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法人税基本通達9-3-4(3)税務の矛盾と想定される「養老保険」

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 ハーフタック-スプランは、法人税基本通-達9-3-4(3)に規定された税務を前提とした養老保険契約(形態)を指す。すなわち保険契約者=法人、被保険者=従業員(普遍的加入要件あり)、死亡保険金受取人=被保険者の遺族、満期保険金受取人=法人、というものである。これにより保険料は1/2損金、1/2資産計上となっている。
 保険の実際の数値上の動き(責任準備金、解約返戻金、前払保険料、危険保険料等々)は被保険者の年齢や保険期間等で詳細には相違する。しかし通達は、大きな原則を重視し(詳細な数値上の変動を無視して)、簡便法的に税務を規定したものと解釈できる。逆からいうと、個々の通達では対象となる保険商品について大きな原則となる(保険商品に関する)想定が存在している。
 以上の商品想定は、直接的には法人が特定種類の生命保険(本稿では養老保険のハーフタックスプランの形態)を契約した際の保険料の資産計上や、損金算入に反映する。
 なお当然だが、その前にこの反映の前提は法人税法22条に示された企業の当年度の所得計算に関する考え方によるはずである。
 そこで本稿は、法人税基本通達9-3-4(3)における損金算入の算出根拠として、養老保険がどのように想定されているかを整理する。そこから以下、
(1) 法人税法22条と、法人税基本通達9-3-4(3)における損金算入根拠となる費用に関する考え方が根本的に相違すること
(2) 基本通達9-3-4(3)における養老保険の商品想定がそもそも本来の養老保険から乖離していること
について明確化する。この明確化は筆者の問題提起でもある。

企業における所得計算の原則的考え方

 企業における当年度の所得計算に関する原則的考え方は、法人税法22条により規定されている。この規定を原則として様々な売り上げや費用に類するものの解釈がなされ、実際の運営が行われている。また一部、この原則的規定の適用の考え方が個別領域に関する通達として示されている場合がある。生命保険については、定期保険・第三分野保険について令和元年法令解釈通達(9-3-5等)がだされた。養老保険については法人税基本通達9-3-4が存在している。
 法人税法22条は、各事業年度の所得の金額の計算について規定したものである。すなわち(法人税法22条)
「1 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする
 2 省略
 3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
  a 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これに準ずる原価の額
  b 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外での費用の当該事業年度の終了の日までに債務の確定していないものを除く)の額
  c 当該事業年度の損失の額で資本取引以外の取引に関わるもの    」
 
 条文にあるように「当該事業年度の損金の額に算入すべき金額」は「当該事業年度の費用」である。これが原則である。逆に言うと、当該事業年度を超えた(次年度以降の)費用は、長期の前払費用として資産に計上することになる。
 以上の原則を頭においた上で、法人税基本通達9-3-4(3)の考え方がどうなっているかを整理しよう。

法人税基本通達9-3-4(3)における養老保険

 法人税基本通達9-3-4(3)に関する保険料1/2損金について、『法人税基本通達逐条解説』では以下のように説明されている。
「………死亡保険金の受取人は被保険者の遺族であるが、生存保険金の受取人は当該法人であるという場合には、その保険料のうち、法人が受取人である生存保険金に係る部分、すなわち積立保険料部分については法人において資産計上すべきことはいうまでもないが、死亡保険金に係る部分、すなわち危険保険料部分については、受取人が被保険者の遺族となっていることからみて、法人において資産計上することを強制することは適当でない。しかし、当該危険保険料部分に係る保険料の負担を直ちに被保険者である役員又は使用人に対する給与とすることについては、法人税基本通達9-3-5(定期保険に係る保険料)に定める定期保険の保険料の取り扱いとのバランスからみても、必ずしも適当でない。そこで本通達において、このような場合の危険保険料部分の取り扱いについては、原則として一種の福利厚生費として期間の経過に応じて損金に算入することとされている」*¹
「なお、このような場合の積立保険料と危険保険料の区分については、通常、契約者サイドにおいてこれを知ることは困難であると考えられるので、本通達においては、一種の簡便法として、その支払った保険料の2分の1を積立保険料とし、残額は危険保険料に該当するものとして計算することとされている」 *²

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*¹ 『法人税基本通達逐条解説 七訂版』税務研究会出版局840頁最終行~841頁11行目。なお、いわゆる普遍的加入要件についてはこの後、記述が続いている。ここでは所与として取り上げない。
*² 同『逐条解説』841頁16~20行。
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 保険料の2分の1区分の根拠については、同書において注記 がなされている。すなわち以下である。
「保険料の2分の1を積立保険料として計算するという考え方は、法人がこの種の養老保険に加入する場合には、一般に概ね45歳以上の中高年層の役員又は使用人を対象にする例が多いとみられるところ、このような年齢層を被保険者とする典型的な養老保険においては、平均的にみて積立保険料と危険保険料がほぼ同額になるとみられるからである」

 以上の解説によると、法人税基本通達9-3-4(3)は養老保険を以下のように想定している。
・「死亡保険金に係る保険料、すなわち危険保険料」である。言い換えると「死亡保険金の対象となった被保険者(つまり保険期間中に死亡した被保険者)のために支払われた保険料のすべては危険保険料」である。
・ハーフタックス形態における典型的な養老保険加入においては、45歳以上の役員及び使用人全員が加入する。この場合、保険期間の終了までの間に支払われる死亡保険金総額と、満了時に支払われる満期保険金総額は、おおよそ全体の2分の1ずつである*⁴ 。
・死亡保険金総額と満期保険金総額が同程度(すなわち2分の1ずつ)なので、それぞれに係る保険料は、当然、2分の1ずつである。
・以上のことから、危険保険料を2分の1として損金に算入し、満期保険金のための貯蓄保険料を2分の1として資産に計上する。

