は客観的な立場で立案されるとよいと筆者は考えています。
 財産について何かの手段を導入することを目的とするのではなく、社長が望む姿を目指す戦略です。そのため、手段を提供することで利益を得る立場の人は、社長の財産の戦略立案者にはなれないと考えます。
 社長を理解し、社長の目指す先を共感して、社長に寄り添って、社長だけの戦略をデザインする。そんな財産戦略デザイナーを社長は見つけていただきたいと思います。

 次回からは、社長の財産の戦略をデザインすることについて具体的に示していきたいと思います。

執筆者情報

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石脇俊司

株式会社継志舎 代表取締役

証券アナリスト協会検定会員、CFP®、宅地建物取引士資格取得

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て2016年株式会社継志舎を設立。
継志舎では、企業オーナーや資産家の民事信託を組成するサポートサービスを行うとともに、不動産会社、証券会社、保険会社などに信託を活用したビジネスに関するコンサルティングを行っている。信託の組成を支援するコンサルティングプラットフォーム【信託の羅針盤トラコム®】の開発し、税理士、司法書士、FPなどに提供している。
これまで組成に関与した民事信託は110件を超え、上場企業オーナー、中小企業オーナー、地主など幅広く民事信託を活用した相続・事業承継の対策をサポートしている。
また、一般社団法人民事信託活用支援機構の設立(2015年)に関与し、同法人の理事を務めている。

主な著書
・中小企業オーナー・地主が 家族信託を活用するための基本と応用(共著 大蔵財務協会)
・税理士が提案できる家族信託 検討・設計・運営の基礎実務(共著 税務経理協会)
・パッとわかる 信託用語・法令コンパクトブック(執筆者 第一法規)

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 社長は孤独です。会社の経営について、最終的にはすべて自分で決断しなければなりません。そんな会社経営に忙しい社長には、社長の個人財産について、社長のすべての状況をふまえた戦略をデザインする人が必要です。
2022.10.27 16:27:39