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社員家族に支給する交通費等

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 新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、企業が、社員の同居家族にワクチン接種を推奨するほか、労災発生時の看護等を社員の家族に求めざるを得ないケースも増加しているとみられ、社員家族に交通費や宿泊費を負担した場合の税務相談が寄せられたことから、所得税の課税関係を整理した。

1 旅費の非課税

 旅費の非課税は、次のように規定されている(所法9①四)。
○ 給与所得を有する者(以下「給与所得者」という。)が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
 ここでは、就職若しくは退職をした者のほか、死亡退職した者の遺族が旅行をした場合も規定されており、対象者は給与所得者に限られていない。
 そして、使用者からその旅行に必要な支出に充てるものとして支給される金品の額が、通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲の金額を超える場合には、その超える部分の金額は、それぞれ次に掲げる所得の収入金額に算入するとされている(所基通9-4《非課税とされる旅費の範囲を超えるものの所得区分》)。
① 就職をした者 雑所得
② 退職をした者 退職所得
③ 死亡による退職をした者の遺族 退職所得(所法9条により非課税)

2 相談事例

事例1 社員同居家族に対するワクチン接種会場までの交通費の負担

【質問内容】
 当社の新型コロナウイルス対策は、社員に自身と同居家族の体調管理を依頼し、必要に応じPCR検査を受けさせるなど社員家族を含めた感染予防措置をしています。
 このような中、社員及びその同居家族が感染した場合の影響を鑑み、新型コロナワクチンの接種費用と交通費につき、同居家族分も、会社負担とする予定です。
 実施方法は、社員及びその同居家族を対象とし、経済団体実施の職域接種に、社員は就業時間を利用して参加するものであり、当社は、一人当たり4千円(会場費、医師、及び看護師の費用で、25人ごとに10万円)のほか、勤務先又は自宅から接種会場までの交通費を支給します。
 当社が負担する社員同居家族の交通費について、給与課税が必要ですか。

【回答】
 給与課税の必要はないと考えます。

【解説】
1 基本となる取扱い
 使用人(社員)がその職務又は地位に基づいて使用者から受ける全ての給付は、給与所得を構成するとされ、経済的な利益も含まれます。
 この点、使用者が福利厚生費として支出するものであっても、使用人が使用者から受ける給付は、給与所得を構成しますが、所得税基本通達36-29《課税しない経済的利益……用役の提供等》では、使用者が、福利厚生のための施設の運営費等を負担することにより、当該用役の提供を受け又は当該施設を利用した役員又は使用人が受ける経済的利益については、当該経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合又は役員だけを対象として供与される場合を除き、課税しない旨定められています。

2 配偶者の人間ドック費用の負担
 人間ドックの費用負担については、使用者に対しては、役員又は使用人の健康管理の必要から、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていることなどから、役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合を除き、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与課税の必要はないとされています(国税庁質疑応答事例)。
 一方、配偶者の健康診断費用の負担をしているケースもあります。
 労働安全衛生法では使用者に対して使用人(労働者)への健康診断は義務付けていますが、社員の配偶者への健康管理の義務はなく、配偶者の健康診断費用の負担は、使用者が使用人との雇用契約を前提にその配偶者という使用人の地位に基づいて行われるものとして、その負担額は、その使用人の給与として課税されるものと考えられています。

3 質問の場合について
 人間ドックの費用負担について課税しない趣旨には、使用者に健康診断の実施が義務付けられていることなどから、使用人等が受ける経済的利益は使用者がその義務を履行したことによる反射的利益といえることがあります。
 この点、同通達36-29の2《課税しない経済的利益……使用人等に対し技術の習得等をさせるために支給する金品》の取扱いでも、使用者の業務遂行上の必要に基づき使用人等の職務に直接必要なものとして受ける経済的利益につき反射的利益の性質が強いことを考慮しているものといえ、また、同様に36-30《課税しない経済的利益……使用者が負担するレクリエーションの費用》の取扱いでも、その行事の実施は使用者の必要に基づくものであって、必ずしも参加者の希望どおりとはいえない面を考慮したものと考えられます。
 これらの通達の趣旨からは、使用者の業務遂行上の必要性に基づき、使用人等が受ける経済的利益は、反射的利益という性質を有しており、他の経済的利益と同様に課税するというのは適当ではないとの考え方があると思われます。
 以上を踏まえた場合、次のことからすれば、給与課税の必要はないと考えます。
① 同居家族から感染するケースが比較的多く、また、同居家族の感染が判明した場合には社員も濃厚接触者として一定期間の自宅待機が必要となる状況を踏まえ、使用者としてこれらの状況を極力回避するため同居家族の新型コロナワクチン接種を進めることは、使用者の業務遂行上必要なものと考えられ、交通費を含むワクチン接種による経済的利益は、上記各通達にみられる反射的利益は課税しないとする趣旨に合致するものであること
② 一般的に、会社からの強制性が高まれば、業務関連性が高まるところ、ワクチン接種を受けるか否かは、同居家族の任意であって強制できる性質のものではなく、社員との同居を理由とするワクチン接種について、その同居家族が本人の意思で接種したことにより受ける経済的利益はその同居家族に帰属すると考えることができ、この場合、給与には当たらないこと

