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子会社の整理・再建のための損失負担等と寄附金課税

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はじめに

 経営危機に陥った子会社等について、(1)これ以上無理に存続させたとしても更に損失が拡大することが見込まれるといった状況下で親会社において損失負担の上これを解散させたり新たに資金投入などを行った上で経営権を他に譲渡するようなケースがある。また、(2)資金の無利息融資や債権放棄などのテコ入れを行って再建を図るといったケースも少なからず見受けられる。
 このような状況下における親会社が行う損失負担は社会的責任や更なる損失の発生の回避のためのものではあっても法令上の義務とまでは言えないことから、形式的には親会社から子会社に対する無償の経済的利益の供与、すなわち税務上は「寄附金」に該当するのではないかといった疑義がある。
 しかし、今日の経済や社会状況を踏まえると、一概にこれを単純な贈与と決めつけることは実情に即さず、社会的責任を重視した企業行動の障害にもなりかねない。一方、これらの事業撤退や再建のための損失負担等が純粋第三者間で行われる場合はともかく、親子会社や系列会社といった関係者間の合意で行われる場合においては租税回避の手段として用いられるおそれもある。
 このため国税庁通達は、一定の基準を示したうえで寄附金としては取り扱わない場合を具体的に示すなどして実情に応じてこれを弾力的に取扱う旨を明らかにしている。

1 寄附金に係る課税の原則

 法人税法では「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合におけるその金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又はその経済的な利益のその供与の時における価額」については寄附金の額に該当する旨を規定した上で、損金算入に制限を設けている。
 一般的に言って「任意に、かつ、何らかの対価を収受することなく、無償で経済的利益を供与した場合(債権放棄も含まれます)」は寄附金として取り扱われることになる。このことは「法人が、金銭等の贈与、債権の引受け、債権放棄あるいは無利息貸付け等により経済的利益を供与した場合には、相手方から何らかの対価的意義を有する反対給付を受けるか、あるいは、それらの経済的利益を手放す何らかの合理的な経済目的その他の事情がある場合でない限り、その経済的利益が寄附金課税の対象とされる(昭53.3.30 大阪高裁判決)。」といった判決でも明らかにされている。
 一方、この判決文からもうかがえるとおり「合理的な経済目的その他の事情がある」ケースなどには必ずしも税務上の寄附金に該当しない場合もありうるものとも考えられる。すなわち、外形的には、資産の贈与や経済的利益の供与であっても、それが事業上必要な経費と認められるものについては、寄附金に該当しないという考え方がここに表れているということがでる。

2 国税庁通達の概要

(1)子会社等を整理する場合の損失負担
 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴いその子会社等のために債務の引受けその他の損失の負担をし、又はその子会社等に対する債権の放棄をした場合においても、その負担又は放棄をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその負担又は放棄をするに至った等、そのことについて相当な理由があると認められるときは、その負担または放棄をしたことにより供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとして取り扱われる(基通9-4-1)。
(2) 子会社等の再建のための無利息貸付け等
 法人がその子会社等に対して金銭を無償若しくは通常の利率よりも低い利率で貸付け又は債権放棄等をした場合においても、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるなど、その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとしれ取り扱われる(基通9-4-2)。

3 通達のグレーゾーンとその解釈

イ 通達中の「子会社等の範囲」
 この通達の適用の対象となるのは「子会社等」とされているが、具体的には法人が経済的利益を供与することについて合理的な経済目的があるという関係にある者をいうのであって、親子会社といった資本関係を有する者だけでなく、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者がこれに含まれるものとされている。
ロ 通達中の「相当な理由」の範囲
 支援者にとって損失負担等を行う「相当な理由」があるか否かは、損失負担等を行い子会社等を整理することにより、今後被るであろう大きな損失を回避することができる場合、又は、子会社等を再建することにより、残債権の弁済可能額が高まり、倒産した場合に比べ損失が軽減される場合若しくは支援者の信用が維持される場合などが考えられる。
ハ 通達中の「合理的な再建計画」の範囲
 この場合の「合理的な再建計画」かどうかは、個々の事例に応じ、次のような点について総合的に判断すべきものと考えられる。
 A.支援額の合理性……要支援額(総額)が、被支援者の財務内容、営業状況の見通し等から的確に算定されているか。また、被支援者の自己努力を加味したものとなっているか。
 B.支援者による再建管理の有無……支援者が被支援者の再建状況を把握し、例えば、再建計画の進行に従い、計画よりも順調に再建が進んだような場合には計画期間の経過前でも支援を打ち切る(逆の場合には、追加支援を行うための計画の見通しを行う)などの手当てがされることとなっているか。
 C.支援者の範囲の相当性……被支援者との事業関連性の強弱、支援規模、支援能力等からみて、支援者の範囲が相当であるか(これらの要素からいって同様の立場にある者が支援者になったりならなかったりしていないか)。
 D.支援割合の合理性……出資状況、経営参加状況、融資状況等の事業関連性の強弱や、支援能力からみて支援割合が合理的に決定されているか
(執筆参考:「国税庁質疑応答事例集」、「法人税基本通達逐条解説(税務研究会)」、「寄附金の税務(大蔵財務協会)」)

執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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2021.12.21 16:03:26