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監査役の任務を全て尽くしたとはいえないと判断、差戻し

 非公開会社の株式会社が監査役を務めていた者に対して、従業員による継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じたのは監査役の任務を怠ったためであると主張して、損害賠償請求をしていた事件で最高裁(草野耕一裁判長)は、監査役の任務を怠っていないと認定した控訴審判決を破棄した上で、会計限定監査役は計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば常にその任務を尽くしたとは言えないと指摘、更に審理を尽くしてその判断をするよう控訴審に差し戻した。

 この事件は、非公開会社の株式会社がその監査役を務めていた者に対して、従業員による継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じたのは監査役の任務を怠ったことによるものと主張して、会社法423条1項に基づく損害賠償を求めてきたもの。

 その従業員は10年間にわたって2億円超を横領し、横領の発覚を防ぐため、会社名義の預金口座の残高証明書を偽造するなどしていたが、監査役は5期にわたって計算書類等の監査を実施してきたものの、従業員から提出された残高証明書が偽造されたものであることに気づかないまま、会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示している旨の意見を表明してきたからだ。

 この訴えに対して控訴審は、監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役(いわゆる会計限定監査役)は、会計帳簿の内容が計算書類等に正しく反映されているかどうかを確認することを主たる任務とするものであり、計算書類等の監査の際に、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかであるなど特段の事情のない限り、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認していれば任務を怠ったとはいえないと判断して会社側の請求を斥けた。そこで、控訴審の判決内容を不服とした会社側が上告して控訴審判決の取消しを求めてきたわけだ。

 最高裁は、会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではないと判示して、控訴審の判断には判決に影響を及ぼす明らかな法令違反があるとして破棄した。

 その上で、口座に係る預金の重要性の程度、管理状況等の諸事情に照らして適切な方法により監査を行ったといえるか否か、また、任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても更に審理をする必要があるという判断から、控訴審に差し戻した。税理士等がいわゆる会計参与に就いた場合などにも起こり得ることを示唆した事案ともいえる。

(2021.07.19最高裁第二小法廷判決 令和元年(受)第1968号)

提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)

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 非公開会社の株式会社が監査役を務めていた者に対して、従業員による継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じたのは監査役の任務を怠ったためであると主張して、損害賠償請求をしていた事件で最高裁(草野耕一裁判長)は、監査役の任務を怠っていないと認定した控訴審判決を破棄した上で、会計限定監査役は計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば常にその任務を尽くしたとは言えないと指摘、更に審理を尽くしてその判断をするよう控訴審に差し戻した。 この事件は、非公開会社の株式会社がその監査役を務めていた者に対して、従業員による継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じたのは監査役の任務を怠ったことによるものと主張して、会社法423条1項に基づく損害賠償を求めてきたもの。 その従業員は10年間にわたって2億円超を横領し、横領の発覚を防ぐため、会社名義の預金口座の残高証明書を偽造するなどしていたが、監査役は5期にわたって計算書類等の監査を実施してきたものの、従業員から提出された残高証明書が偽造されたものであることに気づかないまま、会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示している旨の意見を表明してきたからだ。 この訴えに対して控訴審は、監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役(いわゆる会計限定監査役)は、会計帳簿の内容が計算書類等に正しく反映されているかどうかを確認することを主たる任務とするものであり、計算書類等の監査の際に、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかであるなど特段の事情のない限り、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認していれば任務を怠ったとはいえないと判断して会社側の請求を斥けた。そこで、控訴審の判決内容を不服とした会社側が上告して控訴審判決の取消しを求めてきたわけだ。 最高裁は、会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではないと判示して、控訴審の判断には判決に影響を及ぼす明らかな法令違反があるとして破棄した。 その上で、口座に係る預金の重要性の程度、管理状況等の諸事情に照らして適切な方法により監査を行ったといえるか否か、また、任務を怠ったと認められる場合にはそのことと相当因果関係のある損害の有無等についても更に審理をする必要があるという判断から、控訴審に差し戻した。税理士等がいわゆる会計参与に就いた場合などにも起こり得ることを示唆した事案ともいえる。(2021.07.19最高裁第二小法廷判決 令和元年(受)第1968号)提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)
2021.08.02 16:12:57