自社株式を活用するM&Aの検討
田中社長「ペーパーレスに取り組む動きの活発化でも苦しんできましたが、新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言は、経営に非常に大きな影響を与えています。取引先や同業でも廃業を検討しているなんて声をよく耳にするようになりました。」
黒田「確かに上場企業に比べて財務基盤の弱い中小企業は非常に厳しい状況が続いていますね。」
田中社長「先日も廃業も含めて引退を考えていた昔馴染みのA社の経営者から無償でも良いから会社を引き継いでもらえないかと相談されたところです。うちも決して楽な状態ではありませんので、その場での回答は保留したのですが、スケールメリットや営業力、異なる得意分野という点を考えるととても良い話であり、検討すべきではないかと悩んでいます。」
黒田「どの形がお互いにベストな条件なのか慎重に考えなければなりませんが、選択肢の一つとして自社株式を活用するM&Aを検討されてはいかがでしょうか。」
田中社長「そういえば、数年前に自社株式の取得をしましたね。」
黒田「A社の株主に対して自社の株式を交付し子会社化(株式を50%超取得)する方法になります。令和3年4月1日以後に行われる会社法に基づく株式交付により、その所有する株式を譲渡し、買収会社の株式の交付を受けた場合には、簿価による譲渡がされたものとみなして譲渡損益の計上を繰り延べる(株の売却時に課税)ことが可能となりますのでA社の株主にとっても良いお話ができるのではないでしょうか。」
田中社長「自社株式を使用することで買収に必要な資金を設備や人材の投資に活用できるのはありがたいですね。」
黒田「対価として交付を受けた資産の価額のうちに占める買収会社の株式の価額が80%以上である場合に限定され、買収会社の株式以外の資産の交付を受けた場合には買収会社の株式に対応する部分のみ譲渡損益の計上を繰り延べることがでるという点にはご注意ください。また、買収会社の確定申告書の添付書類に株式交付計画書及び株式交付に係る明細書を加えるとともに、株式交付により交付した資産の数または価額の算定根拠を明らかにした書類を添付することが適用要件とされています。」
田中社長「企業価値を向上させることでA社の株主にインセンティブで応えることができるし本気で検討してみるかな。大まかな部分は承知しましたので、実際に話が進捗するようであれば、再度適用要件等を確認させていただきます。」