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駐車場代の負担等による経済的利益

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 コロナ禍による在宅勤務が進む中、出勤日数の減少や感染対策のため出勤にマイカーを利用する者もみられることから、マイカー通勤者のために企業が駐車場代を負担した場合などについて、所得税の課税関係を整理した。

1 法令等の概要

(1) 法令の規定

 各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その経済的な利益の価額)とされ(所法36①)、この経済的な利益の価額は、その物若しくは権利を取得し、又はその利益を享受する時における価額とされている(所法36②)。
 そして、事業の用に供する資産を専属的に利用することにより個人が受ける経済的利益の額は、その資産の利用につき通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額(その利用者がその利用の対価として支出する金額があるときは、これを控除した額)とされている(所令84の2)。

(2) 経済的利益の取扱い

 所得税基本通達36-15《経済的利益》では、所得税法36条1項かっこ内に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」(以下「経済的利益」という。)について、「土地、家屋その他の資産(金銭を除く。)の貸与を無償又は低い対価で受けた場合における通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益」のほか、次に掲げるような場合の利益が含まれるとしている。
① 他の用益の提供を無償又は低い対価で受けた場合
② 債務の免除を受けた場合や自己の債務を他人が負担した場合
 給与所得に関しては、使用人がその職務又は地位に基づいて使用者から受ける全ての給付は、給与所得を構成するとされているところ、この給付には、金銭以外の物又は権利その他経済的利益も含まれており、一般的には現物給与ともいわれている。

(3) 課税しない経済的利益

 経済的利益を課税対象とする原則に対し、給与所得に関しては、例外的な取扱いが定められており、所得税基本通達36-29《課税しない経済的利益………用役の提供等》(以下、「自家用益通達」という。)では、「使用者が役員若しくは使用人に対し自己の営む事業に属する用役を無償若しくは通常の対価の額に満たない対価で提供し、又は役員若しくは使用人の福利厚生のための施設の運営費等を負担することにより、当該用役の提供を受け又は当該施設を利用した役員又は使用人が受ける経済的利益については、当該経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合又は役員だけを対象として供与される場合を除き、課税しなくて差し支えない」としている。
 この取扱いの趣旨について、「所得税基本通達逐条解説・令和3年版」樫田 明ほか共編、大蔵財務協会、以下「逐条解説」という。)では、次のように説明されている。

 本通達は、興行業、クリーニング業、理容業、運送業等のサービス業を営む使用者が、役員又は使用人の日常生活について、その経営する事業に属するサービスを提供したことによる経済的利益については、その経済的利益の額が著しく多額な場合及び役員だけを対象としてサービスを提供する場合を除いて課税しないこととしたものである。また、役員又は使用人のために保養所、理髪室などの福利厚生施設を設け(外部の旅館や理髪店などと契約してこれらの者に利用させることとしている場合を含む。) 、その運営費等を負担したことにより、これらの施設の利用者が受ける経済的利益についても同様に取り扱うこととしたものである。

2 課税関係の検討

(1) 駐車場利用による経済的利益

 自家用益通達に示されている「福利厚生のための施設」について、逐条解説は、「保養所、理髪室などの福利厚生施設」と示しており、通勤用の駐車場が、自家用益通達にいう「福利厚生のための施設」に該当するのかは、必ずしも明らかではない。保養所や理髪室の利用は、おのずと利用回数が限られるのに対し、通勤用駐車場の利用は出勤毎であり、その利用による経済的利益が同様に取り扱われるかは疑義がなくはない。
 しかしながら、施設の運営費等の負担は、仮に、利用者がなかった場合であっても生じるものであり、その施設を維持管理することがその企業の評価に繋がるなど必ずしもその負担時点における利用者に対する経済的利益の供与のみを目的としているものとはいえない面があることからすれば、その運営費等の負担と利用による経済的利益とは直接的に結び付くものとは限らず、その施設の利用による経済的利益は、いわゆる反射的利益としての側面を有しているとみることができる。
 このようなことからすれば、使用者が提供する通勤用駐車場の利用により受ける経済的利益についても、自家用益通達に準じて、その経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合や役員だけを対象として供与される場合を除き、課税しなくて差し支えないものと考えられる。
 この場合、通勤用駐車場が借地であるか自己所有地であるかにより、使用者の賃料負担の有無とその賃料の額が明確か否かとの違いがあるが、この違いは、使用人が駐車場を利用することにより受ける経済的利益につき、取扱いを異にすべき理由とはならないと考えられる。
 駐車場利用による経済的利益についての自家用益通達の適用関係については、上記のとおりと考えられるが、使用者の駐車場を専属的に利用する場合には、そもそも自家用益通達の適用はなく、所得税法施行令84条の2の規定により課税を要することになる。

