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DX会計事務所の作り方 その3 「パソコンのDX・・・業務環境のオンライン化」

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中小企業DX推進研究会ではDX会計事務所になるためのステップとして5つの工程を提唱しています。今回は、ステップ3 「パソコンのDX」 について解説していきます。

【業務環境オンライン化の重要性】

紙の電子化が完了したら次に行いたいのがパソコンを中心とした業務環境の見直しです。とくに、会計事務所にとっては業務環境をオンライン化することが、つぎの観点からも重要性が高いと言えるでしょう。

①人材の確保
生産年齢人口の減少にともない、特に地方では人材の確保が問題となります。人材確保のためには、多様な働き方を認めることや、ES (従業員満足度) の向上を図る必要がありますが、業務環境をオンライン化することはそのどちらにもプラスとなります。

②アウトソース活用
人材の確保と同様の観点ですが、自社ですべての人的リソースを確保するのではなく、税務に該当しない一部業務を外部に委託するという方法も考えられるでしょう。この場合でも、業務環境のオンライン化が重要になります。

③拠点展開
税理士の高齢化問題もあり、今後税理士法人は合併によって大規模化していくことが予想されています。オンライン化された業務環境を構築することで、拠点間をまたぐ業務プロセスの構築が可能となり、大規模化による生産性向上を図ることに役立ちます。

【代表的なオンライン化の方法】

会計事務所の業務は基本的にPCを使用したデスクワークが多いと思いますので、運用難易度の低いチャットやWebミーティングシステム、グループウエア等を活用したコミュニケーションのオンライン化についてはあまり大きな問題は発生しないでしょう。問題は、使用する会計ソフトなどの業務アプリケーションとアウトプットされる各種データをどのようにオンライン化するかという点ではないかと思います。

もっとも一般的な方法は、オンプレミス型のアプリケーションをインストールしたPCをVPN (Virtual Private Network: インターネット等を使用し、プライベートネットワークを拡張する技術、またはそのネットワークのこと。) 等で接続して利用する方法ではないでしょうか。社内ネットワークに参加する形となるので、ファイルサーバーなどもオフィスとほぼ同じように利用できます。しかし、スタンドアロンのアプリケーションを使用していると、当該アプリのデータはPCに残ってしまいますし、ユーザー管理がしにくいことから、PC自体を貸与する形になることが多いと思われます。そうなると、オフィスでデスクトップPCを使用しているような事務所では、簡単にPCを持ち運びすることができませんので、すぐにこの方式を導入することは難しいかもしれません。また、従業員がPCを破損させたり、PCそのものを紛失するリスクが発生しやすいことも問題になるでしょう。最も注意しなければならないのはデータの漏洩です。会計事務所の場合、顧問先の財務データという非常に機密性の高い情報を取り扱うことになるため、これらの流出に関しては細心の注意を払わなければなりません。できることなら、社外に顧客のデータを持ち出すことは極力避けるべきです。一部業務をアウトソーシングする場合などもPCごと環境を用意する必要があるので、季節業務など短期間だけリソースを増やしたい場合も迅速に対応することが難しいのではないでしょうか。

つぎに、挙げられる方法が、業務アプリケーションにクラウドを採用する方法です。この方式であれば、ブラウザによって業務をおこなうことがほとんどですから、基本的には端末となるPCの環境はあまり問題にはならず、従業員が所有するPCからでも、業務アプリケーションを利用できます。しかし、ブラウザ上での操作となることが多いので、会計システムでは使用感で難を感じるという声も聞かれます。このようなシステムを使用する場合、従来の会計ソフトの使い方ではなく、従業員にはできるだけ手作業によるデータ入力を回避する運用を定着させる必要もあるでしょう。(多くのSaaS系の会計システムはこのようなコンセプトを提唱しています。) また、この方法によっても、端末となるPCに顧客情報を含むデータが残ってしまう可能性は十分考えられ、フルクラウドで業務アプリケーションを構築したとしても、システムそのものからのデータのアウトプットを制限するなどの対応ができない限りはVPN接続の場合と同じ問題が発生します。テレワーク等を行う場合は業務の範囲を限定するか、オンプレミスの場合と同様に、PCを貸与するかたちになる可能性が高く、セキュリティ面と業務効率を両立させるには、よく検討することが必要です。

【中規模以上で検討したいシンクライアント】

最後に紹介する方法が、社内に用意された端末 (物理端末・仮想端末の両方が考えられます。) にリモートアクセスをする方法です。本コラムではこれらを総称して、シンクライアント型と呼ぶこととします。この方式では、社内にある端末を遠隔操作する形で利用をするためアプリケーションの使用感などについては問題になりづらいというメリットがあります。また、データ自体もリモートアクセスを行う側のPCには残りづらいため、セキュアな環境で業務をおこなうことができます。デメリットとしては、管理・運用面 (システム管理者による統合的な管理) を考慮すると、環境構築に専門知識が必要になることでしょう。環境構築に手間はかかるものの、膨大な機密情報を取り扱うという会計事務所業務の特殊性を考えると、中規模以上の事務所ではこのような環境が理想的ではないでしょうか。

執筆者情報

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山口 高志

中小企業DX推進研究会
会長

2005年アイクスグループ (現 セブンセンスグループ) 入社。システムありきではなく「運用すること」を重視し、現場にマッチした仕組みを提案・構築し、高い存在感を示している。シンクライアントシステム、ペーパーレスシステムなどのシステム構築と運用に携わるとともに、会計事務所のシステム導入サポート、コンサルティングも行っている。
【中小企業DX推進研究会とは】
中小企業の課題解決と経営革新に役立つDXの推進のための、会計事 務所を中心とする研究会。
すべての中小企業でのDX実現のために、その成功事例や推進手法を研究し、会計事務所を通じてその情報をけます。発信し続けます。

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2022.04.05 17:35:41