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契約者変更―名義変更プランに関わる税制問題

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 本年3月中旬、生命保険法人契約に関わる「名義変更プラン」について「国税庁が現行の税務取り扱いを変更する方向である」と一部新聞各紙により報道された。曰く「「節税保険」生保と攻防再燃」「抜け道ふさぐ」等である。
 新聞各紙の見出しほどセンセーショナルな話ではなく、今回の動きを、令和元年改定(定期保険・第三分野保険に関わる法令解釈通達)における国税庁の問題意識からの延長線としての位置と、規定や実務の整合性を図ったと思われる方向性の点から整理しておきたい。

名義変更プランと見直し(案)の内容

 一般的に行われている(意図されている)名義変更プランは、生命保険法人契約を締結した後、一定期間経過後に契約者を役員等個人へ変更するものである。「プラン」なので新契約段階からその変更を織り込んで案内が行われていると考えられる。

 新契約時点で将来の契約者変更を織り込むということは、何らかのメリットがそれにより生ずるためである。このメリットは、税制上の規定により生ずるもので、生命保険の本質的機能から生じたものではない。だからこそ国税庁による見直し方針が出された。

 現行の税制では、生命保険法人契約を法人から個人へ契約者(名義)変更を行った場合、その契約の評価額は当該契約の解約返戻金である。これにより変更時点での評価額(解約返戻金の額)によりその契約が新たな契約者へ変更される。したがって新しい契約者はその額で買いとる、あるいは課税(所得税)されるなどの扱いとなる。その後、その契約を引きついだ新しい契約者には保険料支払い義務が生じ、以降、その契約の一切の権利義務を持つことになる。

 変更時点の評価額が解約返戻金であるとの根拠は所得税基本通達36-37による。

所得税基本通達36-37

 使用者が役員又は使用人に対して支給する生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約に関する権利については、その支給時において当該契約を解除したとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険料の金額、剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額との合計額)により評価する。

 所得税基本通達36-37の内容は極めて自然である。すなわち、普通に考えると生命保険契約のその時点における権利(評価の額)は責任準備金である。ところが責任準備金の額は個々の契約ごとに明らかにされていない。解約返戻金はこれに対して明らかにされている。そもそも解約返戻金は責任準備金を基準にしており近似している。したがって権利(評価の額)を解約返戻金とすれば、基本的な考え方(責任準備金)、実務(解約返戻金)の双方から問題ない。所得税基本通達36-37は「解約返戻金が責任準備金に近似する」限り最も妥当な内容となっている。

 ところが解約返戻金が責任準備金に近似しない生命保険商品が一般化し、それが法人により利用されている現状がある。すなわち低解約返戻金型の保険である。低解約返戻金型の保険商品は、保険期間の当初から定められた期間、本来の解約返戻金の70%等低解約率を適用し、解約返戻金を低く抑えている。この間、解約返戻金は責任準備金に近似しない。このため、低い解約返戻金の段階で名義変更すると、その後、解約返戻金が増大した差額を実質的に低コストで資産移転できる。

 以上のことから国税庁は「現行制度の問題点」として、「現行、法人契約において役員等に名義変更を行った場合の保険契約の評価額は、解約返戻金としている。当該取扱いは妥当と考えるものの、通常の取引において、将来多額の金額(解約返戻金)を受け取ることができる保険契約を、低い解約返戻金で名義変更を行うことは想定されないことから、低い解約返戻金で評価することは不適当」であるとの認識を示している。

国税庁から示された対応方針(案)

 国税庁が本件に関わる対応方針(案)として示した内容は、以下のようなものである。すなわち「現行は法人契約から個人契約に名義変更する際の保険契約の評価額を一律解約返戻金額で評価しているが、これを、解約返戻金が資産計上額の7割未満の場合は資産計上額で評価するよう見直す方向」である。

 この見直しは「2019年7月8日以降締結(払済保険への変更を含む)した契約(法人税基本通達9-3-5の2に基づき資産計上されている契約)のうち、今回の改正日(6月下旬予定)後に名義変更を行った場合に適用することを想定」している。

なぜ、2019年7月8日以降締結した契約からなのか?

