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「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」①

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『人事労務の法改正茶屋』店主の東川藤衛でございます。
前回お話ししたとおり、本日のおしながき「健康保険・厚生年金保険の加入要件の拡大」は多くの論点(食材)で構成されていますが、本日はその中でもかなめの食材である「4分の3基準」について、お話ししてまいります。
どうぞ本日もごゆるりとおつきあいください。

1.「4分の3基準」について理解するということ

メインの食材である「4分の3基準」を理解することなしには、今回の一連の改正が消化不良の状態になってしまうと思っています。
世の中によくある誤解が、パート・アルバイトは社会保険に加入しなくてよいのでしょ?というものです。以前よりはこの誤解は少なくなってきたように思いますが、「うすうすダメなのかな?と気づきつつ加入しなくてよいと信じていたい(もう少しだけ)」といったようなケースも含めるとまだまだあちらこちらに残っている誤解といえましょう。
ちょっと遠回りにも思えますが、急がば回れということで、「4分の3基準」についての理解を深めるところから進めてまいりたいと思います。

2. 2016年10月の改正内容

実はこの「基準」、はっきりと「4分の3基準」と呼ばれるようになったのは2016年10月に改正が行われたときでして、それまでは「基準」と呼べるようなものではなくとても曖昧模糊としたものでした。
改正前後の状況を整理すると下表のとおりとなります。

20169

201610月~

1 日または 1 週の所定労働時間および 1 月の所定労働日数が常時雇用者のおおむね 4 分の 3以上

1 週間の所定労働時間および 1 月の所定労働日数が常時雇用者の 4 分の 3 以上

就労形態や職務内容等を総合的に勘案して常用的使用関係にあると認められる場合は被保険者として取り扱うことができる

(廃止)

改正前の世界観をお読みになり、どうお感じになるでしょうか。

3 .2016年9月までの「4分の3目安」

改正前は、行政内部での拘束力が「通達」よりもさらに弱い「内かん」と呼ばれる文書に定められていました。このような法的効力の弱い文書に「おおむね」などというあいまいな文言もちりばめられていたものですから、明確な「基準」と呼べるようなものではなかったわけです。
改正前を仮に「目安」と称するとして、よくよく読むと、目安を下回っている人が加入することについては歓迎ムードが漂っているわけですけれど、目安を上回っている人で加入しなくてもよいケースがあるといったようなことは一言も書いていないわけです。改正前の「4分の3目安」のラインの近くにある人を加入させるべきかどうかは微妙でしたが、少なくとも正社員と同じ時間働いているような人はパート・アルバイトでも加入しなければならなかったことは改正前からも明らかでした。

4. そして晴れて「基準」となった

短時間労働者の加入要件をさらに拡大し、「4分の3目安」未満の方も社会保険に加入させようというのですから、まずはこのあいまいな「目安」をはっきりとさせておく必要がありました。従業員数501人以上の企業へ適用拡大が行われた2016年10月に、同時に改正が行われることとなったのでした。
「おおむね」という文言は削除され、目安を満たしていない場合でも総合的に判断します、という「総合的勘案条項」も削除されて、晴れて「4分の3基準」と称されることとなったのです。

5. まるで「塩 少々」

料理のレシピでは、たいていは「大さじ1」や「小さじ2」など明確な指示がされています。たまに「塩少々」といった表現があり、「少々」ってどのくらいだっけ?と不安に駆られることもあるかと思いますが、実はこの「少々」も定義があり、小さじ1/8程度なのだそうです。
法律の世界でそんなあいまいなことがあっていいの?とお感じになるかもしれませんが、改正前の「おおむね3/4」はまるで「塩 少々」のようですね。

このようなあいまいな世界観に終止符を打ち、「4分の3基準」というラインが明確に引かれたことを踏まえたうえで、実務的にどう立ち向かっていくかを次回お話ししたいと思います。

執筆者情報

加藤 正紀

社会保険労務士法人法改正研究所

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2022.05.12 17:16:28