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リストリクテッド・ストックとは

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黒田「旭課長、『リストリクテッド・ストック』ってご存知ですか?」

旭課長「聞いたことはありますけど、詳しくは知りません。確か株式報酬の一形態だったと記憶していますが。」

リエ「私は全く知りませんでした。何ですかそれ?」

黒田「旭課長が仰る通り、役員等に対して金銭に代えて一定期間譲渡制限が付された株式(譲渡制限付株式)を報酬として支給することです。税法上の一定の要件を満たせば、役員とされる方に対してのものでも、届出不要の『事前確定届出給与』として損金算入が可能となったので、最近これを実行する大手企業が増えています。」

旭課長「そうなんですね。もう少し詳しく教えて頂けますか。」

黒田「はい、まずこれを実行する目的は、役員等に対するインセンティブの付与です。株式を受け取った当初は譲渡ができませんが、自分の働きによって会社の価値を向上させることができれば自分が所有する株式の価値も上がりますので、結果として譲渡制限解除後に売却した時の収入が多くなるというわけです。」

旭課長「ストックオプションと似ていますね。」

黒田「確かに似ていますが、それぞれに特長がありますので、状況に応じて使い分ける必要があります。」

旭課長「なるほど、では届出不要の事前確定届出給与となる要件というのは?」

黒田「まず役員の職務執行開始日から1ヵ月以内の株主総会等で、(1)譲渡制限付株式の交付のための報酬を支給すること、(2)(1)の報酬全体の限度額、(3)譲渡制限期間、(4)譲渡制限解除の条件(勤務条件又は業績条件に限ります)、(5)譲渡制限の解除条件を満たさなかった場合には、会社がその譲渡制限付株式を無償取得(没収)すること、(6)交付する株式1株当たりの価格、(7)役員個人別の報酬額と交付株式数等を決議しなくてはなりません。この職務執行開始日から1ヵ月以内にこれら一定の事項を決議するというのが、会社が損金算入するための要件の一つです。」

旭課長「職務執行開始日というのは原則定時株主総会の日ですよね、定時株主総会でそれらの決議を行えばいいんでしょうか。」

黒田「はい、一般的には定時株主総会で役員個人別の報酬額以外を決議して、その後の取締役会で個人別の報酬額やその報酬額に対して交付する株式数等を決議するという流れになるようです。交付する株式を新たに発行する場合は、この取締役会で第三者割当の決議も行う必要がありますが、実際は会社が所有している自己株式を交付するケースが多いようですね。繰り返しになりますが、ここまでを役員の職務執行開始日、つまり定時株主総会から1ヵ月以内に行う必要があります。」

旭課長「なるほど、上場企業は自己株式を所有しているところが多いと聞きますが、所有する自己株式の有効活用という側面もあるのでしょうか。」

黒田「確かにそういう側面もあるかもしれませんね。ちなみに、この取締役会で個人別の報酬額が確定しますので、同時に各役員に会社に対する報酬債権が発生します。役員はこの報酬債権を現物出資するという形で譲渡制限付株式を取得することになります。」

旭課長「現金を払い込む代わりに債権を払い込むということですね。」

黒田「その通りです。さらに会社と役員の間でこの譲渡制限付株式に関する契約の締結を行います。契約内容は個別事情に応じたものになるとは思いますが、先程申し上げた株主総会等で決議したこと等を当事者として契約します。そして各役員から報酬債権が払い込まれることによって、実際に株式を交付することとなりますが、ここまでを先程申し上げた取締役会から1ヵ月以内に行うというのも、会社が損金算入をするための要件です。」

旭課長「大体分かりました。役員に対してこのようなインセンティブを付与するというのは経営上有効だとは思いますが、当社で実行するのは可能ですか?」

黒田「不可能ではありませんが、やはり株式が市場で取引される上場企業でないと馴染まない部分が多いですね。」

旭課長「やはりそうですよね、少し残念な気もしますが。」

リエ「ちなみに、会社での損金算入のタイミングや、個人への所得税課税のタイミングはどの時点になるのでしょうか。」

黒田「基本的にはどちらも譲渡制限解除日です。ただ会社の方は当初の取締役会等で決めた報酬額を譲渡制限解除日に損金算入することになりますが、個人の方は譲渡制限解除日の時価で給与所得課税されることになりますので、実務上は両者の金額が異なる場合がほとんどだと思います。それと個人に給与所得課税が行われる場合には、源泉徴収も必要となります。」

