重加算税をめぐる論点整理 その2トピックス重加算税
はじめに
「重加算税」とは。マスコミ的用法では「悪質な所得隠しが行われた場合に罰則として課される重い税率の加算税」といったところであろうか。厳密な法令解釈の観点から言えば、この説明は必ずしも正確ではない。本コラムでは第一に現行税法上の重加算税に関する基本的事項について解説する。そして第二番目に、実際の重加算税の適用ケースなどについて、それぞれトピックスごとに説明申し上げ、参考に供する。
本コラムで取り上げる主な項目
1 重加算税の基本解説(その1 6/29 掲載済)
2 トピックス重加算税
その1 「隠蔽」又は「仮装」行為を伴わない、いわゆる「単純無申告」や所得の一部のみを申告する「つまみ申告」は重加算税の対象となるか。
その2 顧問税理士や親族が行った隠蔽または仮装行為は納税者本人に対する重加算税賦課要件となるか。また、社員が横領の目的で計上した架空経費につき、法人に重加算税が課せられることはあるか。
その3 税務調査段階における虚偽答弁、改ざんした証拠書類の呈示等の行為は重加算税の課税要件たる「隠蔽仮装行為」に該当するか。
その4 収入の繰延計上、経費の繰上計上等のいわゆる期間損益に関する申告漏れは重加算税の賦課処分の対象となるか。
2 トピックス重加算税
その1 「隠蔽」又は「仮装」行為を伴わない、いわゆる「単純無申告」や所得の一部のみを申告する「つまみ申告」は重加算税の対象となるか。
(問題の所在)
重加算税の賦課要件を定めている国税通宅法第68条は、「隠蔽」し又は「仮装」したところに基づき、納税申告書を提出していたとき(過少申告)、又は法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったとき(無申告)に課税される旨を規定している。したがって「隠蔽」又は「仮装」という行為が存在しなければ、これを課されることはないと考えられる。
では、書類の改ざんや二重帳簿の作成などの積極的な行為を伴わない、単純無申告や所得の一部のみを申告するいわゆる「つまみ申告」の方法により多額の税を免れる行為も重加算税の対象とならないと解されるか。
(判決又は課税実務)
ここでは、無申告・つまみ申告のような消極的な不正行為に対して「隠蔽又は仮装」があったものと認定しうるのかどうかが問題となる。
平成6年11月22日最高裁判決では、貸金業を営む者が最終所得の僅か3%~4%のいわゆるつまみ申告をしていた事案について「…単に事実の所得金額よりも少ない所得金額を記載した確定申告書であることを認識しながらこれを提出したということにとどまらず、本件確定申告の時点において、白色申告のため当時帳簿の備付け等につきこれを義務付ける税法上の規定がなく、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことを予定しつつ、前記会計帳簿書類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかである。したがって、本件確定申告は、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、国税通則法第68条第1項にいう税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出した場合に当たるというべきである。」と判示し、外形的な不正事実がなくても、多額の所得について申告をしないつまみ申告により納税を免れているような場合、即ち「殊更無申告」、「殊更過少申告」と言われるケースについては、重加算税の賦課要件を充足する場合がある旨を示している。
その2 顧問税理士や親族が行った隠蔽または仮装行為は納税者本人に対する重加算税課税要件となるか。また、社員が横領の目的で計上した架空経費につき、法人に重加算税が課せられることはあるか。
(問題の所在)
国税通則法68条は、「納税者が…隠蔽し、又は仮装し」と規定し、隠蔽仮装行為の主体を納税者自身としており、本来的には、納税者自身による隠蔽仮装行為を前提とされているように文理上解することができる。
では、具体的な証拠書類の改ざんや架空経費の計上の実行者が代理人たる税理士や納税者の父親などの親族であった場合には、納税者自身による隠蔽仮装行為が存在していないとして重加算税の賦課の対象とならないと解されることになるか。
また、法人の従業員が横領目的で各経費を計上しこれを着服していたようなケースについて法人に重加算税が課せられることがあるか。
(判例又は学説等)
隠蔽仮装の行為者が納税者本人以外の者である場合については、判例及び当局の課税実務においても形式的にそれが納税者自身の行為でないとしても、それが納税者自身の行為と同視できるようなケースについては、重加算税が賦課されるとする解釈が定着していると思われる。
① 大阪高裁(平成3年4月24日)