死亡保険金に係る保険料とは………

 さて養老保険において死亡保険金に充当された保険料はすべて危険保険料なのだろうか? 養老保険の保険料は矢田(2013)*⁵ によれば図表1の通り説明されている。

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*³ 同『逐条解説』841頁注3。
*⁴ 45歳の生存者が半減するのは、生保標準生命表2018(死亡保険金用): 男性では84歳を超えた時期、女性では89歳を超えた時期。22回完全生命表:男性84歳を超えた時期、女性89歳を超えた時期。保険期間に換算すると男性40年、女性45年程度となる。法人税基本通達9-3-4(3)ではこれが「典型的な養老保険」とされていることになる。
*⁵ 矢田公一(2013)「生命保険の金融的機能と課税上の課題」23頁に掲載された図を同内容として筆者転記。
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図表1 保険料構成

 純保険料は死亡保険金のための死亡保険料と生存保険金(満期保険金)のための生存保険料に分かれる。保険料積立金は、生存保険料と、死亡保険料のうち将来の死亡保険金のための部分により構成される(死亡保険料のうち将来のための部分は満了時にはゼロである)。

養老保険の保険金の構成と保険料

 養老保険の保険料構成あるいは保険金の構成は、保険理論ではどのように説明されているだろうか? 図表2に養老保険における保険料積立金と危険保険金の関係、保険料構成を示す*⁶ 。

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*⁶ 山下友信他(2019)『保険法』有斐閣35頁 図2より筆者作成
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図表2 養老保険の保険金の構成と保険料

 死亡保険金を1000万円として、保険期間中に死亡した場合、貯蓄保険料により積み立てられた保険料積立金と死亡保険金1000万円との差が危険保険金である。したがって死亡保険金は保険料積立金と危険保険金により構成される。保険料積立金は経過に応じて増大する。逆にいえば、危険保険金は経過に応じて減少する。危険保険料は、危険保険金に対応した部分であり、「危険保険金×当年の死亡率に」より計算される。

損金算入根拠となる費用に関する考え方

 法人税基本通達9-3-4(3)では(ハーフタックスプラン形態)、保険料の2分の1が損金に算入される。この根拠は、ここまでみたように、
・保険期間全体を終期まで考え、その間に被保険者が半分死亡する(保険期間は40年から45年!)。
・このため、支払われた死亡保険金に充当された保険料は、そのすべてを危険保険料として解釈すれば、合計の半分である、
という考え方によっている。これをもって最初から最後まで均等に保険料の2分の1を損金に算入すればよい、としている。
 以上の法人税基本通達9-3-4(3)の考え方は、法人税法22条における「当年の費用」とは大きく乖離している。法人税基本通達9-3-4(3)の2分の1損金の考え方は、当年の費用ではなく、保険期間が終了したところまでを総額計算し、毎年の費用として均等化している。更にその中には生存保険料(図表2における貯蓄保険料)が含まれる。

法人税基本通達9-3-4(3)における養老保険

 養老保険における死亡保険金の支払いに充当される保険料は、すべて危険保険料なのだろうか? 図表2によれば、生存保険料として支払われた保険料は、生存保険金の支払いのために積立てられる(保険料積立金)。途中死亡した被保険者に対する死亡保険金は、その一部にこの保険料積立金が充当される。そして保険料積立金と死亡保険金との差である不足分を危険保険金とし、両者の合計により死亡保険金が構成される。被保険者のだれがいつ死ぬかわからないので、すべての被保険者のための保険料には生存保険料が含まれている。保険期間の終期までまって、死亡保険金に充当された保険料(積立金を含めて)すべてが危険保険料だったという考え方は、本来の養老保険を無視した商品想定となっている。

本来の危険保険料を損金に算入するべきでは

 養老保険の保険料のうち、危険保険料は図表2における危険保険金に対応した部分である。この本来の危険保険料を損金に算入するのであれば(その損金算入は)、法人税法22条の考え方と整合する。
 危険保険金は、経過に応じて減少する。当年の危険保険料は、「危険保険金×当年の死亡率」である。経過に応じて死亡率は、(年齢が上がるので)上昇する。死亡率が大きく上昇した時期には危険保険金は逆に大きく減少している。したがって簡便法的に危険保険料の率を均等に設定することは可能と思われる。
 現在の法人税基本通達9-3-4(3)における損金算入の考え方を改め、本来の養老保険における危険保険料を想定した規定とする必要があると思われる。これにより法人税法22条の原則的考え方と整合する。同時に法人税基本通達9-3-5(定期保険・第三分野保険)との整合性も確保されることになると考えられる。

執筆者情報

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小山 浩一

著者略歴

生保会社勤務を経て2010年コンサルタントとして独立。
2017年3月 法政大学大学院政策創造研究科より「生命保険加入行動の実証分析」により法政大博士(政策学)。専門は、保険加入行動 リスク認知と対処行動 販売チャネルの消費者への影響等。
現在 法政大学大学院策創造研究科 兼任講師
(社)東京都食品福利共済会相談役
2020年10月(株)資産とリスク研究所設立、代表取締役。
(株)資産とリスク研究所HP
【資産とリスク・リスクと保険】情報のプラットフォーム
https://risk-ken.com/

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2021.11.12 17:42:33