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インボイス制度開始後の免税事業者との取引

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リエ「黒田さん、そろそろインボイス制度開始に向けて具体的に準備をしていきたいと考えていますので、現時点でよく分からないことを教えて頂きたいのですが。」

黒田「はい、どういったことでしょう。」

リエ「インボイス制度開始後も免税事業者であることを選択した事業者から消費税法上の課税仕入れを行う場合、当面の間経過措置が適用されますよね。」

黒田「はい、その通りです。インボイス制度開始後において、免税事業者は適格請求書発行事業者以外の事業者ということになります。制度開始後に課税仕入となるのは原則として適格請求書発行事業者からの課税仕入のみということになりますので、制度開始後の免税事業者への支払は、原則として仕入税額控除(申告納付する消費税額から控除すること)ができなくなります。ただ制度開始後3年間は、免税事業者への支払でもそれが適格請求書発行事業者であれば課税仕入となるものであれば、80%相当額の仕入税額控除が認められ、その後の3年間は50%相当額の仕入税額控除が認められます。」

リエ「経理業務を行うにあたって、経過措置が適用される取引かどうかはどうやって判断すべきでしょうか。」

黒田「適格請求書発行事業者は登録番号を与えられ、請求書や領収書に登録番号を記載することになります。そしてその登録番号が記載されていない請求書や領収書は適格請求書とはされませんので、請求書や領収書に登録番号の記載がない場合は原則として経過措置が適用されることになります。」

リエ「間違えないようにしないといけないですね。」

黒田「そうですね、ある程度定期的に取引のあるところに関しては事前調査と取り決めを行ったほうがいいと思います。つまり、適格請求書発行事業者に該当するかどうかという事前の調査と、その調査時点の情報が変更された場合は直ちに貴社に連絡を行うという取り決めです。」

リエ「なるほど、適格請求書発行事業者公表サイトもあるので、こちらでは取引の都度ではなく一定期間ごとに公表サイトで確認するという形でも良さそうですね。」

黒田「はい、一般的には適格請求書発行事業者であるかどうかは簡単には変更しないので、その程度でいいと思います。ただ公表サイトへの反映は現状2週間以上かかるようですし、制度開始からしばらくは多少の混乱も予想されますので、確認する期間を短めにしたほうがいいかもしれません。」

リエ「ところで、適格請求書発行事業者以外の事業者と取引する場合、価格をどうしたら良いかという問題があります。」

黒田「それがお互いにとって最も難しい問題ですね。制度開始前と同じ価格であれば買手側としては実質値上げされたことになってしまいますし、税抜金額まで下げさせてしまったら売手側にとっては過大な値下げとなります。」

リエ「そうなんですよね。どこで折り合いをつけるべきなのか難しいみたいで。」

黒田「どちらかというと買手側の発言力のほうが強くなると思いますが、少なくとも経過措置が適用される期間中に税抜価格まで下げさせる必要はありません。経過措置が適用されることによって80%の仕入税額控除が認められるのであれば、原則として制度前税込価格から約1.96%の値下げで買手側の負担は変わりません。そして50%の仕入税額控除が認められるのであれば、制度前税込価格から約4.76%の値下げで買手側の負担は変わらなくなります。ただこれは買手側の都合だけを考えた場合の価格設定となりますので、買手側としてはこれを目安にどこで折り合いをつけるかということになると思います。」

リエ「原則として、というのはどういうことですか。」

黒田「買手側の課税売上割合が低い場合や、課税売上が5億円超の場合は、消費税額を全額仕入税額控除できないことがありますのでその場合は負担が変動します。ただこれはコントロールできるものでもありませんので、そこまで考慮してしまうと決められなくなってしまいます。」

リエ「損得も大きな問題ですが、消費税の取引区分が増えてしまうことや確認業務が増えることによる経理業務の効率低下も心配です。」

黒田「そうですね。買手側としては経理業務の見えないコストも考慮したところで価格交渉を行う必要もありますね。一方売手としても単純に値下げをしてしまったらその分利益が減少してしまいますので、そう簡単に買手側が希望する値下げに応じるわけにはいきません。」

リエ「そうですよね。完全に買手側の意向の通りとするなら、最終的には10%近い値下げをしなくてはならないわけですからね。」

黒田「免税事業者のまま10%値引きをするくらいなら、適格請求書発行事業者になって消費税をきちんと請求したうえで消費税を申告納付したほうが有利ですよ。」

リエ「そうなんですか。」

黒田「ええ、特に卸売業や小売業であれば、簡易課税制度を適用した場合の納税額はそれほど大きくはありませんので、先ほど申し上げた1.96%の値下げを行うくらいなら、簡易課税制度で消費税を納付したほうが安く済みます。そして4.76%の値下げを行うのであれば、不動産賃貸業以外はやはり簡易課税制度で申告納税したほうが安く済みます。状況によっては簡易課税制度ではなく本則課税制度での納付額のほうがもっと安くなる可能性もありますし。」