(2) 平成8年の事務連絡について

 平成8年9月11日付「旬刊 速報税理」(ぎょうせい)に掲載された「マイカーの借上げに係る賃貸料相当額は雑所得、国税庁、『私有車制度に基づき使用人に支払われる対価の取扱い』を事務連絡」との記事よれば、国税庁から平成8年7年5日付で「私有車制度に基づき使用人に支払われる対価の取扱い(事務連絡)」(以下「平8連絡」という。)が示されているとのことであり、企業がマイカー通勤者の駐車場代を負担した場合の課税関係については、当該連絡に基づき、一般的に課税対象と理解されているとみられなくはないことから、その内容を検討する。
 平8連絡の内容は、当該記事によれば、次のとおりである。

1 使用者が使用人に支払う当該使用人の所有する自家用車(以下「私有車」といいます。)の借上料については、各使用人における当該借上料の算定方法等が区々となっていることから、当該借上料の妥当性等については個別判断せざるを得ないものと考えられます。ただし、当該借上料は、使用人にとって資産の賃貸による対価であることから、賃貸料として相当と認められるものについては、使用人の雑所得の総収入金額に算入すべきことになります。

2 私有車の駐車場代については、私有車を使用者に賃貸するか否かにかかわらず所有者である使用人自身が負担すべきものであることから、当該費用を使用者が負担している場合には、使用者業務への使用状況いかんにかかわらず給与所得として課税すべきことになります。しかし、各局の取扱いをみると必ずしも統一的とはなっていないことから、使用者が使用人に支払う私有車の駐車場代については、今後処理するものから、給与所得として課税することとします

 上記2の取扱いの趣旨について、当該記事によれば、次のとおりとされている。

 ところで、「私有車の借上げ」に関わらず、会社が社員のマイカー使用に付随する駐車場代を負担しているケースも多くみられる。
 この場合、税務当局では社員に対する給与として給与課税していたところもあれば、社員に対する福利厚生費として社員には課税せず、会社が単純損金処理するのを認めていたところもあるようだ。
 このことから、今回、全国的に処理の統一が図られた。つまり、会社への賃貸に関わらず、駐車場代は、マイカー所有者が負担すべきものであることから、業務への使用状況いかんによらず、すべて「給与所得」として課税されるという取扱い。
 ただ、処理のバラツキに配慮し、8年7月5日以前の処理に遡って給与課税されることはない。

 まず、平8連絡の2において、「私有車の駐車場代については、私有車を使用者に賃貸するか否かにかかわらず所有者である使用人自身が負担すべきもの」とのことであるが、使用者が一定期間、排他的に賃借し、その間の保管を含めた維持管理を行うような場合は除かれ、このような場合には、駐車場代につき、使用人自身が負担すべきことにはならないものと考えられる。
 次に、駐車場代につき「当該費用を使用者が負担している場合」は、その負担している金額を給与所得として課税すべきとしていることからすれば、ここでいう「当該費用を使用者が負担している場合」とは、使用人契約の駐車場代につき、その全部又は一部を使用者が負担している場合のことを指しているものと考えられる。これは、仮に、使用者契約の駐車場代を使用者が支払っているケースであれば、使用者の負担している費用の金額が直接的に経済的利益に繋がるものではなく、その使用人による駐車場の私的利用部分に係る経済的利益につき、給与課税の問題が生じ得ると考えられるからである。
 以上からすれば、平8連絡における「私有車の駐車場代」とは、使用人契約の駐車場代(自宅や勤務先近辺)に関してのものと思われ、平8連絡の内容は、使用者が賃借している駐車場についての直接の影響はないものと考えられる。

3 駐車場代の負担等による課税関係

 使用者や使用人が確保した駐車場について、使用者が金銭を支出した場合や、使用人がその駐車場を利用する場合の経済的利益の課税関係を整理すると、次のように考えられる。
 すなわち、①使用人が第三者から賃借した駐車場の賃料を使用者が負担する場合には、その駐車場を使用者の業務に利用している場合を除きその使用人に対する給与になるほか、②駐車場が使用者の自己所有であるか他からの賃借であるかにかかわりなく、駐車場を役員又は使用人に専属的に利用させている場合はその利用者に対する給与として源泉課税が生ずる一方、それ以外の場合には自家用益通達により課税の要否を判断することになる。

執筆者情報

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税理士 阿瀬 薫

昭和53年大阪国税局入局、国税庁法人課税課勤務等を経て、平成24年税務大学校研究部教授、27年沖縄税務署長、31年熊本国税不服審判所長を歴任し令和2年退官、税理士登録(麹町支部所属)

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2022.02.10 17:02:44