HOME コラム一覧 所有者不明土地解消に向けて加速する動き

所有者不明土地解消に向けて加速する動き

post_visual

一 民法・不動産登記法の改正

◆所有者不明土地の発生要因は相続登記の未了

 近年、大きな社会問題の一つとなっている所有者不明土地問題の解消に向けて、各省庁の動きが加速している。改正民法・不動産登記法が成立する一方で、令和4年度税制改正要望において、国土交通省や法務省が、所有者不明土地解消に資する税制措置を求めている。

 改正民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)は令和3年4月に成立し、不動産(土地・建物)の相続登記が義務化される。所有者が亡くなったのに相続登記がされないと、登記簿を見ても持ち主が分からず、復旧・復興事業等や取引が進められないという問題が起きている。この「所有者不明土地問題」の発生を予防する観点から、その主要な発生原因である相続登記の未了や住所変更登記等の未了に対応するため、不動産登記法が改正された。

 所有者不明土地とは、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地、所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地をいう。国交省が約62万筆の地籍を対象に行った調査(平成29年)によると、所有者不明土地の割合は22%もあることが判明した。その原因は、相続登記の未了が66%、住所変更登記の未了が34%だった。そこで、不動産登記法の改正となる。

◆相続登記の義務化は令和6年からスタートする予定

 相続登記の未了への対応として、相続登記の申請の義務化は、令和6年からスタートする予定で、具体的な時期は今後決められる。新制度では、正当な理由がないのに、不動産の相続を知ってから3年以内に相続登記の申請をしないと、10万円以下の過料の罰則の対象となる可能性がある。ただし、例えば、関係者が多くて必要な資料を集めることが難しい場合などは、罰則の対象にはならない。

◆「相続人申告登記」と「所有不動産記録証明制度」の新設

 申告義務の実効性を確保するための環境整備策として、「相続人申告登記」と「所有不動産記録証明制度」が新設される。制度がスタートした後、不動産を相続する場合に、相続人の間で遺産分割の話合いが整ったときには、その結果を踏まえた登記をすることになる。話合いが難航した場合は、ひとまず、簡易な申請義務履行手段として新たに作られた「相続人申告登記」の手続きをとることで、義務を果たすこともできる。この手続きは、自分が相続人であると申告して、それを示す戸籍を出せば、一人で行うことができる。

 また、「所有不動産記録証明制度」は、登記漏れを防止する観点から、登記官において、特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産(そのような不動産がない場合には、その旨)を一覧的にリスト化し、被相続人等に証明するものだ。所有不動産記録証明書の交付請求が可能な範囲は、1)何人も、自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産について本証明書の交付請求が可能、2)相続人その他の一般承継人は、被相続人その他の被承継人に係る本証明書について交付請求可能、として限定される。

◆死亡情報について符号によって表示する制度の新設

 さらに、所有権の登記名義人の相続に関する不動産登記情報の更新を図る方策の一つとして、登記官が他の公的機関(住基ネットなど)から取得した死亡情報について符号によって表示する制度が新設されている。符号の表示を広く実施していく観点から、住基ネット以外の情報源(固定資産課税台帳など)からも死亡情報の把握の端緒となる情報を取得する予定という。

 これは、死亡情報についての符号の表示は、現行法の下では、特定の不動産の所有権の登記名義人が死亡しても、一般に、申請に基づいて相続登記等がされない限り、その登記名義人が死亡した事実は不動産登記簿に公示されないため、登記記録から所有権の登記名義人の死亡の有無を確認することができない現状があるからだ。符号の表示制度を導入後は、登記を見ればその不動産の所有権の登記名義人の死亡の事実を確認することができる。

◆住所変更登記等の未了への対応

 そのほか、住所変更登記等の未了に対応するため、所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける。「正当な理由」がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料の罰則の対象となる可能性がある。また、申請義務の実効性を確保するための環境整備策として、登記官が、他の公的機関から取得した情報に基づき、職権的に住所変更登記等をする新たな仕組みも導入される。

二 所有者不明土地の解消に向けた税制改正要望

◆国交省、所有者不明土地の発生抑制に向けて改正要望

 国土交通省は、人口減少や高齢化を背景とした所有者不明土地の増加が深刻化するなか、令和4年度税制改正要望において、ランドバンクへの税優遇の創設など、所有者不明土地問題解消に向けた税制面からの側面支援策を盛り込んでいる。ランドバンクとは、低未利用土地の利活用を図るためマッチング・コーディネートや土地所有者に代わる管理などの機能を担う法人のこと。

 同省が重点要望の一つとして掲げているのは、不動産市場の活性化・土地の有効活用の推進。その具体策として、まず、低未利用土地の流通促進によって所有者不明土地の発生を抑制するため、ランドバンクが流通阻害要因の解消を行うために一時的に取得する、管理不全等により流通に課題がある土地等について、登録免許税や不動産取得税を軽減する特例措置の創設を要望している。

