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ロンドン支店が実質所得者と認定、納税告知処分を全部取消し

 外国法人(英国法人)の東京支店が事業資金を調達するため、ロンドン市内にある英国法人の本店に対して社債を発行し、ロンドン本店が英国法人かつ英国法人の完全子会社に、また完全子会社が別の内国法人に順次社債を譲渡したことを巡って、社債の利子の収益を実質的に享受している者の判断が争われた事件で東京地裁(鎌野真敬裁判長)は、社債の利子に係る収益は完全子会社、内国法人が支配するものではなく、実質的にロンドン本店が支配するものであるからロンドン本店が社債の利子の実質所得者に該当すると判断、源泉所得税に係る納税告知処分の全部取消しを命じる判決を言い渡した。

 この事件は、英国法人の東京支店が事業資金を調達するためにロンドン市内にある英国法人の本店(ロンドン本店)に対して社債を発行し、ロンドン本店が英国法人かつ英国法人の完全子会社に、その完全子会社が順次社債を譲渡したという流れの中、英国法人側が社債の利子の収益を実質的に享受している者は内国法人又はロンドン本店であるという判断から、利子の支払いの際に際して源泉徴収をしなかったのが発端となった。

 そこで原処分庁が、利子の収益を実質的に享受している者は完全子会社であり、利子の支払いは英国法人に対する利子の支払いに当たると判断、利子に係る源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしてきたわけだ。そこで東京支店側が原処分の取消しを求めるとともに、各処分に基づいてされた源泉所得税の本税、不納付加算税及び延滞税の納付は法律上の原因なく行われたものであると主張、過納金として53億円超の還付及びその還付加算金の支払いを求めて提訴したという事案である。

 原処分庁側は、1)ファイナンス契約に社債をロンドン本店が買い戻す旨の条項等が設けられていない、2)各契約においてロンドン本店が社債等を自由に処分し得る権限を付与する条項がない、3)ファイナンス契約において完全子会社が支払うのは平準化返済金額が平準化LIBOR金額を超過する場合の超過額であって、利子相当額とはされていない、4)ロンドン本店において利子が入金される東京支店口座の管理等を行っていた事実もない――ことなどを理由に、ロンドン本店は社債の利子の実質所得者ではない旨主張して、請求の棄却を求めた。

 判決はまず、所得税法12条(実質所得者課税の原則)の趣旨に触れ、利子の実質所得者を判断する際には、利子に係る経済的損益の帰属先の他、資金調達取引全体の仕組み、資金調達取引に至る経緯あるいは関係者の認識、資金調達取引の実施状況など諸般の事情を総合的に考慮すべききであると解釈。

 その上で、事実認定の結果、利子の経済的損益の帰属先も含めた資金調達取引の仕組み、資金調達取引に至る経緯あるいは関係者の認識、資金調達取引の実施状況に鑑みれば、利子に係る収益は実質的にロンドン本店が支配するものであり、ロンドン本店が社債利子の実質所得者であると認定、源泉所得税に係る納税告知処分の全部取消しを命じる判決を言い渡した。

(2022.02.01東京地裁判決、令和2年(行ウ)第271号)

提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)

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2023.05.15 16:14:11