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新しい発想! 財産の戦略をデザインする

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 筆者は、外資系生命保険会社、日系証券会社を経て、外資系金融機関にてプライベートバンキングの業務に従事しました。その後、外資系金融機関での上司が設立した信託会社で、上場・未上場企業のオーナーや資産家の財産管理や財産承継にオーダーメイドな信託を提案し、それを引き受ける業務を行いました。その後、独立し、現在は上場・未上場企業のオーナーや資産家の、いわゆる家族信託の仕組みづくりを支援する業務を行っています。

新しい発想! 財産の戦略をデザインする

 業務経験をふまえて、まず財産の戦略作りをすることが非常に重要と筆者は考えています。
 特に中小企業の社長は、法人が営む事業により事情もさまざまで、社長の財産は個性に富んでいます。社長の個性、人生感、そして社長の家族と財産の状況を把握して、社長に合った戦略をデザインすることが求められる時代が来ると、筆者は考えています。
 本稿では、まだ世に確立されていない「社長の財産の戦略をデザイン」することをテーマとして、「財産の戦略」をデザインするとはどのようなことを考え行動していくのかを具体的に読者にお伝えしていきます。

信託は複合的な視野をもって検討し、補完する仕組みを組み合わせることが欠かせない

 依頼者(信託の委託者)の財産全体(内容・額・状況)を把握して、依頼人の家族状況や財産管理・承継の希望を聴き、信託の設計を検討していきます。
 依頼者の意向や状況をふまえ、オーダーメイドに信託の仕組みを検討するには、信託法はもちろんのこと民法・会社法・借地借家法・税法など財産に関連する法律も理解して進めていかなければなりません。税理士、弁護士、司法書士といった士業の方々と連携し、各分野の専門的見地からのアドバイスや意見を得ながら、筆者は信託を検討していきます。お客様の希望を未来に実現するためには、複合的な視野をもって臨むことが欠かせません。また、信託による解決方法に限らず、他の方法も組み合わせながらお客様が実現したい財産管理、相続の実現を目指していきます。

すべてを自身で決定する社長には、寄り添って支援する者が必要

 社長の財産管理や承継を支援する業務を通じて、筆者は「社長の孤独」を感じることが多々あります。
 さまざまな人の意見を聞き、最終的に自身で判断し行動する社長には、寄り添って社長を支援する者が必要と感じています。特に、社長が専門家ではない、財産管理・運用や財産承継対策(相続対策)の領域では、より一層支援が必要です。
 資産運用や相続対策として、社長にはさまざまな提案がもちかけられます。提案者は、社長が提案を受け入れれば、販売手数料やスキーム構築報酬を得ることができます。報酬を得るために、提案者は必死に提案を行います。もちろん提案は社長のよき未来を実現するための提案であって、社長の利益を損なうこともないのでしょう。しかし、提案する対策は社長それぞれの個性をふまえたものであるべきと私は思っています。
 たとえば、不動産投資の経験がない社長に対する提案について。節税や相続対策になるといって、資金を借り入れて建物の建築や不動産の購入を勧めることや、社長がもつ流動性資金を固定化する不動産投資が、その社長に向いているか否かを考えて行わなければなりません。
 ビジネスだから、提案は自由であり、自身のビジネスを拡大していくためにも、広く提案することは必要です。しかし、人口が減少し地震が起こる日本において、不動産への投資はリスクも高いと筆者は考えています。不動産賃貸業も事業です。事業はしっかりと準備をして取り組まなければ失敗するのは、社長もよく知っているでしょう。
 また、不動産に限らず、持株会社に社長の株式を移転するスキームの提案や(金融機関は持株会社へ株式買取り資金を融資できる)、債券と称して一般の投資家では簡単に理解できないデリバティブが組み込まれた債券(仕組債)の投資勧誘は、社長、社長が経営してきた会社、そして社長の家族のよき未来を実現するものなのか、社長の個性を理解して社長の資産を守るため、孤独な社長に寄り添って社長を支援する者が必要と、筆者は考えています。

