上場株式等の配当等に関する新たな改正
【はじめに】
一般株式等(非上場・私募の株式等)の配当等については、総合課税の対象とされている。一方、上場株式等(上場・公募の株式等)の配当等については、申告分離課税とされている。ただし、上場株式等の配当等であっても、持株割合3%以上の配当等ついては、申告分離課税の対象外とされ、総合課税の対象とされている。
今回の令和4年度税制改正大綱によると、総合課税の対象とされる上場株式等の配当等の範囲が拡張されるようである。本稿では、持株割合3%以上の配当等に対する課税方式の改正の意味合いについて考えてみることにする。
1 持株割合による申告分離課税の制限
配当所得の課税方式は、一般株式等に係るものは、総合課税の対象とし超過累進税率を適用することになっており、一方、上場株式等に係るものは、納税者の選択により、申告分離課税の対象とし低率の比例税率を適用することができることになっている。上場株式等に係るものついて低率の比例税率を適用して優遇することができることとされているのは、経済対策によるものと考えられている。
ただし、上場株式等に係るものであっても、持株割合3%以上の株主等(「大口株主等」という。)についてまで税制上優遇する必要性はないと考えられることから、申告分離課税の対象外とし総合課税の対象とされている。
要するに、一般株式等に係るものについては、主として同族会社の株式等を念頭に置いて総合課税の対象とされており、他方、上場株式等に係るものについては、大口株主等に限って同族会社並みに総合課税の対象とされていることになる。
なお、この持株割合による申告分離課税の制限については、申告分離課税の制度が創設された税制改正以来で、当初は5%以上とされていたが、その後の改正により3%以上に引き下げられている。
現行法上の配当所得の課税方式の概要を図示すると、次のとおりである。
【配当所得の課税方式】
区 分 |
所得 区分 |
源泉徴収 | 課税方式 | |
---|---|---|---|---|
・上場株式等の配当等(大口株主等が内国法人から支払いを受けるものを除く。)(注1) |
配 当 所 得 ⇒ 11 |
[所得税 15%] [住民税 5%] | 選択 | 申告不要 (注2) |
総合課税 (注3) | ||||
申告分離課税 [所得税 15%] [住民税 5%] | ||||
・上場株式等の配当等で、大口株主等が内国法人から支払いを受けるもの ・一般株式当の配当等 | [所得税 20%] [住民税 なし] | 選択 | 少額申告不要 (注4) | |
総合課税 |
(注)1 「大口株主」とは、その配当等の支払基準日においてその内国法人の発行済株式(投資法人にあっては、発行済みの投資口)又は出資の総額の3%以上に相当する数又は金額の株式(投資口を含む。)又は出資を有する個人」をいう(措法8の4①)。
(注)2 源泉徴収のない外国株式等については、申告不要不可
(注)3 特定上場株式等については、総合課税を選択することができる(措法8の4②)。
「特定上場株式等の配当等」とは、次に揚げるものをいう。
① 株式等で上場等がされているものの配当等(内国法人から支払われるものに限り、大口株主等が支払を受けるものを除く。)
② 公募の投資信託の収益の分配に係る配当等(公社債投資信託以外の証券投資信託に係るものに限る。)
③ 特定投資法人の投資口(公募)の配当等
(注)4 内国法人から支払を受ける配当等で、1回に支払を受ける金額が、10万円に配当 計算期間の月数を乗じてこれを12で除して計算した金額以下のもの(いわゆる少額配当等)については、申告不要可
2 少人数私募債の利子・償還金の申告分離課税の制限
上記1は、主として同族会社の株式等を念頭に置いて総合課税の対象としているわけであるが、これに類するものとして「少人数私募債の利子・償還金の申告分離課税の制限」がある。
少人数私募債の制度は、通常の社債と異なり、発行金額が原則1億円未満と少額であるが、募集人数が50人未満で、有価証券届出書や報告書の提出・開示をする必要がなく、無担保で発行できるなど、事務手続き等が簡素化されているため、同族会社等では多く利用されてきた。
この少人数私募債の制度は、本来、税負担の調整を目的としていたわけではないのであるが、借入金利子の支払に代えて社債利子を支払うことによって個人の税負担を軽減できる(総合課税に代えて低率20%の源泉告分離課税の適用対象となる)ことから、その税負担軽減は、同族会社であればこそ可能と考えられるものであることから、特定の同族株主等が受けるものについては、平成25年及び平成26年の税制改正(金融所得課税の一体化を目指す税制改正)の機に、その社債利子を総合課税の対象とし超過累進税率を適用することとされた。
また併せて、その社債の償還金に係る所得(譲渡所得)についても、同様に、総合課税の雑所得の対象とし超過累進税率を適用することとされた。
3 少人数私募債の利子・償還金に係る令和3年の改正
