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特別清算という選択肢

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第1 はじめに

 未曾有のコロナ禍において、株式会社の清算を考えている方もいらっしゃるかと思います。そのような方に特別清算という選択肢もあることを知っていただきたいと思い、本コラムを書かせていただきました。

第2 特別清算とは

 特別清算とは、株式会社を清算したいけれども、債務超過等を理由に通常清算を行うことができない場合に、裁判所の関与のもと、清算することができる手続のことです。
 通常清算を行うためには、会社の債務をすべて弁済する必要がありますので、債務超過の会社は、清算手続を行うことはできず、破産手続を行う必要があります。しかし、破産手続となると、手続が厳格なものとなります。一方、特別清算では、裁判所の監督の下、会社の清算人(会社の代表取締役であった者が就任することが多いです)が清算手続を行い、個別の事案に応じて柔軟に手続を行うことが可能です。

第3 特別清算の要件

 特別清算は、下記の要件をいずれかを満たす場合に申立てることが可能です(会社法510条)。なお、特別清算の対象は、株式会社のみであり、合同会社等は対象外となります。
 ① 清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること
 又は
 ② 債務超過の疑いがあること
 また、特別清算の申立権者は、債権者、清算人、取締役又は株主です(会社法511条1項)。もっとも、清算人が代理人弁護士を選任し、弁護士に手続を委任することが可能です。

第4 特別清算のメリット

1 迅速な手続が期待できること

(1) 破産手続においては、破産管財人が債権調査を行いますが、特別清算においては、債権調査は行われず、迅速な処理を行うことができます。
(2) 破産手続の場合は、裁判所から選任された破産管財人が手続を進めます。破産管財人は、会社と関わりのない者ですから、破産管財人に選任後に当該会社を一から調査します。
 一方、特別清算の場合は、清算人が手続を進めます。通常、清算人は、会社の代表取締役であった者などが就任することが多く、特別清算手続を行う前から会社の実情を把握しています。このような者が手続を主導することで、迅速に手続を進めることができます。

2 柔軟な処理が可能なこと

(1)個別和解型
 個別和解型は、清算人(代理人弁護士)が個々の債権者と交渉し、債権者に債権の一部を放棄してもらうことで、特別清算を行うものです。個別和解は、個々の債権者との交渉なので、債権を放棄してもらう割合は債権者ごとに異なっても問題ありません。ですので、前代表取締役や系列会社などの清算会社と関係の深い債権者については債権放棄の割合を高くし、他の債権者については、債権放棄の割合を低くするなどといった柔軟な対応をすることが可能です。ただし、個別和解をする場合でも裁判所の許可は必要となります(会社法535条1項4号)。
(2)協定型
 上記の個別和解型は、債権者ごとに柔軟な処理が可能ですが、債権者の数が多い場合など個々の債権者と和解を行うことが難しい場合もあります。そのような場合には、協定型による特別清算が有益です。
 協定型は、債権者集会において協定案を可決することで、画一的に債権者の債権放棄の割合を決定するというものです。可決された協定案については、すべての債権者が拘束されるため、特別清算に非協力的な債権者が存在したとしても、特別清算手続を進めることが可能です。
 なお、協定案の可決要件は以下の2つです。
 ①出席した議決権者の過半数の同意
 かつ
 ②議決権者の議決権の総額3分の2以上の議決権を有する者の同意

3 少額債権については、裁判所の許可があれば弁済可能であること

 破産手続の場合には、たとえ少額の債務であっても、配当手続を経なければ、債権者に弁済することはできません。しかし、特別清算の場合、少額の債務で他の債権者を害するおそれがなければ、裁判所の許可を得て弁済することが可能です(会社法537条1項)。
 これにより、取引先等の債権者の負担を軽減できる可能性もあります。

4 破産による信用棄損を避けることできる

 「破産した」と聞くと、悪い印象を持つ方が多いのが現状だと思います。このような破産による信用棄損を避けることができるのも、特別清算のメリットの1つといえます。

第5 結語

 特別清算には、上記のようなメリットもありますが、特別清算は、債権の一部免除など債権者の協力がなければ行うことはできません。また、特別清算を開始しても、協定や個別合意が成立する見込みがない場合などには、裁判所が職権で破産開始決定を行うこととなります(会社法574条)。
 特別清算手続では、法務や税務の専門知識が必要となる場面もでてきます。特別清算の申立てを検討する場合には、弁護士や税理士といった専門家に相談することをおすすめします。


参考文献
尾島史賢編 『株式会社・各種法人別清算手続マニュアルー手続の選択から業種別の注意点までー』初版 新日本法規出版株式会社、2019年
東京弁護士会編『入門 新特別清算手続―新しい特別清算の理論と運用』第3版 2009年

執筆者情報

弁護士 髙尾 侍志

弁護士法人ALAW&GOODLOOP

令和3年1月 弁護士登録

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