目次 I-2-Q1


2 寄与者が存する場合の相続分とその具体的な計算

◆ 本項目のポイント ◆
(1) 寄与者の意義について確認してください。
(2) 寄与の意義及び具体的にはどのような行為が寄与として認められるのか確認してください。
(3) 寄与者が存する場合の具体的な相続分の計算方法について確認してください。



Q1 特別受益者が存する場合の相続分

Question
先月死亡した被相続人甲の相続人は3人(配偶者、長男及び長女)ですが、このうち、長男は、永年にわたって被相続人甲の営む事業に無償で従事していました。(長男は独身であったため、無償による事業への従事であっても格別の支障は発生しませんでした。)
今回の被相続人甲の相続財産に係る遺産分割協議に際して、長男の永年にわたる被相続人甲への貢献を考慮に入れて実施したいと考えていますが、具体的にはどのような方法で遺産分割協議を行えばよいのでしょうか。



Answer

 事例においては、長男は寄与者に該当するものと考えられます。このように、共同相続人中に寄与者が存する場合の相続分の計算については、民法第904条の2(寄与分)の規定に基づいて算定することになります。

【解 説】

(1) 寄与者の相続分

 民法第904条の2(寄与分)の規定では、『共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により(イ)被相続人の財産の維持又は増加につき(ロ)特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から(ハ)共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条まで(注:民法第900条(法定相続分)、民法第901条(代襲相続分)、民法第902条(指定相続分))の規定によって算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。』とされており、各種の方法により被相続人の財産の維持又は増加につながる一定の貢献を特別の寄与と定め、当該特別の寄与を行った者を寄与者として、その者に係る具体的な相続分の算定方法を定めています。この取扱いについて、図解とその計算パターンを示しますと下記のとおりになります。

【図 解】
 

【計算パターン】

 (1) みなし相続財産
  被相続人が相続開始時に
  有していた総資産の価額
寄与者に対
する寄与分

 (2) 各相続人の具体的な相続分
   相続人(寄与者)X……(1)×法定相続分等+寄与分=相続人Xの具体的相続分
   相続人Y……(1)×法定相続分等=相続人Yの具体的相続分
   相続人Z……(1)×法定相続分等=相続人Zの具体的相続分


 (2) 寄与分に関する留意点

  (a) 被相続人の財産の維持又は増加の意義
 特定の相続人に対して寄与分が認められる((注)寄与分は、相続人(共同相続人)に対してのみ認められるものであり、これ以外の者に対しては認められないものであることに留意する必要があります。)ためには、ある行為によって被相続人の財産の維持又は増加(上記(1)(イ)   部分)が図られることがその前提とされており、この『ある行為』の例示として、民法の規定では、(A)被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、(B)被相続人の療養看護を具体的に掲げています。
 この点について留意すべき事項として、これらの行為は、原則として無償(又はこれらの行為に対する適正な対価に比して著しく低い対価程度を収受)によって行われていたものであることが必要とされています。すなわち、もし仮に、特定の相続人が被相続人の事業に関して労務の提供を行っていたとしても、これに対して当該相続人が当該労務の提供を第三者に代替させたならば必要とされる適正な当該労務の提供に対する対価を収受していたら、たまたま、労務の提供者が特定の相続人であっただけにすぎず、結果的には、被相続人の財産の維持又は増加が図られたことにはなりません。

(b) 特別の寄与の意義
 上記(a)に掲げるとおり、特定の相続人に寄与分が認められるためには、一定の行為によって被相続人の財産の維持又は増加が図られることが必要であるとされるほか、当該行為による関与度合いが特別なもの(上記(1)(ロ)   部分)であることもその要件としてあげられています。すなわち、寄与分は一定の要件を充足した被相続人に対する貢献をした相続人に対してのみ認められるものとされていますが、そもそも、本来的に被相続人と相続人とは一定の親族関係にあることから扶養義務等を基礎とする相互の協力関係が通常においても期待されているところであり、ここでいう寄与分が認められるための『特別の寄与』とは、『被相続人と相続人(共同相続人)とが一定の親族関係にあることから社会通念上において期待又は要求される通常の範囲内とされる程度を著しく超越した被相続人に対する多大なる貢献』であることが必要になるものと考えられます。

(c) 寄与者の寄与分の算定手続き
 共同相続人中に被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者(寄与者)が存する場合には、当該寄与者が取得すべき寄与分は、原則として共同相続人間の協議(遺産分割協議)により定めるものとされています。(上記(1)(ハ)   部分
 ただし、上記の寄与者に対する寄与分を算定するための協議が調わないとき、又は協議することができないときは、寄与者の請求に基づいて家庭裁判所が、当該寄与に関するすべての事情(寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情)を考慮して、寄与分を定めるものとされています。
 なお、寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した額を超えることはできないものとされています。

 

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