リエ「なるほど、確かにそうですね。その辺りも含めて取引業者と交渉ができればいいですが、なかなか難しそうですね。」

黒田「そうなんです。今まで免税事業者だった場合は消費税の仕組みにも詳しくありませんので、免税事業者にとっても難しい交渉になるのではと心配しています。」

監修

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税理士 坂部達夫

坂部達夫税理士事務所/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

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リエ「黒田さん、そろそろインボイス制度開始に向けて具体的に準備をしていきたいと考えていますので、現時点でよく分からないことを教えて頂きたいのですが。」黒田「はい、どういったことでしょう。」リエ「インボイス制度開始後も免税事業者であることを選択した事業者から消費税法上の課税仕入れを行う場合、当面の間経過措置が適用されますよね。」黒田「はい、その通りです。インボイス制度開始後において、免税事業者は適格請求書発行事業者以外の事業者ということになります。制度開始後に課税仕入となるのは原則として適格請求書発行事業者からの課税仕入のみということになりますので、制度開始後の免税事業者への支払は、原則として仕入税額控除(申告納付する消費税額から控除すること)ができなくなります。ただ制度開始後3年間は、免税事業者への支払でもそれが適格請求書発行事業者であれば課税仕入となるものであれば、80%相当額の仕入税額控除が認められ、その後の3年間は50%相当額の仕入税額控除が認められます。」リエ「経理業務を行うにあたって、経過措置が適用される取引かどうかはどうやって判断すべきでしょうか。」黒田「適格請求書発行事業者は登録番号を与えられ、請求書や領収書に登録番号を記載することになります。そしてその登録番号が記載されていない請求書や領収書は適格請求書とはされませんので、請求書や領収書に登録番号の記載がない場合は原則として経過措置が適用されることになります。」リエ「間違えないようにしないといけないですね。」黒田「そうですね、ある程度定期的に取引のあるところに関しては事前調査と取り決めを行ったほうがいいと思います。つまり、適格請求書発行事業者に該当するかどうかという事前の調査と、その調査時点の情報が変更された場合は直ちに貴社に連絡を行うという取り決めです。」リエ「なるほど、適格請求書発行事業者公表サイトもあるので、こちらでは取引の都度ではなく一定期間ごとに公表サイトで確認するという形でも良さそうですね。」黒田「はい、一般的には適格請求書発行事業者であるかどうかは簡単には変更しないので、その程度でいいと思います。ただ公表サイトへの反映は現状2週間以上かかるようですし、制度開始からしばらくは多少の混乱も予想されますので、確認する期間を短めにしたほうがいいかもしれません。」リエ「ところで、適格請求書発行事業者以外の事業者と取引する場合、価格をどうしたら良いかという問題があります。」黒田「それがお互いにとって最も難しい問題ですね。制度開始前と同じ価格であれば買手側としては実質値上げされたことになってしまいますし、税抜金額まで下げさせてしまったら売手側にとっては過大な値下げとなります。」リエ「そうなんですよね。どこで折り合いをつけるべきなのか難しいみたいで。」黒田「どちらかというと買手側の発言力のほうが強くなると思いますが、少なくとも経過措置が適用される期間中に税抜価格まで下げさせる必要はありません。経過措置が適用されることによって80%の仕入税額控除が認められるのであれば、原則として制度前税込価格から約1.96%の値下げで買手側の負担は変わりません。そして50%の仕入税額控除が認められるのであれば、制度前税込価格から約4.76%の値下げで買手側の負担は変わらなくなります。ただこれは買手側の都合だけを考えた場合の価格設定となりますので、買手側としてはこれを目安にどこで折り合いをつけるかということになると思います。」リエ「原則として、というのはどういうことですか。」黒田「買手側の課税売上割合が低い場合や、課税売上が5億円超の場合は、消費税額を全額仕入税額控除できないことがありますのでその場合は負担が変動します。ただこれはコントロールできるものでもありませんので、そこまで考慮してしまうと決められなくなってしまいます。」リエ「損得も大きな問題ですが、消費税の取引区分が増えてしまうことや確認業務が増えることによる経理業務の効率低下も心配です。」黒田「そうですね。買手側としては経理業務の見えないコストも考慮したところで価格交渉を行う必要もありますね。一方売手としても単純に値下げをしてしまったらその分利益が減少してしまいますので、そう簡単に買手側が希望する値下げに応じるわけにはいきません。」リエ「そうですよね。完全に買手側の意向の通りとするなら、最終的には10%近い値下げをしなくてはならないわけですからね。」黒田「免税事業者のまま10%値引きをするくらいなら、適格請求書発行事業者になって消費税をきちんと請求したうえで消費税を申告納付したほうが有利ですよ。」リエ「そうなんですか。」黒田「ええ、特に卸売業や小売業であれば、簡易課税制度を適用した場合の納税額はそれほど大きくはありませんので、先ほど申し上げた1.96%の値下げを行うくらいなら、簡易課税制度で消費税を納付したほうが安く済みます。そして4.76%の値下げを行うのであれば、不動産賃貸業以外はやはり簡易課税制度で申告納税したほうが安く済みます。状況によっては簡易課税制度ではなく本則課税制度での納付額のほうがもっと安くなる可能性もありますし。」リエ「なるほど、確かにそうですね。その辺りも含めて取引業者と交渉ができればいいですが、なかなか難しそうですね。」黒田「そうなんです。今まで免税事業者だった場合は消費税の仕組みにも詳しくありませんので、免税事業者にとっても難しい交渉になるのではと心配しています。」
2022.04.04 16:51:45