 現在、国土審議会においてランドバンクの指定制度の創設が検討されており、要望では、こうしたランドバンクが土地建物を購入する際の流通税の軽減として、不動産取得税について課税標準の1/5を控除。また土地取得者がランドバンクから土地を購入する際の流通税の軽減として、所有権移転登記にかかる登録免許税を2%から1%に軽減することとを求めている。

 またこれに関連して、所有者不明土地法に基づく地域福利増進事業に係る税の特例措置の拡充も要望。地域福利増進事業とは、知事の裁定による使用権(最長10年)の設定により、所有者不明土地を公園や広場、購買施設等の公共的な事業のために活用可能とする制度。今般、再生可能エネルギーの推進や、防災・減災の必要性の更なる増大など、社会経済情勢の変化に対応する観点から対象事業の追加が検討されている。

 要望では、一定の事業のために土地等を譲渡した場合、所得税・法人税等について、長期譲渡所得(2000万円以下の部分)に係る税率を軽減するほか、地域福利増進事業の用に供する土地及び償却資産について、固定資産税・都市計画税の課税標準を5年間2/3に軽減し、地産地消に資する再生可能エネルギーに関する事業や、備蓄倉庫等の防災上有効な設備の整備に関する事業なども特例措置の対象に新たに追加することを求めている。

◆法務省、登録免許税の非課税措置の新設等を要望

 法務省は、所有者不明の土地問題が深刻化するなか、税制面からの問題解決策として、令和4年度税制改正要望の中で、登録免許税の非課税措置の新設や登録免許税の特例措置の拡充・延長を要望している。近年、不動産登記により所有者が直ちに判明しない、または判明しても連絡がつかない「所有者不明土地」が増加。民間の土地取引や公共事業の用地取得、農地の集約化、森林管理など様々な場面で多くの問題を引き起こしている。

 こうした所有者不明土地の主な発生原因は、所有権の登記名義人に相続が発生しているのに相続登記がされないこと(相続登記の未了)と、所有権の登記名義人が転居しているのに住所変更の登記がされないこと(住所等の変更登記の未了)が指摘されている。つまり、「相続時」に「登記をしなくてよく」、また、相続時に登記をしなくても「(その時は)困らない」という現状がある。また、所有者が不明なことによる弊害は建物についても指摘されている。

 こうした所有者不明土地問題の抜本的な解決に向け、法務省では、まず、所有者不明土地・建物の解消に向けた不動産登記法の改正を踏まえた登録免許税の特例の新設を求めた。相続登記や住所等の変更登記の申請の義務化や新たな職権的登記の創設等を内容とする不動産登記法の改正を踏まえ、所有者不明土地・建物の解消及び発生予防のための対策として、登録免許税に関する措置を提案したものだ。

 具体的には、不動産登記法改正で新設された職権的登記の登録免許税の非課税のほか、所有者不明土地等問題の解決に向けて、相続登記等に係る登録免許税の負担軽減を図るための特例新設を要望。次に、所有権の登記名義人が死亡した後も相続登記がされない土地について、その主要な発生原因の一つとして相続登記に係る費用の負担が指摘されていることから、相続登記の促進のための登録免許税の特例措置の拡充及び延長を要望した。

 具体的には、次の登録免許税の免除措置を3年間延長する。1)個人が相続(相続人に対する遺贈を含む。(2)の場合において同じ)により土地の所有権を取得した場合において、その個人が相続による土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときに、その個人をその土地の登記名義人とするために受ける登記に係る登録免許税を免除する。

 2)個人が、土地について所有権の保存登記又は相続による所有権の移転登記を受ける場合に、その土地が登記の促進を特に図る必要があるとして法務大臣が指定する土地であり、かつ、その土地の登記に係る登録免許税の課税標準となる価額が10万円以下であるときにおけるその登録免許税を免除する。また、上記1)の措置の恒久化や2)の要件を緩和し、適用対象となる土地を拡充することを要望している。

執筆者情報

税金ジャーナリスト 浅野宗玄

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

会計人 税金コラム

記事の一覧を見る

関連リンク

不動産売買に係る固定資産税精算金の取扱い

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2021/img/thumbnail/img_31_s.jpg
 近年、大きな社会問題の一つとなっている所有者不明土地問題の解消に向けて、各省庁の動きが加速している。改正民法・不動産登記法が成立する一方で、令和4年度税制改正要望において、国土交通省や法務省が、所有者不明土地解消に資する税制措置を求めている。 改正民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)は令和3年4月に成立し、不動産(土地・建物)の相続登記が義務化される。所有者が亡くなったのに相続登記がされないと、登記簿を見ても持ち主が分からず、復旧・復興事業等や取引が進められないという問題が起きている。この「所有者不明土地問題」の発生を予防する観点から、その主要な発生原因である相続登記の未了や住所変更登記等の未了に対応するため、不動産登記法が改正された。 所有者不明土地とは、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地、所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地をいう。国交省が約62万筆の地籍を対象に行った調査(平成29年)によると、所有者不明土地の割合は22%もあることが判明した。その原因は、相続登記の未了が66%、住所変更登記の未了が34%だった。そこで、不動産登記法の改正となる。
2021.10.22 17:18:53