経営セーフティ共済の申告不備が問題に
リエ「経営セーフティ共済の特例の適用に関して、会計検査院が国税庁に対し、申告書類の不備を指摘したと耳にしましたが、どのようなことが問題になっているのでしょうか。」
黒田「新聞等で報道されている経営セーフティ共済の申告不備ですね。経営セーフティ共済は中小企業基盤整備機構が運営する共済制度で、中小企業等の連鎖倒産を防止するため、個人や法人が拠出した掛金の最高10倍まで借入れできる制度です。共済契約に係る掛金は、原則として経費計上することができませんが、経営セーフティ共済の特例を適用した場合、支払った掛金を全額経費計上することが認められています。」
リエ「弊社でも経営セーフティ共済に加入していますが、経営セーフティ共済の特例の適用により、確定申告書に明細書を添付して、掛金の全額を経費計上しています。」
黒田「そうですね。経営セーフティ共済の特例の適用により掛金を経費計上する場合、確定申告書等に掛金の経費計上に関する明細書を添付しなければならないと規定されています。法人税では、明細書の様式が定められており、別表十(七)「社会保険診療報酬に係る損金算入、農地所有適格法人の肉用牛の売却に係る所得又は連結所得の特別控除及び特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」に必要な事項を記載することで、支払った掛金を損金に算入することができます。一方、所得税では、明細書の様式が定められていなかったことから、経営セーフティ共済の特例を適用するための意思表示として、確定申告書とその添付書類において、掛金の支払の事実が客観的にわかる記載と掛金の金額が他の必要経費科目の金額と明確に区分できる記載がある場合に、明細書の添付と同様、適用の意思表示に必要な記載があるとして、必要経費への算入が認められていました。しかしながら、経営セーフティ共済の特例の意思表示に必要な記載がないにもかかわらず、経営セーフティ共済の特例を適用しているケースが多くあり、この点について会計検査院より指摘を受けました。」
リエ「所得税ではそのような取扱いになっていたんですね。経営セーフティ共済の特例について、適用の意思表示に必要な記載がなければ、掛金が経費計上されているか判断することが困難ですね。」
黒田「はい。この指摘を受け、国税庁は令和3年6月29日に所得税でも「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」を新設しましたので、今後、経営セーフティ共済の特例の適用する場合には、この明細書を添付する必要があります。次に、経営セーフティ共済を解約した場合には解約手当金が支給されますが、経営セーフティ共済の特例を適用した場合、解約手当金を収入計上することとされています。しかし、解約した者の相当数において、経営セーフティ共済の特例を適用し、掛金を経費計上しているにもかかわらず、解約手当金の収入計上が適切に行われていないなどの疑義が認められたとされています。」
リエ「経営セーフティ共済の特例適用の意思表示に必要な記載が不足している場合や解約に関する情報がなければ、解約手当金の収入計上が適正に行われているかわかりませんよね。解約手当金に対して今後どのような対応が図られるのでしょうか。」
黒田「会計検査院は改善処置として、手引等の作成による納税者への周知や資料情報制度を活用した経営セーフティ共済の解約者の情報の資料収集等を行うなど解約手当金の収入計上に係る審査体制の整備を要求していますので、解約手当金の収入計上に係る審査を適切に行うための整備が進められると思われます。」
リエ「わかりました。ありがとうございました。」