事例2 労災発生時に看護等をする社員家族の旅費

【質問内容】
 当社は、電気機器メーカーで、全国各地に工場を有しています。この度、労災発生時の社員家族への支援策として、次の細則(案)により、労災で入院治療が必要となった場合に、社員家族が付添看護等のため現地に赴く際の交通費及び宿泊費を支給することを検討していますが、社員に対する給与課税が必要ですか。
○「労災発生時の従業員家族への支援」に関する細則(案)
(目的)
第1条 この細則は、就業規則第2条(適用範囲)に定める従業員が労働災害(業務上災害及び通勤災害)により被災した場合について、その配偶者、子又は父母が付添看護等を行った際の経済的支出の負担軽減を目的とする。
(適用範囲)
第2条 労働災害により入院治療が必要となった場合に、配偶者、子又は父母が付添看護等のため現地に赴く際の交通費及び宿泊費を支給する。
(交通費及び宿泊費の支給)
第3条 配偶者、子又は父母の居住地から現地までの往復交通費、及び所属長が認める期間の宿泊費を支給する。
 2 往復交通費の支給は、2名につき月2回を限度とする。また、宿泊費は2名につき一人当たり1泊1万円を限度とする。
 3 交通費は、旅費規程により支給する。
 4 交通費及び宿泊費につき、保険給付又は損害賠償等による給付がある場合、重複支給はしない。
(支給手続)
第4条 前条の交通費及び宿泊費は、領収書等の提出を受けて、指定の口座に振り込む。

【回答】
 給与課税の必要はないと考えます。

【解説】
 質問の往復交通費及び宿泊費の支給は、社員が労災により入院治療が必要となった場合に、その社員家族(配偶者、子又は父母)が付添看護等を行った際の経済的支出の負担軽減を目的とするものであることから、この点で関係すると思われる規定や取扱いを確認します。
1 業務遂行の費用弁償
 いわゆる旅費規程等に基づき使用者から給与所得者に支給される旅費は、一般的に、その給与所得者が勤務する場所を離れて職務を遂行するため旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品であり、このような給付は、給与所得者にとってその勤務関係に基づいて受ける収入ではあるものの、同時に、その業務遂行上必要な費用として支出されるものであることから、いわば給与所得者の業務に係る必要経費ないしそれに類する費用としての性格を有しています。
 また、所得税基本通達28-4《役員等に支給される交際費等》では、使用者から役員又は使用人に交際費、接待費等として支給される金品のうち、使用者の業務のために使用すべきものとして支給されるもので、そのために使用したことの事績の明らかなものについては課税しないとされています。
 これらは、使用者が給与所得者に対しその業務遂行上必要な諸費用に充てるため又はそのような費用に充てられた金額の弁償として支給する給付は、費用弁償の性格を有するものということができ、このような支出は、本来使用者自体がすべきものであって給与所得者の収入及び支出ではないとみることもできますので、いずれにしても、支給を受けた者の所得とみるのは妥当ではないことによるものと考えられます。

2 支給を受ける者
 質問の往復交通費及び宿泊費が社員に支給されるものか、付添看護等を行った社員家族に支給されるものか、必ずしも明らかではないことから、それぞれの場合について検討します。
(1) 社員に支給される場合
 社員に支給される場合には、平成12年6月20日付課審3-11「乗船中の船員が支給を受ける『家族呼寄費』に対する課税上の取扱いについて(平成12.6.2付外労総第10号照会に対する回答)」が参考となります。
 この取扱いは、乗船中の船員に支給される「家族呼寄費」について、平成7年12月21日付「課審3-103」により所得税を課さない取扱いをしているところ、①外航船の日本の主要港に於ける停泊期間が1港あたり半日から多くとも2日間程度となり、実際に家族と面会できる時間は以前と比較して僅かなものとなっていること、②日本人船員数が減少し家族との面会が精神衛生面に於いても重要なファクターを占める状況となっていることなどから、労働協約改定によりその支給規定を変更したことにつき、変更後の「家族呼寄費」についても、所得税法9条《非課税所得》1項4号に規定する旅費に該当するとするものであり、その妻子が行う旅行につき、船員に支給される交通費及び宿泊費が非課税とされています。
(2) 社員家族に支給される場合
 社員家族に対して支給される場合には、非課税の対象者には給与所得者ではない者も含まれていることから、これに準じて非課税と取り扱うことが考えられます。
 また、仮に、非課税とならない場合には、会社は社員家族との間に雇用関係はないことから雑所得に該当し、給与としての源泉徴収は必要ないと考えられます。

3 質問について
 労災の場合の補償に関する会社の責務については、労働基準法75条《療養補償》1項で、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならないとされ、その療養の範囲は、労働基準法施行規則36条において、次に掲げるもので療養上相当と認められるものとされています。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
六 移送
 このような労働基準法の下、労災で入院治療が必要となった場合に、その社員の家族が付添看護等のため現地に赴く際の往復交通費及び宿泊費を支給することは、使用者の業務遂行かはさておき、人間ドック費用の負担と同様に、使用者の行うべき責務の範疇とみることが可能です。
 加えて、支給される交通費は旅費規程に基づくもので、宿泊費は1万円の範囲内の実費であることからすれば、収支同額として所得は生じていないとみることもできます。
 以上からすれば、質問の交通費及び宿泊費の支給について、給与課税の必要はないと考えます。

執筆者情報

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税理士 阿瀬 薫

昭和53年大阪国税局入局、国税庁法人課税課勤務等を経て、平成24年税務大学校研究部教授、27年沖縄税務署長、31年熊本国税不服審判所長を歴任し令和2年退官、税理士登録(麹町支部所属)

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2022.05.17 15:06:15