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【起業の失敗あるある】個人事業開業の手続き

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■開業届出書は税務署、都道府県、市町村に提出

個人事業主として開業するのに登記などの面倒な手続きは必要ありません。個人事業主の場合は、税務署や都道府県、市町村に開業届出書を提出します。しかし開業届出書の提出は、事後の届出です。極端な話、開業届出書を提出し忘れていても、事業を行っている以上は「開業している」ということです。

ここで悩むのが何をもって開業かということです。その時点を開業した日として考えるのかということは、そこまで厳密に定められているわけではありません。飲食店や小売店であれば物件を契約した日、ライターであれば自らの名前で仕事依頼サイトに登録した日や、初めて記事を書き始めた日などです。特に明確な基準があるわけではないので、自ら事業を始めたと思うときが開業日です。

これと混同しやすいのが開業準備期です。例えば、開業のためのセミナーや交流会に行くことです。これらは、いずれ売上に結び付くかもしれませんが、やっている段階ではまだ開業準備段階です。実際に、個人事業主自らの名前で売上を上げるための活動を積極的に開始したときこそが開業のときです。

ここで忘れがちなのが、都道府県や市町村への届出です。開業届出書というと税務署というイメージがありますが、都道府県や市町村にも届出が必要です。個人事業税や事業所への住民税の課税のために、地方自治体でも開業の事実を把握しておく必要があるのです。忘れずに出すようにしましょう。

また、これから説明する各書類にも言えることですが、各役所に提出する際には2部作成して、必ず受理印を押した控えを受け取っておきましょう。どのような書類を提出したのかということを把握しておくためという意味もありますが、例えば融資を受ける際や、各種補助金の申請を行う際にこれらの書類を提出しているかどうかを確認されることがあります。そんな時に、手元に提出した書類の控えがあれば確認することも容易になるのです。開業して数年後にとある補助金の申請で、開業届出書の控えの提出を求められてあたふたしてしまう、ということにもなりかねません。役所に出した書類の控えはしっかりと管理しておきましょう。

■青色申告承認申請書を忘れずに

開業届出書とともに提出したいのが、「所得税の青色申告承認申請書」です。しっかりと経理を行う代わりに、10万円~55万円(e-Taxを使うなど一定の場合は65万円)の青色申告特別控除や、赤字の3年間繰り越し、その他所得税計算上のさまざまな特典を受けることができます。

開業届出書と違って、青色申告承認申請書は税務署にのみ提出します。注目したいのが、書類の名前です。開業届出書は「届出」ですが、この書類は「申請」となっています。つまり提出して初めて適用を受けられるということです。開業届出書は開業後の提出でしたが、青色申告の承認を受けるためには、その年の3月15日まで(開業が1月16日以後の場合は、開業日から2月以内。)に青色申告承認申請書を管轄の税務署に提出することが必要です。うっかり提出期限を過ぎてしまったなんてことにならないように注意しましょう。

■給与を支払う場合は、給与支払当事務所の開設届出書も提出しよう

従業員を雇う場合には、個人事業主といえども、所得税の天引き、いわゆる源泉徴収を行うことが必要です。そして、源泉徴収した所得税は、支払った月の翌月10日までに管轄の税務署に納付しなければいけません。源泉徴収した所得税を納めているかどうかは税務署でもチェックしています。そのため、給与を支払う個人事業主については、「給与支払当事務所の開設届出書」という書類を管轄の税務署に提出することで、税務署に所得税が発生することをお知らせするのです。

合わせて、「源泉所得税の納期の特例申請書」も提出しておくとよいでしょう。これを提出しておけば、源泉所得税を1月と7月の年2回に半年ずつ納付することもできます。半年に1回の納付となるので、納期限さえ覚えておけば、毎月納付する手間が省けます。

源泉所得税の納付は厳密に期限が定められています。ほかの税金もそうですが、1日でも遅れれば、ペナルティがかかることがあります。うっかり納付し忘れたということがないように注意しておきましょう。