 定期保険・第三分野保険については2019年7月8日より法人契約に関わる税務が大きく改定された。この内容の基本となる考え方を整理しよう。

 生命保険法人契約の保険料は、平準保険料における前払い部分を本来資産計上する必要がある。ところが、個々の保険契約単位ではその額が不明のため、簡便法として通達による方式をとっている。

 2019年7月8日以降契約に関わる改定(令和元年法令解釈通達)では、この保険料における資産計上割合をピーク時解約返戻率による基準に改めた。その考え方は「解約返戻金=前払保険料の累積額に近似する」(令和元年法令解釈通達)との想定によっている。

 ここでこれまで出てきた用語や概念とその関係を整理しておく。責任準備金は将来の保険金等支払いのために積み立てられる準備金である。この用語はいわば保険用語である。次に「解約返戻金=前払い保険料の累積額に近似する」は税務を想定した表現といえる。(平準保険料のうちの)前払い保険料は将来の保険金支払いのための部分といえる。

 これをつなげると、「責任準備金(将来の保険金支払いのための準備金)」→「前払い保険料(将来の保険金支払いのための部分)→「解約返戻金(前払い保険料の累積額に近似)」とつながる。令和元年法令解釈通達では以下の通り税務上の扱いを4区分している。図表1に税務上区分を示す。

図表1 定期保険及び第三分野保険における税務上の区分
  ピーク時解約返戻率
定期保険及び 第三分野保険 85%超
85%以下
70%以下
50%以下

 図表1最下段のピーク時解約返戻率50%以下は、法人税基本通達9-3-5に該当する。今回の名義変更に関わる見直しの対象は法人税基本通達9-3-5の2該当契約であり、上記図表1ではピーク時解約返戻率(50%超)70%以下以降(図表1では上)である。

 ピーク時解約返戻率が50%を超えたものから保険料の資産計上割合が段階別に設定された。その基本となる考え方は「解約返戻金=前払保険料の累積額に近似する」というものである。この前払い保険料の累積額に近似する解約返戻金のピーク時返戻率により保険料の資産計上割合(計算基準)が定められた。これにより、「前払い保険料を資産に計上する」という原則的考え方と整合する税務が整備されたといえる。言い換えると2019年改定前まで、生命保険法人契約の資産計上のあり方は、「個別通達」と「新たな保険商品の登場」により実質的に変動し、税務想定と「保険商品による税務想定潜脱」との「いたちごっこ」であった。

 そもそも(国税庁の考え方では)2019年7月7日以前は法人契約における主要な生命保険商品は、資産計上割合が少なく、損金算入割合が高く設定されていた(だからこそ令和元年法令解釈通達により改定された)。その「資産計上割合が少ない(2019年7月以前)」契約について「解約返戻金と資産計上額の70%未満」との関係でみても、問題となる対象契約は抽出できない。

 以上のことから2019年7月7日以前契約については、国税庁は経過措置として目をつむったとも考えられる。また今回の見直し(案)により、2019年7月8日以降契約から「法人契約の資産計上割合の考え方」と「名義変更に関わる権利の評価」の間の税務上の整合性が整備されることになる。

実際の契約例で見てみる

 実際の契約例で、現行の取り扱いと見直し(案)について確認してみる。ある生命保険会社の逓増定期保険の例である。図表2に契約例を示す。

図表2 逓増定期保険の例(ある会社の例)
契約の概要等   5年 6年
保険種類 逓増定期保険 年払保険料 2,812,687 2,812,687 2,812,687
ピーク時返戻率 84.50% 保険料累計 14,063,435 16,876,122
低解約返戻期間 5年 資産計上額 1,687,612 1,687,612 1,687,612
50歳加入 72歳満了 資産計上累計額 1,687,612 8,438,061 10,125,673
保険期間40%相当期間において保険料の60%を資産計上 解約返戻金※ 2,270,000 13,880,000
解約返戻金÷資産計上累計額 27% 137%

