HOME コラム一覧 副業・兼業の労災保険給付の算定に注意!

副業・兼業の労災保険給付の算定に注意!

post_visual

今日は守田社労士の訪問日です。

リエ「守田先生、こんにちは。今日は相談したいことがあるんです。」

守田「どうしました。いつもより慌てている様子ですが……。」

リエ「そうなんです。なんだかよくわからなくて……。実は、工場勤務の社員が少し前にケガで入院したので休職の手続きを取ったんです。休職になると給与が不支給になるので、健康保険の傷病手当金の申請について本人に説明したら、労災の手続きを取るって言われたんです。」

守田「仕事中のケガだったのですか?」

リエ「違うんですよ。だから最初は何を言いだしたのかと思って……。本人から聞いたところによると、家庭の事情で急にお金が必要になったので、臨時で工事現場のアルバイトをしていたそうです。そこで資材を運んでいる時に、誤って溝のようなところに落ちて片足を骨折したらしいのです。」

守田「なるほど、確かに労災ですね。」

リエ「でも、それであればアルバイト先の労災ですよね。なのに、うちの会社の書類も出してくれって言われて混乱しているんです。」

守田「なるほど、早速出てきましたね。昨年(令和2年)9月1日に『副業・兼業の促進に関するガイドライン』の改定があったのですが、その中の1つに『複数就業者について、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定する』というものがあります。」

リエ「どういうことですか。」

守田「本業の他に副業をしている人が、そのアルバイト先で労災事故に遭った場合、以前ではすべての手続きをアルバイト先、つまり災害が発生した事業場が行っていました。傷病が軽傷で治療費だけの請求であれば問題はないのですが、今回のケースのように、長期治療が必要な場合は本業の会社も休まなくてはなりませんよね。それでも給付金の算定は災害が発生したアルバイト先の賃金のみを元に計算されていたのです。例えば、本業で月25万円の賃金、アルバイト先で月5万円の賃金を得ていた場合、被災者は月30万円の収入がストップしてしまうのに、休業補償は事故に遭ったアルバイト先の月5万円による算定分しか受け取れなかったのです。今回の改正によって、副業をしている人、つまり複数就業者が労災事故に遭った場合の給付額は、労災事故を起こしていない会社の賃金額も合算して30万円で算定ができることになりました。もちろん本業で労災事故に遭ったとしても同じ考え方になります。『複数事業者労働者用』という新しい様式もできたので、そちらを提出してくださいね。」

リエ「そういうことですか。ようやくわかりました。そもそも最初からアルバイトをするって報告してくれればいいのに……。」

守田「そうですね。副業・兼業については、以前は認めないという会社も多くありましたが、ここ数年、認める会社も増えてきて、厚生労働省のモデル就業規則も制限付きではありますが、原則として認めるものになっています。とはいえ、勝手に副業をされてしまっては労働時間の把握もできませんから、会社に届け出ることは必須です。今回の対象者は、まず会社に相談をするべきでしたね。」

リエ「そうですよね。会社の中でしっかりルールを決めておいたほうがいいですよね。」

守田「もちろんです。認められないのはどんな場合か、申請書には何を載せるのか、どのタイミングで誰に申請するのか等々、労使でしっかり話し合ってくださいね。結構大変な作業ですよ。就業規則にも反映させなければいけませんね。」

リエ「わぁ、大変だ。」

守田「ただ、働き方改革の基本的な考え方である、『個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにする』ためには、必要な作業です。頑張ってください。」

リエ「そうですね。私にもみんなにも働きやすい会社を目指します。ありがとうございました。」

監修

profile_photo

税理士 坂部達夫

坂部達夫税理士事務所/(株)アサヒ・ビジネスセンター

 東京都墨田区にて平成元年に開業して以来、税務コンサルを中心に問題解決型の税理士事務所であることを心がけて参りました。
 おかげさまで弊所は30周年を迎えることができました。今後もお客様とのご縁を大切にし、人に寄り添う税務に取り組んでいきます。

メールマガジンやセミナー開催を通じて、様々な情報を発信しています。

この記事のカテゴリ

この記事のシリーズ

OLリエちゃんの経理奮闘記

記事の一覧を見る

関連リンク

年の途中で退職して年末調整の対象となる人は

税務・会計に関する情報を毎週無料でお届けしています!

