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寄附金と類似費用の区分

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はじめに

 寄附金は、任意の拠出や資産の贈与という性格上、一般の事業経費と異なりその損金性に乏しいことなどから法人税の計算に当たってどこまでその損金算入を認めるべきか議論があるところ。一方、寄附金についてはその損金性が乏しいものの、その寄付行為が法人の事業を沿革に推進するための効用を持っていることも否定できない。
 現行法人税法は、法人の支出する寄附金のうち、その法人の資本金等の額及び所得金額を基礎として算出される「損金算入限度額」を求め、この「損金算入限度額」までの金額を限度として損金算入を認めるという制度を採用している。したがって、ある企業の個別の支出が「寄附金」に該当するか、それとも寄附金以外の支出に該当するどうかの判断は、法人税の計算上の損金の額の計算に直接かかわる問題となる。
 本稿では、法人税法が規定する寄附金の概念及びその他の費用との違いのポイントなどについて法令や法人税基本通達の規定等を紹介し参考に供する。

<その1 法人税法上の寄附金の定義>

 法人税法は、寄附金に関する規定である第37条の第7項において寄附金の額を定義して「……寄附金、拠出金、見舞金その他のいずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産その贈与の時における価額又は当該経済的な利益その供与の時における価額によるものとする。」と規定している。
 この規定からも明らかなように贈与や無償の経済的利益の供与であっても「広告宣伝費」、「交際費」及び「福利厚生費」等とされるべきものは寄附金の額から除かれるものとしている。

<その2 寄附金と類似費用等の区分>

 法令や通達では、寄附金と類似費用等の区分についていくつかの取扱い基準が示されている。主なものを以下に掲げ参考に供する。

(1)寄附金ではなく資産の取得価額に加算すべき支出等
 ① 資産の取得に関連して支出する寄付等
   法人が地方公共団体から土地等を取得する際に寄附金等の名目の金員を支出した場合において、その金員が実質的にみてその資産の代価を構成すべきものと認められるときは、その資産の取得価額に算入する必要があるものとされている(法基通7-3-3)。
 ② 広告宣伝用資産の贈与又は低額譲渡
   法人がその特約店等に対し、広告宣伝用の看板、ネオンサイン、どん帳、陳列棚、自動車等の資産を贈与した場合又は著しく低い対価で譲渡した場合における当該資産の取得価額又は当該資産の取得価額からその譲渡価額を控除した金額に相当する費用は、繰延資産に計上する必要がある(法基通8-1-8)。

(2)寄附金以外の費用に該当する支出
イ 寄附金ではなく給与等に該当する支出
 ① 個人が負担すべき寄附金
   法人が損金として支出した寄附金であっても、その寄附金の支出の相手方及びその支出目的等からみてその法人の役員等が個人として負担すべきものと認められるものは寄附金ではなく、その役員等に対する給与として取り扱われる(法基通9-4-2の2)。
 ② 出向者に対する給与の較差補填
   出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するために出向者に対して支給する給与の額は寄附金ではなく、出向元法人の給与として損金の額に算入される(法基通9-2-47)。

ロ 寄附金には該当せず広告宣伝費等として取り扱われるもの
 ① プロ野球球団に対する欠損金補填
   プロ野球球団会社の親会社である法人が、球団の欠損金を補填するために支出した金銭は、寄附金ではなく「広告宣伝費の性質を有するもの」として取り扱われる(昭29直法1-147「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について通達」。)
 ② 被災者に対する自社製品等の提供
   法人が不特定又は多数の被災者を救済するために緊急に行う自社製品等の提供等に要する費用の額は、その提供が、経済的効果からいえば、広告宣伝費に準ずる側面も有していることから寄附金の額に該当しないものとして取り扱われる(法基通9-4-6の4)。

ハ 寄附金ではなく交際費等に該当するもの
 取引先等の事業に関係のある者に対する金品等の贈答は、一般的には取引の円滑化を期待して行われるものであるから寄附金ではなく交際費等に含まれることになる。
 また、事業に直接関係のない者に対して金銭、物品等の贈与をした場合において、それが寄附金であるか交際費等であるかは個々の実態により判断すべきであるが、金銭でした贈与は原則として寄附金とされ、社会事業団体、政治団体に対する拠金あるいは神社の祭礼等の寄贈金のようなものは交際費等に該当しないものとされている(措通61の4(1)-2)。

二 事業上の一般経費に該当し寄附金には該当しないものと取り扱われる支出
 ① 取引先の災害復旧支援費用
  法人が、災害を受けた取引先に対してその復旧を支援することを目的として、売掛 金等の減免あるいは無利息又は低利による融資をした場合には、その免除や減免あるいは無利息・低利融資については寄附金課税の対象とはならないものとして取り扱われる(法基通9-4-6の2、9-4-6の3)。
 ② 子会社等の解散等のための損失負担
  「法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社のために債務の引 受けその他の損失負担又は債権放棄等をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等、相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。」(法基通9-4-1)とされている。
 ③ 子会社再建のための金融支援等
  「法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率で の貸付け又は債権放棄等をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等、相当の理由があると認められるときは、寄附金の額に該当しないものとする。」として、いわゆる子会社等の再建費用と認められるものは寄附金とはならない旨が明らかにされている(法基通9-4-2)。



執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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2022.03.24 16:25:36