短期前払費用の仕入税額控除
リエ「黒田さん。ちょっと聞きたいことがあるのですが。」
黒田「はい。なんでしょう?」
リエ「6月決算の当社は毎年6月末に、月額3万2400円(税込)で賃借している駐車場の賃料1年間分(7月分から翌年6月分)38万8800円を支払っていますよね。」
黒田「はい。支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る支払いについては、支払った日の属する事業年度に損金算入ができるという法基通2-2-14を適用して毎期、損金算入していますね。」
リエ「当期も6月末に1年間分を支払う予定なのですが、令和元年10月1日からは消費税率が10%になりますよね。いくら支払うことになるのでしょうか?」
黒田「この駐車場賃貸借契約書には対価の額の変更を求めることができる旨が定められていますので、資産の貸付の税率等の経過措置は適用されません。よって、7月分から9月分までは旧税率の8%が適用され3万2400円×3ヵ月=9万7200円。10月分から翌年6月分までは新税率の10%が適用され3万3000円×9ヵ月分=29万7000円となり、合計39万4200円です。」
リエ「ということは当期の消費税の計算上、10月から翌年6月分までの29万7000円は10%の税率により仕入税額控除を行っていいのですか?」
黒田「たしかに消費税の課税仕入れの時期について、消基通11-3-8の短期前払費用の規定では、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱うこととされていますが、新消費税法の規定は施行日(令和元年10月1日)以後の課税資産の譲渡等に適用されるものなので、施行日前の課税期間に係る消費税の申告においては新税率による申告はできません。」
リエ「えっ! では全額8%の税率で仕入税額控除を行うのですか?」
黒田「全額を8%の税率で仕入税額控除を行うこともできます。その場合は翌課税期間にて、10%の税率が適用される10月分から翌年6月分までの金額を8%の税率による仕入対価の返還を受けたものとして処理した上で、改めて10%にて仕入税額控除を行います。」
リエ「でも、それだと地代家賃の税抜金額が変わってしまいますね。」
黒田「そうですね。本来なら地代家賃の税抜金額は3万円×12ヵ月=36万円なのですが、この方法だと36万5000円になってしまいますね。ですので、もう1つの方法としては8%の税率が適用される7月分から9月分についてのみ当期で8%の仕入税額控除を行い、10%が適用される10月分から翌年6月分までに係る消費税等相当額(3000円×9ヵ月=2万7000円)については仮払金として翌期に繰り越し、翌期の消費税申告において仕入税額控除を行います。」
リエ「なるほど。どちらにしても当期で10%の仕入税額控除はできないのですね。ありがとうございました。」