メルマガ登録はこちら


コラム
/column/2021/img/thumbnail/img_07_s.jpg
今日は守田社労士の訪問日です。リエ「守田先生、こんにちは。今日は相談したいことがあるんです。」守田「どうしました。いつもより慌てている様子ですが……。」リエ「そうなんです。なんだかよくわからなくて……。実は、工場勤務の社員が少し前にケガで入院したので休職の手続きを取ったんです。休職になると給与が不支給になるので、健康保険の傷病手当金の申請について本人に説明したら、労災の手続きを取るって言われたんです。」守田「仕事中のケガだったのですか?」リエ「違うんですよ。だから最初は何を言いだしたのかと思って……。本人から聞いたところによると、家庭の事情で急にお金が必要になったので、臨時で工事現場のアルバイトをしていたそうです。そこで資材を運んでいる時に、誤って溝のようなところに落ちて片足を骨折したらしいのです。」守田「なるほど、確かに労災ですね。」リエ「でも、それであればアルバイト先の労災ですよね。なのに、うちの会社の書類も出してくれって言われて混乱しているんです。」守田「なるほど、早速出てきましたね。昨年(令和2年)9月1日に『副業・兼業の促進に関するガイドライン』の改定があったのですが、その中の1つに『複数就業者について、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定する』というものがあります。」リエ「どういうことですか。」守田「本業の他に副業をしている人が、そのアルバイト先で労災事故に遭った場合、以前ではすべての手続きをアルバイト先、つまり災害が発生した事業場が行っていました。傷病が軽傷で治療費だけの請求であれば問題はないのですが、今回のケースのように、長期治療が必要な場合は本業の会社も休まなくてはなりませんよね。それでも給付金の算定は災害が発生したアルバイト先の賃金のみを元に計算されていたのです。例えば、本業で月25万円の賃金、アルバイト先で月5万円の賃金を得ていた場合、被災者は月30万円の収入がストップしてしまうのに、休業補償は事故に遭ったアルバイト先の月5万円による算定分しか受け取れなかったのです。今回の改正によって、副業をしている人、つまり複数就業者が労災事故に遭った場合の給付額は、労災事故を起こしていない会社の賃金額も合算して30万円で算定ができることになりました。もちろん本業で労災事故に遭ったとしても同じ考え方になります。『複数事業者労働者用』という新しい様式もできたので、そちらを提出してくださいね。」リエ「そういうことですか。ようやくわかりました。そもそも最初からアルバイトをするって報告してくれればいいのに……。」守田「そうですね。副業・兼業については、以前は認めないという会社も多くありましたが、ここ数年、認める会社も増えてきて、厚生労働省のモデル就業規則も制限付きではありますが、原則として認めるものになっています。とはいえ、勝手に副業をされてしまっては労働時間の把握もできませんから、会社に届け出ることは必須です。今回の対象者は、まず会社に相談をするべきでしたね。」リエ「そうですよね。会社の中でしっかりルールを決めておいたほうがいいですよね。」守田「もちろんです。認められないのはどんな場合か、申請書には何を載せるのか、どのタイミングで誰に申請するのか等々、労使でしっかり話し合ってくださいね。結構大変な作業ですよ。就業規則にも反映させなければいけませんね。」リエ「わぁ、大変だ。」守田「ただ、働き方改革の基本的な考え方である、『個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにする』ためには、必要な作業です。頑張ってください。」リエ「そうですね。私にもみんなにも働きやすい会社を目指します。ありがとうございました。」
2021.06.07 14:35:11