リエ「まあいずれ当社が上場したときには私も役員になっているかもしれないし、そのときは検討しましょうね。」

執筆者情報

アサヒ・ビジネスセンター

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黒田「旭課長、『リストリクテッド・ストック』ってご存知ですか?」旭課長「聞いたことはありますけど、詳しくは知りません。確か株式報酬の一形態だったと記憶していますが。」リエ「私は全く知りませんでした。何ですかそれ?」黒田「旭課長が仰る通り、役員等に対して金銭に代えて一定期間譲渡制限が付された株式(譲渡制限付株式)を報酬として支給することです。税法上の一定の要件を満たせば、役員とされる方に対してのものでも、届出不要の『事前確定届出給与』として損金算入が可能となったので、最近これを実行する大手企業が増えています。」旭課長「そうなんですね。もう少し詳しく教えて頂けますか。」黒田「はい、まずこれを実行する目的は、役員等に対するインセンティブの付与です。株式を受け取った当初は譲渡ができませんが、自分の働きによって会社の価値を向上させることができれば自分が所有する株式の価値も上がりますので、結果として譲渡制限解除後に売却した時の収入が多くなるというわけです。」旭課長「ストックオプションと似ていますね。」黒田「確かに似ていますが、それぞれに特長がありますので、状況に応じて使い分ける必要があります。」旭課長「なるほど、では届出不要の事前確定届出給与となる要件というのは?」黒田「まず役員の職務執行開始日から1ヵ月以内の株主総会等で、(1)譲渡制限付株式の交付のための報酬を支給すること、(2)(1)の報酬全体の限度額、(3)譲渡制限期間、(4)譲渡制限解除の条件(勤務条件又は業績条件に限ります)、(5)譲渡制限の解除条件を満たさなかった場合には、会社がその譲渡制限付株式を無償取得(没収)すること、(6)交付する株式1株当たりの価格、(7)役員個人別の報酬額と交付株式数等を決議しなくてはなりません。この職務執行開始日から1ヵ月以内にこれら一定の事項を決議するというのが、会社が損金算入するための要件の一つです。」旭課長「職務執行開始日というのは原則定時株主総会の日ですよね、定時株主総会でそれらの決議を行えばいいんでしょうか。」黒田「はい、一般的には定時株主総会で役員個人別の報酬額以外を決議して、その後の取締役会で個人別の報酬額やその報酬額に対して交付する株式数等を決議するという流れになるようです。交付する株式を新たに発行する場合は、この取締役会で第三者割当の決議も行う必要がありますが、実際は会社が所有している自己株式を交付するケースが多いようですね。繰り返しになりますが、ここまでを役員の職務執行開始日、つまり定時株主総会から1ヵ月以内に行う必要があります。」旭課長「なるほど、上場企業は自己株式を所有しているところが多いと聞きますが、所有する自己株式の有効活用という側面もあるのでしょうか。」黒田「確かにそういう側面もあるかもしれませんね。ちなみに、この取締役会で個人別の報酬額が確定しますので、同時に各役員に会社に対する報酬債権が発生します。役員はこの報酬債権を現物出資するという形で譲渡制限付株式を取得することになります。」旭課長「現金を払い込む代わりに債権を払い込むということですね。」黒田「その通りです。さらに会社と役員の間でこの譲渡制限付株式に関する契約の締結を行います。契約内容は個別事情に応じたものになるとは思いますが、先程申し上げた株主総会等で決議したこと等を当事者として契約します。そして各役員から報酬債権が払い込まれることによって、実際に株式を交付することとなりますが、ここまでを先程申し上げた取締役会から1ヵ月以内に行うというのも、会社が損金算入をするための要件です。」旭課長「大体分かりました。役員に対してこのようなインセンティブを付与するというのは経営上有効だとは思いますが、当社で実行するのは可能ですか?」黒田「不可能ではありませんが、やはり株式が市場で取引される上場企業でないと馴染まない部分が多いですね。」旭課長「やはりそうですよね、少し残念な気もしますが。」リエ「ちなみに、会社での損金算入のタイミングや、個人への所得税課税のタイミングはどの時点になるのでしょうか。」黒田「基本的にはどちらも譲渡制限解除日です。ただ会社の方は当初の取締役会等で決めた報酬額を譲渡制限解除日に損金算入することになりますが、個人の方は譲渡制限解除日の時価で給与所得課税されることになりますので、実務上は両者の金額が異なる場合がほとんどだと思います。それと個人に給与所得課税が行われる場合には、源泉徴収も必要となります。」リエ「まあいずれ当社が上場したときには私も役員になっているかもしれないし、そのときは検討しましょうね。」
2017.11.14 09:44:13