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少人数私募債に関する新たな改正

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はじめに

 公募公社債に係る利子所得は申告分離課税の対象とされ、私募公社債に係る利子所得は源泉分離課税の対象とされるが、適用される税率はいずれも所得税15%、住民税5%(このほか復興特別所得税)となっている。

 ただし、私募公社債に係る利子所得で特定の同族株主等が支払を受けるものについては、総合課税の対象とすることとされている。このため、少人数私募債に係る利子所得で、特定の同族株主等が支払を受けるものは、総合課税の対象となる。少人数私募債の償還金に係る譲渡所得ついても、利子所得と同様に取り扱うこととされている。

 令和3年度の税制改正では、この総合課税の対象となる利子所得等の範囲が改正され、直接の支配関係のない法人から支払を受けるものであっても、一定の関係のある法人から支払を受けるものについても、総合課税の対象とすることとされた。この改正は、令和3年4月1日以後に支払を受ける利子について適用される。

 本稿では、今回の改正を含め、少人数私募債に係る利子所得等で総合課税の対象となるものについて解説することとする。

1 少人数私募債の発行の意味

 少人数私募債は、通常の社債と異なり、発行金額が原則1億円未満と少額であるが、募集人数が50人未満で、有価証券届出書や報告書の提出・開示をする必要がなく、無担保で発行できるなど、事務手続等が簡素化されているため、同族会社等では多く利用されている。

 また、税負担的には、従来、1)役員報酬の増額支払に代えて社債利子を支払うことによって個人の税負担を軽減できる、2)借入金利子の支払に代えて社債利子を支払うことによって個人の税負担を軽減できる、3)配当金の支払に代えて社債利子を支払うことによって法人の税負担を軽減できるといったメリットがあるとされてきた。

2 少人数私募債に関する平成25年及び平成26年の税制改正

 上記1の税負担軽減策は、同族会社であればこそ可能と考えられるものであることから、平成25年及び平成26年の税制改正では、金融所得課税の一体化を目指す税制改正の機に、これを総合課税の対象とすることとされた。その内容は次のとおりである。

(1)金融所得課税の一体化に関する税制改正
 
 平成25年の税制改正による金融所得課税の一体化の根幹は、1)公社債、2)公社債投資信託、3)公社債等運用投資信託及び4)社債的受益権から生ずる所得について、株式や株式等証券投資信託などの課税体系の中に組み入れることであった。
 
 その際、その1)から4)までの証券が公募上場等であるか否かによって、特定公社債等と一般公社債等とに区分し、それぞれを改正前の上場株式等と非上場株式等と同じような課税体系に組み入れられた。

 ただし、一般株式等に係る利子等については、税率20%の源泉分離課税を踏襲することとされた。更に、平成27年12月31日以前に発行された公社債はすべて特定公社債等に含めることとし、その発行時に、一般公社債等に該当するものであってもその利子については、税率20%の申告分離課税の対象とすることとされた。

(2)少人数私募債に関する税制改正の経緯

 少人数私募債は、従来、会社オーナー等個人の節税効果を狙って発行されることが多く従来から課税上の問題点の一つとされていた。しかし、その少人数私募債は平成25年度の税制改正後の一般公社債等に該当するので、その利子については改正前と同じように税率20%の源泉分離課税となるわけで、その課税上の問題点は改善されたことにはならない。このため、同年の改正では、少人数私募債のうち同族会社が発行した社債の利子で、その会社の特定の株主等が支払を受けるものについては、総合課税の対象とすることとし、超過累進税率の適用対象とすることとされた。
 
 ところが、平成27年12月31日以前に発行された公社債はすべて特定公社債等に含めることとされた点(上記(1)ただし書)に問題が残されていた。上記の改正のままであれば、その社債の利子については改正前どおり税率20%の申告分離課税の対象となる。このため、翌年の平成26年度の税制改正の際に、少人数私募債のうち平成27年12月31日以前に同族会社が発行した社債を一般公社債に含めることとし、その利子で、その会社の特定の株主等が支払を受けるものについては、総合課税の対象とすることとされた。この追加改正により、平成27年12月31日以前に発行された社債に係る利子についても、平成28年分以後に支払を受けるものについて総合課税の対象とされることになった。
 なお、以上は少人数私募債のうち同族会社が発行した社債の利子に関するものであるが、その社債の償還金による所得で、その会社の特定の株主等が支払を受けるものについても、総合課税の対象とすることとされた。

3 少人数私募債に関する令和3年の税制改正

 上記2の改正後の制度の下では、私募公社債に係る利子又は償還金であっても、同族会社の株主等に該当しない個人が支払を受けるものは、源泉分離課税の対象となる。しかし、その個人と同族会社との間に、その個人が支配する法人を介在させて間接的にその同族会社を支配するケースについては、上記1と同様に税負担を軽減させることが可能になる。

 そこで、令和3年度の税制改正において、以下のようなケースにおいて、個人Cが支払を受ける社債利子又は償還金を、上記2と同様に、総合課税の対象とする措置を講じることとされた。この改正は、令和3年4月1日以後に支払を受けるものについて適用される。個人と各法人との関係を図示すると、次のようになる。


1) 同族会社Aは、B法人を同族会社であると判定する際の基礎となる株主である。
2) 同族会社Aは、個人C(特殊関係個人を含む。以下同じ。)と「特殊の関係にある法人」である。
3) 同族会社Bは、少人数私募債の発行法人であり、個人Cは、その社債に係る利子の支払を受けるものである。
4) 上記2)の「特殊の関係にある法人」とは、次に掲げる法人をいう。
イ 個人Cが法人を支配している場合における当該法人
ロ 個人C及びイの法人が他の法人を支配している場合における当該他の法人
ハ 個人C及びイ又はロの法人が他の法人を支配している場合における当該他の法人
(注)この場合の「支配している場合」とは、原則として、発行済株式の総数の50%を超える数を有する場合をいう。

 小規模会社の資金調達手段として少人数私募債の存在意義はあるので、そもそも税負担軽減の効果ゆえにこれを封じることが適切かどうかについて議論のあるところだと思う。以上の改正により、税負担軽減策としては完全に封じられたようにみえるが、まだ代案が残っていそうである。

執筆者情報

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税理士 小田 満

 国税庁勤務22年の後、町田・横浜南・板橋の各税務署長を経て、平成19年税理士登録。
 主な著書は、「図表でわかる新税制による金融商品課税の要点解説」、「Q&A プロ選手・開業医・芸能人等の特殊事情に係る所得税実務」など多数。

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2021.05.21 17:14:47