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「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」②

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『人事労務の法改正茶屋』店主の東川藤衛でございます。
前回掲載「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」①は、社会保険の加入要件である【4分の3基準】を理解することがまず重要であることから、過去の改正をたどり、改めて【4分の3基準】というラインが明確に引かれた経緯をお話しました。

サッカーで言うならば

新たに拡大される加入要件の基準を仮に【新基準】と呼ぶこととします。
サッカーで言うならば、【4分の3基準】が、明確なラインが引かれているペナルティエリアだとすると、【新基準】はオフサイドラインのようなものといえましょう。それはまるでオフサイドラインのように、タイムラグを経て順次対象となる企業が拡大されるという動きのあるラインです。このように二つのルール、ラインがあることを認識したうえで、実務的に取るべきスタンスを確認していきたいと思います。

二つの視点

『パート・アルバイトは一人もおらず、社員はすべて社会保険に加入しています』『パート・アルバイトも含めすべて社会保険に加入しています』などといったケースであればよいとして、そうでない場合は、下記二つの視点で考慮していく必要があります。

A 【4分の3基準】を満たしている人がいないか
B 【4分の3基準】を満たしていないが【新基準】を満たしている人がいないか

A 【4分の3基準】を満たしている人がいないかの確認

よくよく調べてみると(または調べなくてもうすうすわかっちゃいるけれど)、そもそも【4分の3基準】を満たしている人なのに社会保険に加入できていなかった、ということは少なからず起こります。いまだにそんなことがあっていいの?とお感じの方もいらっしゃるかと思いますが、少なからずあります。

現行の【4分の3基準】は比較的シンプルで、労働時間の要件しかなく、やや牧歌的な雰囲気もあった2016年10月前と比べるといいわけのきかない内容となっています。ある人が要件を満たしているかどうかの確認もそれほど時間がかからないでしょうし、理解とか運用とかの問題ではなく、覚悟の問題と言えると思います。

例えばですが、社員が70人、パート・アルバイトが100人いる企業で、社員は全員社会保険に加入していたとします。一方、パート・アルバイトのうち50人は【4分の3基準】を満たしているのに社会保険に加入できていなかったということがあったとすると、これらの方々をまずは加入させなければなりません。
そして、【新基準】が適用されることとなる企業かどうかの企業規模の判断にあたっては、前々回掲載本日のおしながきは「社会保険の適用拡大」お示ししたとおり、【4分の3基準】において被保険者である者の数でカウントしますので、70+50=120となり要件を満たしてしまいます。そうすると、【4分の3基準】は満たしていないけれども【新基準】を満たすパート・アルバイトが15人いたとして、その方々も加入させなければならないという話に発展してくるわけです。

【4分の3基準】はそもそも企業規模に関係なく全事業所に適用される基準です。行政のリーフレットや案内文書は【4分の3基準】を満たしている人は社会保険にもちろん加入していらっしゃいますよね?というていでのぞんできますので、まずはここに注意が必要です。

行政からのお知らせとのギャップ

日本年金機構は、2022年10月に【新基準】が適用される見込みの企業については「特定適用事業所該当事前のお知らせ」として、下表のとおり通知を行う予定です。

通知が行われる時期

通知が行われる要件

対象期間

被保険者数の要件

20228月頃

202110月~20227

被保険者の総数が100人を超えた月が左欄の対象期間のうち5ヶ月以上ある場合

20229月頃

202110月~20228

ここでいう「被保険者の総数」は、日本年金機構側が把握している数となります。上記のように【4分の3基準】を満たしているにもかかわらず被保険者となっていない人がいるようなケースは、このお知らせが来ないというギャップが生まれることとなります。

B  【4分の3基準】を満たしておらず、【新基準】を満たしている人がいないか

実はここが今回の一連の改正の本題であり本質なのですが、今回を含めて3回にわたって前段の話をしてまいりました。次回からこちら本題の方の要件を具体的に見ていきたいと思います。

執筆者情報

加藤 正紀

社会保険労務士法人法改正研究所

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2022.05.24 17:22:16