■家族従業員に給与を支払うには手続きが必要

例えば、家族経営の飲食店などで、家族に給与を支払っていたとします。しかし、個人事業主の場合、単に家族にお金を渡しても、経費としては認められません。家計の中でお金が動いているだけなのです。
何も知らずにそのまま家族への給与を経費として確定申告してしまうと、後々税務署に指摘されて修正しなければならないなんてことにもなりかねません。

しかし、家族に渡す給与でもしっかりした手続きを経れば経費に入れることができます。その手続きというのは、次の2つです。
1) 青色申告承認申請書を提出して、青色申告の承認を受けること
2) 青色事業専従者給与に関する届出書を提出すること
青色申告承認申請書については、先ほど解説しましたが、青色事業専従者給与に関する届出書は新たに出てきた届出書です。個人事業主の家族従業員を、特に青色事業専従者といいます。この届出書を出すことで、その届出書に記載した内容で家族に給与を支払うことができます。青色事業専従者給与に関する届出書の提出期限は、その年の3月15日まで(家族が働き始めた日が1月16日以後の場合は、その日から2月以内。)です。忘れずに手続きを行いましょう。

【起業の失敗あるある】会社設立(資本金編)に続く

執筆者情報

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代表者 中野 裕哲

起業コンサルV-Spiritsグループ/税理士・社労士・行政書士法人V-Spirits

起業コンサルタント®、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、
ファイナンシャルプランナー(CFP®)、1級FP技能士、宅地建物取引主任者

起業コンサルV-Spiritsグループ代表。ドリームゲート起業面談相談9年連続日本一。
多数の起業本、起業のWeb記事も執筆・監修する人気アドバイザー。
「まるごと起業支援(R)」で、あちこち相談せずとも、起業の疑問も不安も一度で解消。
著書「失敗しない起業 55の法則」「マンガでやさしくわかる起業」「図解 知識ゼロからはじめる起業の本」など。

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個人事業主として開業するのに登記などの面倒な手続きは必要ありません。個人事業主の場合は、税務署や都道府県、市町村に開業届出書を提出します。しかし開業届出書の提出は、事後の届出です。極端な話、開業届出書を提出し忘れていても、事業を行っている以上は「開業している」ということです。ここで悩むのが何をもって開業かということです。その時点を開業した日として考えるのかということは、そこまで厳密に定められているわけではありません。飲食店や小売店であれば物件を契約した日、ライターであれば自らの名前で仕事依頼サイトに登録した日や、初めて記事を書き始めた日などです。特に明確な基準があるわけではないので、自ら事業を始めたと思うときが開業日です。これと混同しやすいのが開業準備期です。例えば、開業のためのセミナーや交流会に行くことです。これらは、いずれ売上に結び付くかもしれませんが、やっている段階ではまだ開業準備段階です。実際に、個人事業主自らの名前で売上を上げるための活動を積極的に開始したときこそが開業のときです。ここで忘れがちなのが、都道府県や市町村への届出です。開業届出書というと税務署というイメージがありますが、都道府県や市町村にも届出が必要です。個人事業税や事業所への住民税の課税のために、地方自治体でも開業の事実を把握しておく必要があるのです。忘れずに出すようにしましょう。また、これから説明する各書類にも言えることですが、各役所に提出する際には2部作成して、必ず受理印を押した控えを受け取っておきましょう。どのような書類を提出したのかということを把握しておくためという意味もありますが、例えば融資を受ける際や、各種補助金の申請を行う際にこれらの書類を提出しているかどうかを確認されることがあります。そんな時に、手元に提出した書類の控えがあれば確認することも容易になるのです。開業して数年後にとある補助金の申請で、開業届出書の控えの提出を求められてあたふたしてしまう、ということにもなりかねません。役所に出した書類の控えはしっかりと管理しておきましょう。
2020.04.13 17:09:49