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医師の洋画制作販売から生じた所得(損失)は雑所得と判示、棄却

 多額の給与所得を得る医師が医療行為の傍ら、洋画等の制作販売をしていたことを巡って、その制作販売等から生ずる所得(損失)が事業所得に該当するか否かの判断が争われた事件で横浜地裁(岡田伸太裁判長)は、洋画の制作販売等が自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であるとは言えず、事業には該当しないと判示して、医師側の訴えを棄却する判決を言い渡した。

 この事件は、医療行為に携わり給与所得を得ていた者(医師)が、洋画等の制作及び販売から生じた所得(損失)は事業所得に該当すると判断、その所得(損失)を医療法人社団に医師として勤務して得た給与所得から控除(つまり損益通算)した上で、所得税及び復興特別所得税の確定申告をしたのが発端となった。

 これに対して原処分庁が、洋画等の制作販売から生じた所得(損失)は事業所得には該当せず雑所得に該当するため、これを他の所得から控除することはできないとして申告内容を否認、所得税等に係る増額更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしてきたことから、医師側が更正処分等は違法である旨主張して、更正処分及び賦課決定処分の取消しを求めて提訴したという事案である。

 医師側は、絵画の制作販売活動を反復継続して実施していることから個展を開催し得ているのであり、作品の販売も行い得ていると主張するとともに、洋画の制作、販売が不定期に行われていたとしても、一定の作品の制作、展示、宣伝、販売がある限り継続性は肯定されるべきであり、原画を版画制作業者に持ち込んでスケジュールを立て、管理監督までしているのであって、継続性・反復性が認められるなどと主張して、事業所得に該当するという主張を展開した。

 判決はまず昭和56年の最高裁判決を引き合いに、事業所得とは自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと指摘。

 その上で、洋画等の制作販売の活動に要する資金は、専ら医師としての給与所得及び資産から調達されており、しかも客観的収支状況や販売実績に照らせば、多額の資金を投じる一方で、収益は全く上がっておらず、およそ相当程度の期間を継続して安定した収益が得られる見込みであったとは言えず、客観的に見て営利を目的として行われたものとも言えないことからすれば、社会通念上、洋画の制作販売等が自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務であるとは言えず、事業には該当しないと判示した。

 つまり、雑所得に該当するため、その損失の金額を給与所得から控除することつまり損益通算は認められないと判断した事案だ。

(2021.03.24横浜地裁判決、令和元年(行ウ)原処分取消請求事件)

提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)

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