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迷走する競馬の馬券の払戻金の所得区分 その3

税務
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 国税庁は、現在、競馬の馬券の払戻金の所得区分(一時所得か雑所得か)に関してパブコメを実施しており、その後所得税基本通達34-1を、もう一度改正する予定とのことである。

 本稿では、これに関係する所得税法の成立ちや現行法の規定ぶりを概観した上で、筆者の所感を述べることとする。

3 馬券の継続購入による所得の所得区分

 その1及び2を前提として、馬券の継続購入による所得の所得区分について筆者の所感を述べると以下のとおりである。

(1) 所得源泉を有する所得の呪縛

 まず、問題の出発点を探るため、馬券の継続購入による所得の所得区分に関する平成24年6月27日付の裁決を見てみると、同裁決は、次の点(筆者要約)に特色がある。

① 「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」とは、「所得源泉を有する所得以外の所得」と解されるところ、所得源泉の有無は、所得の基礎に源泉性を認めるに足りる継続性、恒常性があるか否かが判断基準になる(継続性、恒常性があれば源泉性を認めることができる。)。

② 本件の所得の基礎は馬券を購入する行為であるところ、その馬券を購入する行為と競走結果の着順に因果関係はなく、偶然の作用によるものであり、その行為に源泉性を認めるに足りる継続性、恒常性を認めることはできない。

③ たとえ馬券を継続的に購入したとしても、所得の基礎たる馬券を購入する行為自体に源泉性が認められないため、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」には該当しない。

 筆者にとって驚愕至極なのは、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」を「所得源泉を有する所得」に置き換えている点である。 国側では、上記裁決のような考え方の流れを汲んだために、馬券の継続購入による所得は所得源泉を有しない所得であるという呪縛に捉われ、その後の同種の事例にも影響することとなり、平成27年3月10日最高裁判決まで、営利を目的とする継続的行為から生じた所得に該当することはないと考えていたのではないかと推測する。

(2) 最高裁の平成27年3月10日判決と通達改正そして平成29年12月15日判決

 最高裁の平成27年3月10日判決は、ソフトウェアを使用した馬券の継続購入による所得は一時所得ではなく雑所得に当たるとするものであるが、最大のポイントは、所得の源泉性の問題から離れて、被告人の「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有する」ので、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」として、一時所得ではなく雑所得に当たるとした点である。要するに、「一体の経済活動の実態」という用語を使用することにより、その2の末尾の「営利性」(経済性)を表現して一時所得に含まれないとしたものと考えられる。

 国税庁は、この判決を受けて、平成27年5月、所得税基本通達34-1を、ソフトウェアの使用を前提として改正した。改正通達の中では、「ソフトウェア」及び「一体の経済活動の実態」という用語を使用している。

 一方、その後平成29年12月15日の最高裁判決では、ソフトウェア不使用のケースであるものの、馬券の継続購入による所得は一時所得ではなく雑所得に当たるとした。ここでは平成27年3月10日判決と異なり、「一体の経済活動の実態」という用語を使用せず、①被上告人の一連の行為は、継続的行為といえるものであるとした上で、②被上告人の一連の行為は、客観的にみて営利を目的とするものであるとし、③その所得は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として、一時所得ではなく雑所得に当たるとしている。

 要するに、所得の源泉性の問題から離れて、一時所得から除外される「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」の用語に忠実に、営利性・継続性の認定をしている。この判決を受けて、所得税基本通達34-1は再改正を余儀なくされた。

(3) 国税庁HPの中の平成28年9月29日東京高裁判決と通達改正案

 以上の2事例とは別件の東京高裁の平成28年9月29日判決は、ソフトウェア不使用のケースについて、「一体の経済活動の実態」の有無で「営利性」を表現し、その実態を有するとみることができないので、一時所得に当たるとしている。本件に係る上告は、平成29年12月15日最高裁判決後の平成29年12月20日付で棄却されている。

 この棄却により一時所得とすることが確定したためであろうか、平成30年2月付、国税庁の今回のHPのパブコメに関する記事の中には、最高裁の平成29年12月15日判決とともに、この東京高裁判決が参考として掲げられている。未練が滲むものの今回の所得税基本通達34-1の改正案では、「一体の経済活動の実態」という用語は使用せず、「利益が得られる」とか「利益を上げ」といった用語を使用して「営利性」を表現しようとしている。

 一時所得については、2分の1課税の特典がある一方控除される支出の範囲が限定されている。雑所得については、2分の1課税の特典はないが控除される支出の範囲は一時所得より広い。その違いはあるがいずれの所得もその赤字は他の所得との損益通算は認められていない。家事費的な支出の結果として生じた所得については、利益が生じたときだけ課税しようとする考え方が底流にあるからである。制度の仕組みとしては、それなりに整っているのであるから、筆者は、その区分についてあまり厳格にする必要はないのではないかと考えている。

執筆者情報

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税理士 小田 満

 国税庁勤務22年の後、町田・横浜南・板橋の各税務署長を経て、平成19年税理士登録。
 主な著書は、「図表でわかる新税制による金融商品課税の要点解説」、「Q&A プロ選手・開業医・芸能人等の特殊事情に係る所得税実務」など多数。

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2018.05.30 16:34:05