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所得拡大促進税制の改正~中小企業を中心に

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リエ「黒田さん、所得拡大促進税制って今年度も適用できるのでしょうか。」

黒田「はい、令和3年4月1日以降に開始する事業年度でまた改正されていますが、制度としてはありますので、要件に該当すれば適用できます。」

リエ「また改正されているのですか。今回はどういう改正だったのでしょう。」

黒田「中小企業は所得拡大促進税制のままですが、大企業は人材確保等促進税制という名称に変わって、税額控除額の計算方法も中小企業とは違う計算方法になっているので、中小企業の所得拡大促進税制について申し上げます。」

リエ「はい、お願いします。」

黒田「中小企業のほうは要件の判定が簡素化されています。一定の役員や役員等と特殊な関係にある従業員の給与を対象外とすることは変わっていませんが、基本的にはこの制度で国内雇用者とされる従業員に、適用年度において支給する給与、これを『雇用者給与等支給額』といいますが、これが前年度の給与である『比較雇用者給与等支給額』の、101.5%以上であれば税額控除の対象となります。」

リエ「継続雇用者に対する給与とかは気にしなくてよくなったということですね、税額控除額はどのように計算するのですか。」

黒田「原則として雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額との差額に15%を乗じて計算した金額が税額控除の金額となります。」

リエ「税額控除額の計算も簡単そうですね。」

黒田「はい、ですが一つ気を付けなければならないことがあります。税額控除額の基礎となる雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額との差額を『控除対象雇用者給与等支給増加額』といいますが、雇用調整助成金等の雇用安定助成金を受給している場合、これを控除した場合の控除対象雇用者給与等支給増加額を上限としなければなりません。」

リエ「よく分かりませんが。」

黒田「例えば、適用年度に給与を1千万円支給しましたが、一方で雇用調整助成金を300万円貰いました。そして前年度は給与を600万円支給して、雇用調整助成金は貰っていませんでした。というケースですと、単純に税額控除額を計算すると1千万円と600万円との差額である400万円に15%を乗じて60万円となります。しかし、雇用調整助成金等を貰っている場合は、これを給与から控除したうえでの差額を計算し、それを控除対象雇用者給与等支給増加額の上限としなければなりませんので、このケースでいうと、適用年度の給与1千万円から300万円を控除した700万円と、前年度給与の600万円との差額である100万円が上限となってしまいます。」

リエ「つまり税額控除額は100万円の15%である15万円になってしまうということですか。」

黒田「その通りです。」

リエ「なるほど、一応わかりました。ちなみに今回も上乗せできたりするのでしょうか。」

黒田「はいできます。雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額の102.5%以上であることが必須条件で、あとは教育訓練費が前年度の教育訓練費の110%以上であるか、中小企業等経営強化法の認定を受けて、経営力向上が行われたことについて一定の証明がされているかのどちらかを満たすことによって、15%を乗じて税額控除額を計算するところを25%にすることができます。とはいえ税額控除額は法人税額の20%が上限とされていますので、上乗せできる状況であっても全額税額控除できないということもあります。」

リエ「今期の利益を予測したうえで、今後の賞与について検討する必要が生じるかもしれませんね。その時はまた相談させてください。」

黒田「かしこまりました。」

監修

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税理士 坂部達夫

坂部達夫税理士事務所/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

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リエ「黒田さん、所得拡大促進税制って今年度も適用できるのでしょうか。」黒田「はい、令和3年4月1日以降に開始する事業年度でまた改正されていますが、制度としてはありますので、要件に該当すれば適用できます。」リエ「また改正されているのですか。今回はどういう改正だったのでしょう。」黒田「中小企業は所得拡大促進税制のままですが、大企業は人材確保等促進税制という名称に変わって、税額控除額の計算方法も中小企業とは違う計算方法になっているので、中小企業の所得拡大促進税制について申し上げます。」リエ「はい、お願いします。」黒田「中小企業のほうは要件の判定が簡素化されています。一定の役員や役員等と特殊な関係にある従業員の給与を対象外とすることは変わっていませんが、基本的にはこの制度で国内雇用者とされる従業員に、適用年度において支給する給与、これを『雇用者給与等支給額』といいますが、これが前年度の給与である『比較雇用者給与等支給額』の、101.5%以上であれば税額控除の対象となります。」リエ「継続雇用者に対する給与とかは気にしなくてよくなったということですね、税額控除額はどのように計算するのですか。」黒田「原則として雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額との差額に15%を乗じて計算した金額が税額控除の金額となります。」リエ「税額控除額の計算も簡単そうですね。」黒田「はい、ですが一つ気を付けなければならないことがあります。税額控除額の基礎となる雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額との差額を『控除対象雇用者給与等支給増加額』といいますが、雇用調整助成金等の雇用安定助成金を受給している場合、これを控除した場合の控除対象雇用者給与等支給増加額を上限としなければなりません。」リエ「よく分かりませんが。」黒田「例えば、適用年度に給与を1千万円支給しましたが、一方で雇用調整助成金を300万円貰いました。そして前年度は給与を600万円支給して、雇用調整助成金は貰っていませんでした。というケースですと、単純に税額控除額を計算すると1千万円と600万円との差額である400万円に15%を乗じて60万円となります。しかし、雇用調整助成金等を貰っている場合は、これを給与から控除したうえでの差額を計算し、それを控除対象雇用者給与等支給増加額の上限としなければなりませんので、このケースでいうと、適用年度の給与1千万円から300万円を控除した700万円と、前年度給与の600万円との差額である100万円が上限となってしまいます。」リエ「つまり税額控除額は100万円の15%である15万円になってしまうということですか。」黒田「その通りです。」リエ「なるほど、一応わかりました。ちなみに今回も上乗せできたりするのでしょうか。」黒田「はいできます。雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額の102.5%以上であることが必須条件で、あとは教育訓練費が前年度の教育訓練費の110%以上であるか、中小企業等経営強化法の認定を受けて、経営力向上が行われたことについて一定の証明がされているかのどちらかを満たすことによって、15%を乗じて税額控除額を計算するところを25%にすることができます。とはいえ税額控除額は法人税額の20%が上限とされていますので、上乗せできる状況であっても全額税額控除できないということもあります。」リエ「今期の利益を予測したうえで、今後の賞与について検討する必要が生じるかもしれませんね。その時はまた相談させてください。」黒田「かしこまりました。」
2021.11.08 15:53:00