安全配慮義務を果たすための留意点
事業主は従業員が生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をする安全配慮義務があり、これは労働契約法にも明文化されています。
1. 安全配慮義務が及ぶ範囲
労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と、事業主の従業員に対する安全配慮義務(健康配慮義務)が明文化されています。
これは、危険作業や有害物質への対策については当然のことながら、メンタルヘルス対策も事業主の安全配慮義務に含まれると解釈されます。
労働契約法には罰則がありませんが、安全配慮義務を怠った場合、民法709条(不法行為責任)、民法715条(使用者責任)などを根拠に、事業主に損害賠償を命じる判例も存在します。
安全配慮義務については、労働契約上での義務に付随するのは当然のことながら、広く当事者間に付随義務があり、たとえば、派遣先企業と派遣従業員、元請会社と請負従業員など、直接の労働契約関係がない当事者であっても指揮命令や管理監督が行われている場合は、安全配慮義務が必要となります。
2. 安全配慮義務の具体例
安全配慮義務違反を争った判例は多くありますが、たとえば業務上の過重な負荷と常軌を逸した長時間労働のため、社員が過労とうつ病により自殺した事件では、会社に安全配慮義務違反による過失があるという原告の訴えが認められました。
社会通念上許容される範囲をはるかに逸脱した長時間労働によりうつ病に陥り、うつ病のため自殺した従業員につき、会社はこのような長時間労働とこの従業員の健康状態の悪化を知りながら、その労働時間を軽減させるなどの具体的な措置をとらなかった点について、安全配慮義務の不履行が認められたのです(川崎製鉄事件 岡山地判 平10.2.23)。
また、同様に長時間労働による、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積し、従業員の心身の健康を損なう場合、事業主は、その雇用する従業員に従事させる業務を管理する際に、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷などが過度に蓄積して従業員の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う必要があり、事業主に代わって従業員に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、事業主の注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきであるとされます(電通事件 最二小判 平12.3.24)。
3. 安全配慮義務を果たすためには
実際に「労働者が生命、身体等の安全を確保しつつ労働する」ために、事業主が果たすべき安全配慮義務は一律に定めるものではなく、会社の業種、規模、環境など具体的な状況に応じ、必要な配慮をすることが求められます。
なお、労働安全衛生法などの労働安全衛生法関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されています。健康診断や安全衛生管理体制の確立などは当然に遵守されるべきものです。
4. 従業員の自己保健義務
労働安全衛生法には、従業員側が守るべき義務についても規定されており、これを従業員の自己保健義務といいます。
就業規則に規定することが望ましい自己保健義務
自己保健義務は、就業規則に規定することが望ましく、具体的には次の内容があげられます。