「隠ぺい、又は仮装行為が、申告者本人ないし申告法人の代表者が知らない間に、その家族、従業員等によって行われた場合であっても、特段の事情のない限り、原則として、右重加算税を課することができると解すべきである。」
② 課税実務(国税庁通達)
相続税重加算税通達では、「相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人の名義以外の名義、架空名義、無記名等であったこと若しくは遠隔地であったこと又は架空の債務が作られたこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告していること。」を隠蔽・仮装に当たるとしている。
③ 法人の従業員等のよる隠蔽仮装行為も納税者本人の行為と同視されるのが原則であるが、法人の従業員等の横領等のための不正行為(使い込みのための架空経費の計上、小口売上げの除外等)については、これを法人の行為と同視できるかどうかに関し、学説を中心に議論がある。
「納税者本人の申告行為に重要な関係を有する部門(経理部門等)に所属し、相当な権限を有する地位(課長等その部門の責任者)についている者の隠蔽・仮装行為は、特段の事情がない限り、納税者本人(法人の代表者)の行為と同視すべきであろうとし、しかしながら、その行為者自身の利益のために横領した金員の発覚を防ぐために費目を仮装する行為(この場合、横領損失も仮装費用も両方とも損費であるが、横領損失については納税者本人に損害賠償請求権(収益)の発生が生じ、結果的に過少申告となることがある。)については、それほど権限を有していない従業員の場合には、納税者本人の行為と同視することは酷であろう。」(品川芳宣「附帯税の事例研究」)
その3 税務調査段階における虚偽答弁、改ざんした証拠書類の呈示等の行為は重加算税要件たる「隠蔽仮装行為」に該当するか。
(問題の所在)
納税申告書提出の時点では、単なる過少申告等の事実のみが存在し、課税標準等に関する隠蔽・仮装行為が存在しなかった場合であって、税務調査時において行われた虚偽答弁や虚偽証拠の提出などの事後隠蔽行為や事後仮装行為は、重加算税の賦課要件たる隠蔽・仮装行為にあたるかどうか。
(判例及び課税実務)
① 課税実務(国税庁通達)
所得税重加算税通達では、「調査等の際の具体的事案についての質問に際し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせていること及びその他の 事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること」を隠蔽・仮装の一つとして取扱うものとしている。
② 東京地裁(昭52.7.25判決)
(通常の過少申告の後に、その過少を奇貨として事実関係を隠蔽又は仮装したような場合)について「税務調査の際の虚偽答弁や隠蔽・仮装工作は、当初から課税を回避しようとする意図があったものと推認することができる。」として重加算税の課税を容認している。
その4 収入の繰延計上、経費の繰上計上等のいわゆる期間損益に関する申告漏れは重加算税の賦課処分の対象となるか。
(問題の所在)
所得の過少計上に係る非違パターンの一つとして、いわゆる期間損益の問題がある。仮に当期の売上に計上すべき収益を翌期に計上しているケースや翌期の経費に計上すべき損金を当期に計上しているようなケースについては、収益や経費の計上時期に非違があるだけで、収益や経費の金額には誤りがある訳ではない。このような申告漏れについても重加算税は原則どおり賦課されることになるか。
課税実務(国税庁通達)
いわゆる期間損益に関する申告誤りについては、あまり厳格に重加算税の課税対象とすることは実態からみて酷となる場合も少なくない。このため国税庁通達では、いわゆる期間損益に関する重加算税の賦課については次の基準を示し、より慎重に取り扱う旨を明らかにしている。
<法人税の重加算税の取扱いについて(前掲課法2-8通達の3…帳簿書類の隠匿、虚偽記載に該当しない場合>
次に掲げる場合で、当該行為が相手方との通謀又は証ひょう書類の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等でないときは、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない。
① 売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたとき。
② 経費(原価に加算される費用を含む。)の繰上計上をしている場合において、その経費がその翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたとき。
③ 棚卸資産の評価換えにより過小評価をしている場合。
④ 確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等又は寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合。