上記2は要するに、少人数私募債に係る利子及び償還金については、同族会社の社債を念頭に置いて総合課税の対象としているわけであるから、直接の支配関係のない法人から支払を受けるものは、総合課税の対象外となる。このため、その法人(「一定の関連のある法人」という。)との間にその個人が直接支配する法人(「特殊の関係にある法人」という。一般的にはその個人の同族会社)を介在させて、間接的にその一定の関連のある法人を支配するケースについては、上記と同様に税負担を軽減させることが可能になる。
(注)この場合の「一定の関係のある法人」とは、「特殊の関係にある法人」が支配する法人をいう。
そこで、令和3年の税制改正において、直接の支配関係のない法人からその個人が支払を受けるものであっても、一定の関係のある法人から支払を受けるものについても、総合課税の対象とすることとされた。
この改正は、上記2の改正の対象範囲を関連法人に拡張するもので、令和3年4月1日以後に支払を受けるものについて適用されている。
以上の個人と各法人との関係を図示すると、次のようになる。
① 同族会社Aは、個人株主C(特殊関係個人を含む。以下同じ。)と「特殊の関係にある法人」である。
② 上記①の「特殊の関係にある法人」とは、次に掲げる法人をいう。
イ 個人株主Cが法人を支配している場合における当該法人
ロ 個人株主Cおよびイの法人が他の法人を支配している場合における当該他の法人
ハ 個人株主C及びイ又はロの法人が他の法人を支配している場合における当該他の法人
(注) この場合の「支配している場合」とは、原則として、発行済株式の総数の50%を超える数を有する場合を言う。
③ 同族会社Aは、B法人を同族会社であると判定する際の基礎となる株主である。
④ 同族会社Bは、少人数私募債の発行法人であり、個人株主Cは、その社債に係る利子の支払いを受ける者である。上記①のとおり、同族会社Aと個人株主Cとは特殊の関係にあるわけで、個人株主Cは「特殊の関係のある法人の株主等」といえる。また、個人株主Cにとっては、同族会社Bは直接の支配関係はないが「一定の関連の法人」ということになる。
4 持株割合による申告分離課税の制限に係る今回の改正
上記1の「持株割合による申告分離課税の制限」についても、今回の税制改正では、上記3の「少人数私募債の利子・償還金に係る令和3年の改正」に類似した改正(従来の対象範囲に同族会社の持株分まで拡張する改正)が行われることになった。
今回の税制改正大綱によると、総合課税の対象とされる上場株式等の配当等の範囲について以下のように拡張することになった。
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内国法人から支払を受ける上場株式等の配当等で、その支払を受ける居住者等(以下「対象者」という。)及びその対象者を判定の基礎となる株主として選定した場合に同族会社に該当することとなる法人が保有する株式等の発行済株式等の総数に占める割合(以下「株式等保有割合」という。)が100分の3以上となるときにおけるその対象者が支払を受けるものを、総合課税の対象とする。
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これまでは、「対象者が保有する株式等」の保有割合が100分の3以上となるときにおけるその対象者が支払を受けるものが総合課税の対象とされていた。
しかし、この改正では、「対象者」が保有する株式等の数と「その対象者を判定の基礎となる株主として選定した場合に同族会社に該当することとなる法人」が保有する株式等の数との合計数が、その法人の発行済株式等の総数に占める割合(株式等保有割合)が3%以上になる場合に総合課税の対象とされることになる。もちろん、総合課税の対象となる配当等の金額は、その対象者が支払を受ける部分の金額である。
したがって、対象者が保有する株式等の数だけでは株式等保有割合が3%未満である場合であっても、「その対象者を判定の基礎となる株主として選定した場合に同族会社に該当することとなる法人」が保有する株式等の数を合わせると、実質的な株式等保有割合が3%以上になるときは、その対象者が支払を受ける部分の配当等の金額が総合課税の対象となる。
これを図示すると、次のようになる。
株式所有者 | 持ち株割合の例示 | 総合課税の対象 |
---|---|---|
①対象者 |
2% (3%未満) |
2%分の 配当等 |
②対象者を判定の基礎となる株主として選定した場合に同族会社に該当することとなる法人 |
5% [①と②の持ち株を 合わせると3%以上] |
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この改正は、令和5年10月1日以後に支払を受けるものについて適用される。
なお、この改正は、会計検査院の指摘事項に端を発したものであるが、上記3の「少人数私募債の利子・償還金に係る令和3年の改正」と同じように、同族会社を念頭に置いた改正であり、今後も、同族会社等を介した節税策関連の改正に注目する必要がありそうである。