社長の財産の戦略をデザインする役割が必要になる

 社長の特定の課題に対処する方法の提案は社長にもわかりやすく、提案者のビジネスにも直結しやすいでしょう。節税対策はその代表かもしれません。税金は少ない方がよい、と思う方がほとんどでしょう。しかし、節税ばかりに注目し、その取り組みを進めた結果、将来思わぬ不利益が生じることがあるかもしれません。
 少し概念的な話しを。
 課題への対策実施は、戦術の実行です。戦術はある目標を達成するために行うことです。税金を下げるという目標や、運用利回りを上げるという目標を達成するために、商品の購入やスキームを実施することが戦術の実行です。
 では、税金を下げることや運用利回りを上げることは、なぜ社長に必要なのでしょうか?
 それは社長が実現したい社長の素晴らしい未来を実現するという社長の目的があるからです。目的の達成には、たどるべき「道のり」を決めることが必要です。この「道のり」を決めることが、戦略をデザインするということです。
 社長の目的を実現する「道のり」=「戦略」をデザインし、その道のりの途中に置かれた目標を1つずつクリアしていきます。目標をクリアするために、戦術(=対策)を実行していくのです。
 社長の財産には、事業、家族、社長の思いが複雑に絡み合っています。この複雑な絡み合いを客観的に分析して、自らが戦略をデザインできる社長は少ないと筆者は思っています。
 孤独な社長には、社長に寄り添って財産の戦略をデザインする者が必要なのです。必要とされるのにもかかわらず、現在、このデザインができる者は、残念ながらまだ少ないと筆者は感じています。

予告

 次回より、社長の財産の戦略デザインについて、読者の方々が理解して実行できるよう、各論を展開していきます。
 たとえば、「社長の財産承継の戦略デザイン」の稿では、社長の相続では、どの財産を誰(相続人)が承継するとよいか、その戦略の作り方を考えます。戦略作りに、「バランスシート」を活用します。「会社のバランスシート」と「社長個人の財産のバランスシート」の2つのバランスシートから戦略をデザインしていきます。2つのバランスシートを使い、「枠」で財産の属性をつかみ、社長の財産の管理・運用・承継の戦略をデザインしていくことなど具体的に言及していきたいと思っています。
 是非、次回以降をお楽しみしていただけますと幸いです。

執筆者情報

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石脇俊司

株式会社継志舎 代表取締役

証券アナリスト協会検定会員、CFP®、宅地建物取引士資格取得

外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て2016年株式会社継志舎を設立。
継志舎では、企業オーナーや資産家の民事信託を組成するサポートサービスを行うとともに、不動産会社、証券会社、保険会社などに信託を活用したビジネスに関するコンサルティングを行っている。信託の組成を支援するコンサルティングプラットフォーム【信託の羅針盤トラコム®】の開発し、税理士、司法書士、FPなどに提供している。
これまで組成に関与した民事信託は110件を超え、上場企業オーナー、中小企業オーナー、地主など幅広く民事信託を活用した相続・事業承継の対策をサポートしている。
また、一般社団法人民事信託活用支援機構の設立(2015年)に関与し、同法人の理事を務めている。

主な著書
・中小企業オーナー・地主が 家族信託を活用するための基本と応用(共著 大蔵財務協会)
・税理士が提案できる家族信託 検討・設計・運営の基礎実務(共著 税務経理協会)
・パッとわかる 信託用語・法令コンパクトブック(執筆者 第一法規)

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 筆者は、外資系生命保険会社、日系証券会社を経て、外資系金融機関にてプライベートバンキングの業務に従事しました。その後、外資系金融機関での上司が設立した信託会社で、上場・未上場企業のオーナーや資産家の財産管理や財産承継にオーダーメイドな信託を提案し、それを引き受ける業務を行いました。その後、独立し、現在は上場・未上場企業のオーナーや資産家の、いわゆる家族信託の仕組みづくりを支援する業務を行っています。
2022.09.30 10:45:45