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重加算税をめぐる論点整理 その1 重加算税の基本解説

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はじめに

 「重加算税」とは。マスコミ的用法では「悪質な所得隠しが行われた場合に罰則として課される重い税率の加算税」といったところであろうか。厳密な法令解釈の観点から言えば、この説明は必ずしも正確ではない。本コラムでは第一に現行税法上の重加算税に関する基本的事項について解説する。そして第二番目に、実際の重加算税の適用ケースなどについて、それぞれトピックスごとに説明申し上げ、参考に供する。

本コラムで取り上げる主な項目

1 重加算税の基本解説 その1

2 トピックス重加算税 その2 (7月6日掲載予定)
 その1 「隠蔽」又は「仮装」行為を伴わない、いわゆる「単純無申告」や所得の一部のみを申告する「つまみ申告」は重加算税の対象となるか。
 その2 顧問税理士や親族が行った隠蔽または仮装行為は納税者本人に対する重加算税賦課要件となるか。また、社員が横領の目的で計上した架空経費につき、法人に重加算税が課せられることはあるか。
 その3 税務調査段階における虚偽答弁、改ざんした証拠書類の呈示等の行為は重加算税の課税要件たる「隠蔽仮装行為」に該当するか。
 その4 収入の繰延計上、経費の繰上計上等のいわゆる期間損益に関する申告漏れは重加算税の賦課処分の対象となるか。

1 重加算税の基本解説

(1) 重加算税の法的性格

 重加算税は、過少に申告し、又は無申告の場合に、その納付すべき法人税額の計算の基礎となる事実について隠蔽又は仮装という不正手段があったときに、それにより免れ又は免れようとした税額の35%ないし40%の負担割合により課せられる。

 その法的性格について最高裁判所は「この重加算税は、行政機関の行政手続により、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出し、又は提出しなかった者に課せられるものであり、これによって、かかる方法による納税義務違反の発生を防止し、もって、徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置であり、違反者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目し、これに対する制度として課せられる刑罰とは趣旨を異にするものである」と判示している。(昭45.9.11最高二小判)

 重加算税の課税要件は、国税通則法第68条が規定しているが、この規定は、①過少申告又は無申告の事実を前提に、課税標準等の計算の基礎となる事実につき、②隠蔽又は仮装という不正手段があった場合に、過少申告加算税や無申告加算税などに代えて、賦課されるという構成となっている。

 このため、重加算税の賦課要件を巡る論点は、①そもそも「隠蔽又は仮装」とはどのようなものを言うのか②隠蔽、仮装の行為の実行者と納税者との関係③「隠蔽又は仮装」行為の時期と重加算税賦課要件との関係など、その殆どが通則法68条に規定する「隠蔽」又は「仮装」とういう概念を巡って生じている。

(2) 「隠蔽又は仮装」の意義

イ 学説

 「隠蔽又は仮装」の意義について学説では、次のような解釈が示されている。

① 国税通則法精解(志場喜徳郎他)  
 「事実の隠ぺいは、二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入若しくは架空経費の計上、棚卸資産の一部除外等によるものをその典型的なものとする…。事実の仮装は、取引上の他人名義の使用、虚偽答弁等をその典型的なものとする。いずれも行為が客観的にみて隠蔽又は仮装と判断されるものであれば足り、納税者の故意の立証まで要求しているものではない。」

② 租税法(金子宏)
 「事実の隠蔽とは…売上除外、証拠書類の廃棄等、課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことをいい、事実の仮装とは、架空仕入・架空契約書の作成・他人名義の利用等、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいう。」

ロ 判例

 「隠蔽又は仮装」の意義に関する代表的な裁判例では、次のような解釈が示されている。

① 昭50.6.23和歌山地裁
 「「…を隠蔽し、又は仮装して」とは、不正手段による租税徴収権の侵害行為を意味し、「事実を隠蔽」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得・財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行うことを要するものと解すべきである。」

② 平3.4.24大阪高裁
 「法68条1項に定める重加算税の課税要件である「隠蔽・仮装」とは、租税を脱税する目的をもって、故意に納税義務の発生原因である計算の基礎となる事実を隠蔽し、又は、作為的に虚偽の事実を付加して、調査などを妨げるなど、納税義務の全部又は一部を免れる行為をいい、このような見地から、重加算税の実質は、行政秩序罰であり、その性質上、形式犯であるが、不正行為者を制裁するため、著しく重い税率を定めた立法趣旨及び「隠蔽・仮装」といった文理に照らし、納税者が故意に脱税するための積極的行為をすることが必要であると解するのが相当である。」

ハ 課税実務(国税庁の解釈)

 国税庁の事務運営指針通達「法人税の重加算税の取扱いについて」(平成28年12月12課法2-8他)では、「隠蔽又は仮装に該当する場合」として次のような例示を行っている。

 (1) いわゆる二重帳簿を作成していること。

 (2) 次に掲げる事実(以下「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」という。)があること。
   ① 帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算に関係のある書類(以下「帳簿書類」という。)を、破棄又は隠匿していること。
   ② 帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同じ。)帳簿書類への偽造記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること。
   ③ 帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入(営業外の収入を含む)の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていること。

 (3) 特定の損金算入又は税額控除の要件とされる証明書その他の書類を改ざんし、又は虚偽の申請に基づき当該書類の交付を受けていること。

 (4) 簿外資金(確定した決算の基礎となった帳簿の資産勘定に計上されていない資産をいう。)に係る利息収入、賃貸料収入等の果実を計上していないこと。

 (5) 簿外資金(確定した決算の基礎となった帳簿に計上していない収入金額又は当該帳簿に費用を過大若しくは架空に計上することにより当該帳簿から除外した資金をいう。)をもって役員賞与その他の費用を支出していること。

 (6) 同族会社であるにもかかわらず、その判定の基礎となる株主等の所有株式等を架空の者又は単なる名義人に分割する等により非同族会社としていること。



執筆者情報

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税理士 小畑 孝雄

昭和41年東京国税局入局、国税庁法人税課、国税不服審判所勤務等を経て平成16年東京国税局法人課税課長、18年同調査第2部長を歴任し19年退官、税理士登録(日本橋支部所属)

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2018.06.27 17:20:22