※解約返戻金は募集資料上「約」表示で万円までの記載による。


 50歳(男性)72歳満了逓増定期保険、低解約返戻期間5年、保険金1億円(経過16年目から保険金が50%複利逓増のタイプ)の例である。年払保険料は281万2687円。

 低解約返戻期間最終年度である経過5年でみると、保険料累計は1406万3435円、解約返戻金は227万円である。資産計上累計額は843万8061円である。解約返戻金の資産計上累計額に対する割合は27%となる。経過6年では、保険料累計は1687万6122円、解約返戻金は1388万円である。資産計上累計額は1012万5673円であり、解約返戻金の資産計上累計額に対する割合は137%となる。

 以上の契約例において経過5年で契約者を法人から個人へ名義変更すると、現行では、評価額は227万円、これに対して見直し(案)では843万8061円である。現行と見直し(案)を図表3のように整理した。

図表3 現行と見直し(案)対比表
  経過5年 経過6年   経過6年
評価の額 保険料支払   解約返戻金
現行

227万円  

(解約返戻金)

281万2687円   1388万円
見直し(案)

843万8061円

(資産計上額)

281万2687円   1388万円

 現行では経過5年で227万円と評価された額により取得(買いとる、あるいは課税される)し、翌年281万2687円の年払い保険料を支払う。両者を合計すると508万2687円である。この額を負担(評価による取り扱いと支払いなので、厳密ではないが意味的にはそういう主旨で理解できるはずである)して、経過6年の解約返戻金1388万円に関わる権利を保有する。

 これに対して見直し(案)では経過5年で843万8061円と評価された額により取得(買いとるあるいは課税される)し、翌年281万2687円の年払保険料を支払う。両者を合計すると1125万748円である。この額を負担して、経過6年の解約返戻金1388万円に関わる権利を保有する。

 以上のことから、低コストで資産移転するプランは、今回の見直し(案)により相当程度制約されることがわかる。

そもそもの起点は令和元年法令解釈通達

 今回の見直し(案)について、新聞等報道では、「節税保険に関する生保との攻防の再燃」だとか、「抜け道ふさぐ」などセンセーショナルに表現しているが、関係者で今回の動きをそのように考えた人は少ないのではないかと思う。「いずれ来る道」と思っていた人が多いのではないか。その理由は、令和元年法令解釈通達により転換した生命保険法人契約に対する保険税務の方向性である。またその方向性を貫徹しようとする国税庁の考え方(当該解釈通達時における発出文書別紙1記載)に示される。

 そもそも論で恐縮だが、税は対象となる取引に対して原則として中立である。その中立という原則の中で、社会政策的にインセンティブとしての性格を持つように策定されることがある。中小企業投資促進税制等がその例といえる。

 生命保険法人契約の場合、生命保険本来の機能(死亡保障等各種の保障や、解約返戻金など)の法人による利用について、保険税務がインセンティブとなり、その利用を促進することが、社会政策的意図と別に生じていた。具体的には含み益(解約返戻金-資産計上累計額)が生ずることにより、これを目的とした生命保険法人契約利用が多くみられた。いわば保険税務は意図せざるインセンティブ税制だったともいえる。

 令和元年法令解釈通達により生命保険法人契約に関わる保険税務は「インセンティブ機能を解消し、生命保険利用に中立とする」方向へ明確に舵が切られたと考えられる。

 令和元年法令解釈通達発出時におけるパブリックコメントに対する見解をまとめた別紙1「御意見の概要及び国税庁の考え方」において、国税庁は、今後も
「 国税庁としては、予測可能性の確保等の観点から、支払保険料の損金算入時期の取扱いについて、御意見のように、長期的に持続可能なものとすることが望ましいと考えています。その一方で、保険会社各社の商品設計の多様化、長寿命化その他の経済環境等の変化などに伴い、その取扱いの見直しが必要と認められた場合には、適時適切に対応していく必要があると考えています。 国税庁としては、御意見のような保険商品やその利用実態も含め、保険商品全般の実態を引き続き注視し、必要に応じて取扱いの適正化に努めてまいりたいと考えています。 」(別紙1.2頁最下段回答。下線は筆者)
 と述べている。これにより税務が想定する保険商品と、実際の保険商品との間に乖離がみられる場合には、「適正化につとめる」ことを明記している。

