「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」⑥

このシリーズの最終回は、4番目の要件「学生でないこと」を見ていきます。
学生であるときに、要件を満たす学生か否か
「学生でないこと」という要件は、これまでご紹介してきた要件に比べて比較的わかりやすく、学生でないならば要件を満たすという点は紛れがありません。一方で「学生である」場合に、要件を満たす学生なのか否かについては、以下のとおり意外に細かな点を確認する必要が出てくる場合があります。
学生ではあるものの要件を満たす学生に該当しないとされるケース
健康保険法は第3条で次のように定めています。
学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第五十条に規定する高等学校の生徒、同法第八十三条に規定する大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。
「高校生」「大学生」の他は省令に委任されているのですが、施行規則の該当条文を見ると、計50項目にも及ぶケースが掲げられています。すべてをここで掲げるのは省略しますが、まず、所属する教育施設に関わらず、学生に該当しないケースとして掲げられているのは次の3とおりです。
①卒業を予定している者であって、適用事業所に使用され、卒業した後も引き続き当該適用事業所に使用されることとなっている者
②休学中の者
③定時制の課程等に在学する者その他これらに準ずる者(通信制の課程、夜間において授業を行う学部等)
これらのケースは、学生だから要件を満たさない(=適用除外でよい)と判断しがちですが、学生ではあるものの加入要件としての「学生でない」に該当し、4番目の要件を満たすこととなりますので注意が必要です。
要件を満たす教育施設
健康保険法施行規則(第23条の6第1項)には、学生であるとして適用となる典型的な教育施設として、下記の施設が掲げられています。
・高等学校に在学する生徒
・中等教育学校に在学する生徒
・特別支援学校に在学する生徒
・大学(大学院を含む。)に在学する学生
・短期大学に在学する学生
・高等専門学校に在学する学生
・専修学校に在学する生徒
・各種学校に在学する生徒(修業年限が1年以上である課程を履修する者に限る)
これらに準ずる教育施設として、保育士、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師、理容師等々、職業別の養成学校や施設が33種別掲げられています。詳しくお知りになりたい方は、下記をご参照ください。
外国人留学生の場合
外国人留学生で、所属する学校がいわゆる日本語学校の場合、その学校が専修学校または各種学校(修業年限が1年以上である課程を履修する者に限る)に該当する場合に、適用除外となります。
4分の3基準を満たす場合
そもそも4分の3基準(週所定労働時間が40時間の企業の場合、週の労働時間が30時間以上)を満たしている場合は、4分の3基準には「学生でないこと」という要件はないため、学生であっても被保険者となります。
おわりに
複数回にわたって「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」と題して、解説してきました。
細かな説明を行ってきましたが、大きなポイントは表題のとおり、健康保険と厚生年金保険は加入要件が同一であるという点です。
一部例外もありますが、基本的に加入要件を満たした場合には両方に加入しなければならないということから、目先の単純な保険料と給付の損得勘定だけではかたづけることのできない背景や効果があるのですが、制度が複雑であるがゆえ誤解も少なくありません。
加入要件の観点にスポットを当てたこのシリーズは一旦終えますが、影響が多岐にわたる改正のため、新たな解釈や運用が出てきた場合には随時取り上げていきたいと思います。