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相続の放棄があった場合の相続税法上の不利益

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(1)相続の放棄による相続税の取扱いの不利益

 相続の放棄があった場合に、相続税法上不利益となる規定には以下のようなものがあります。そのため、相続の放棄を行うか否かについて慎重に判断しなければなりません。
①代襲相続人となった被相続人の孫は、一親等の血族に含まれるため、相続税額の2割加算の対象とはなりませんが、その孫が相続の放棄をすると「相続人」ではないため2割加算の対象者となります。
②生命保険金及び退職手当金は、相続人が受取った場合には、非課税規定の適用を受けることができますが、相続の放棄があった場合には、相続人ではないため、非課税規定の適用を受けることはできません。
③相次相続控除は、相続人が相続により財産を取得した場合に適用されることから、相続の放棄があった場合には、相続人ではないため、この規定の適用を受けることはできません。
④相続を放棄し相続人ではない者については、債務控除の適用を受けることはできません。しかし、相続の放棄をした者でも、葬式費用を負担した場合においては、その負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することができます。

(2)相続を放棄した者が生命保険金の受取人の場合

①子が受取人である場合

 被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で、その保険料の全部又は一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象となります。
 受取人が被保険者の相続人であるときは、相続により取得したものとみなされ、相続人以外の者が受取人であるときは遺贈により取得したものとみなされます。
 この死亡保険金の受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません。)である場合、すべての相続人が受け取った保険金の合計額が次の算式によって計算した非課税限度額を超えるとき、その超える部分が相続税の課税対象になります。

500万円 × 法定相続人の数(※)= 非課税限度額

(※)法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。また、法定相続人の中に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までとなります。

 なお、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。
 そのため、相続を放棄した子は相続人ではないため、生命保険金の非課税金額の適用を受けることはできません。

②配偶者が受取人の場合

 配偶者が相続放棄をした場合でも、生命保険金は受取人固有の財産であることから、相続の放棄の効果は及びません。そのため、相続の放棄があっても生命保険金は受け取ることができます。この場合、遺贈によって取得したものとみなして相続税の課税対象となります。
 しかし、相続人でない者が受取った死亡保険金については、非課税規定の適用を受けることができません。一方、配偶者の税額軽減の規定は、「配偶者が相続又は遺贈によって取得した財産」についてはこの規定の適用を受けることができます。
 そのため、配偶者が受取った死亡保険金のみが相続財産の場合、法定相続分又は1億6,000万円のいずれか多い金額以下であれば、配偶者の税額軽減の規定に適用を受けることで納付すべき相続税はないことになります。

③相続の放棄によって次順位の者が相続人となった場合

 たとえば、尊属が相続人である場合に、尊属が全員相続の放棄をしたことで、被相続人の次順位の兄弟姉妹が相続人となることがあります。
 この場合に、被相続人が保険料負担者で、かつ、被保険者のときに、兄弟姉妹が保険金受取人であるときは、兄弟姉妹が受け取った生命保険金は、相続人が受け取った保険金となり、相続により取得したものとみなされ、生命保険金の非課税控除の適用を受けることができます。
 なお、兄弟姉妹は、配偶者及び一親等の血族でないことから、相続税額の2割加算の規定が適用されます。

このコンテンツの内容は、令和3年11月1日現在の法令等によっています。

資料提供(書誌出典)

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書名:侵害額を少なくするための遺留分対策完全マニュアル

発行日:2021年12月20日
発行元:株式会社 清文社
規格:A5判192頁
著者:税理士 山本和義 著
   弁護士・税理士 平松亜矢子 法律監修

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 相続の放棄があった場合に、相続税法上不利益となる規定には以下のようなものがあります。そのため、相続の放棄を行うか否かについて慎重に判断しなければなりません。①代襲相続人となった被相続人の孫は、一親等の血族に含まれるため、相続税額の2割加算の対象とはなりませんが、その孫が相続の放棄をすると「相続人」ではないため2割加算の対象者となります。②生命保険金及び退職手当金は、相続人が受取った場合には、非課税規定の適用を受けることができますが、相続の放棄があった場合には、相続人ではないため、非課税規定の適用を受けることはできません。③相次相続控除は、相続人が相続により財産を取得した場合に適用されることから、相続の放棄があった場合には、相続人ではないため、この規定の適用を受けることはできません。④相続を放棄し相続人ではない者については、債務控除の適用を受けることはできません。しかし、相続の放棄をした者でも、葬式費用を負担した場合においては、その負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することができます。
2022.05.16 11:50:30