今回の名義変更プランに関わる見直し(案)では、生命保険の評価の額を解約返戻金とする場合、「解約返戻金は責任準備金と近似している」という税務想定と乖離した商品の存在に着目している。そして責任準備金と乖離した低額の解約返戻金となる生命保険商品についてはその乖離を解消しようとしている。低額となる乖離をそのままとすれば、「名義変更プラン」という生命保険取引に、税務は中立でなくインセンティブとなっている。これを放置することは令和元年法令解釈通達により抜本的に目指された保険税務の方向性と不整合となる。

 以上のことから、今回の見直し(案)はそれほどセンセーショナルな話ではなく、本件関係者は「いずれ来る道」という認識を持たれていたと思われる。

見直し(案)その他の留意事項

 今回の名義変更は、生命保険法人契約について規定している。個人契約は原則として対象とならない。ただし「使用者」から「役員又は使用人」への名義変更を想定しているため、個人事業主の契約は対象になる。この点は留意しておく必要がある。

 さらに、いわゆる死亡保障と生存保障が一体化されている組込型保険については、「法人税基本通達9-3-5の2」を含んだ取扱いとすることが原則だが、その取り扱いを適用せず、「法人税基本通達9-3-4(1)」等の取扱いに準じて、養老保険等と同様の経理処理を行うことは差し支えないこととされている(令和元年法令解釈通達)。このためいわゆる組込型保険については養老保険等と同様の経理処理で取扱っている保険契約では「法人税基本通達9-3-5の2」を適用しないため、今回の改正の対象外となる。

今後の生命保険法人契約の税務問題

 令和元年法令解釈通達も、今回の見直し(案)も対象は定期保険・第三分野保険である。逆に言うと養老保険や終身保険は対象外である。筆者がみる限り、税務の想定と保険商品の乖離は、現行税務では養老保険においてみられる。すなわち法人税基本通達9-3-4(3)におけるハーフタックスプランの1/2損金算入割合の問題と、それを引きずる逆ハーフタックスプランの税務実務の問題である。

 国税庁が今後、この商品分野にまで踏み込んでくるかは不明である。特にハーフタックスプラン1/2損金の考え方は、生保側の問題というより、税務の世界の側の養老保険解釈に基づく性格にあると考えられ、ここまでの動きとは起点が相違している。その意味でもこの問題に踏み込んでくるかは不明である。しかし、ハーフタックスプランの1/2損金算入割合を引きずる「逆形態とされる逆ハーフタックスプラン」の税務実務は、明らかに生命保険取引のインセンティブとなる性質を有している。

 現在、生命保険会社側が逆ハーフタックスプラン新契約の引き受けを停止しており、その意味で新たな問題が生ずる余地は小さいと考えられる。しかし、契約後の受取人変更などにより、新契約後に逆ハーフタックスプラン形態とすることは可能と思われ、問題が生ずる余地がゼロとなっているわけではないことは留意しておく必要がある。 

執筆者情報

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小山 浩一

著者略歴
生保会社勤務を経て2010年コンサルタントとして独立。
2017年3月 法政大学大学院政策創造研究科より「生命保険加入行動の実証分析」により法政大博士(政策学)。専門は、保険加入行動 リスク認知と対処行動 販売チャネルの消費者への影響等。
現在 法政大学大学院策創造研究科 兼任講師
(社)東京都食品福利共済会相談役
2020年10月(株)資産とリスク研究所設立、代表取締役。

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2021.04.19 16:30:44