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業務委託契約に基づく医療業務報酬への概算経費率の適用を否定

 業務委託契約に基づき他の医療機関で行われた麻酔関連医療業務に係る報酬が、租税特別措置法26条が定める「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当するか否か、つまり概算経費率による必要経費算入が認められるか否かの判断が争われた事件で東京地裁(清水知恵子裁判長)は、業務委託契約に基づいて行った麻酔施術は療養の給付の対象として行ったものとは認められず、「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」には該当しないため概算経費額を必要経費に算入することはできないと判示、医師側の訴えを棄却した。

 この事件は、保険医療機関(クリニック)を開設する医師が、所得税等の確定申告をする際に、他の保険医療機関で実施された手術につき、業務委託契約に基づいて行った麻酔関連医療業務に係る報酬が租税特別措置法26条1項に定められた「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当すると判断して、概算経費率を乗じて計算した金額を必要経費に算入する一方、業務に係る役務の提供の対価が、消費税法上非課税となることを前提に、消費税等の申告をしなかったのが発端となった。

 これに対して原処分庁が、各報酬額は「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当せず、概算経費額の必要経費算入は認められないと判断して否認、所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、役務提供の対価は消費税法上非課税とならないことを理由に、消費税等の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分等をしてきたわけだ。

 そこで医師側が、所得税に係る各処分の一部(概算経費額の必要経費への不算入を理由とする部分)の取消しを求めるとともに、消費税に係る各処分の全部取消しを求めて提訴したという事案である。

 判決はまず、クリニックが自ら主体として療養の給付を行ったと評価することができるか、つまり医師が麻酔施術に係る社会保険診療につき支払いを受けるべき地位にあるか否かが問題になると指摘した上で、事実認定をもとに、患者の治療等におけるクリニック側の関与は人と物とが結合された組織体である保険医療機関として、自ら主体となって患者の傷病の治療等に必要かつ相当と認められる医療サービスの給付を行ったと評価することはできないことから、自ら主体として療養の給付を行ったと認めることはできないと判断。

 その結果、麻酔施術に係る社会保険診療につき支払いを受けるべき地位にあるとはいえず、報酬額は租税特別措置法26条1項が定める「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」には該当しないという判断を示した。結局、概算経費率を乗じて計算した金額(概算経費額)による必要経費算入が認められないとされた所得税の更正処分及び賦課処分はいずれも適法であると判示して、医師側の請求を悉く斥けている。

(2020.01.30東京地裁判決、平成28年(行ウ)第469号)

提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)

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 業務委託契約に基づき他の医療機関で行われた麻酔関連医療業務に係る報酬が、租税特別措置法26条が定める「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当するか否か、つまり概算経費率による必要経費算入が認められるか否かの判断が争われた事件で東京地裁(清水知恵子裁判長)は、業務委託契約に基づいて行った麻酔施術は療養の給付の対象として行ったものとは認められず、「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」には該当しないため概算経費額を必要経費に算入することはできないと判示、医師側の訴えを棄却した。 この事件は、保険医療機関(クリニック)を開設する医師が、所得税等の確定申告をする際に、他の保険医療機関で実施された手術につき、業務委託契約に基づいて行った麻酔関連医療業務に係る報酬が租税特別措置法26条1項に定められた「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当すると判断して、概算経費率を乗じて計算した金額を必要経費に算入する一方、業務に係る役務の提供の対価が、消費税法上非課税となることを前提に、消費税等の申告をしなかったのが発端となった。 これに対して原処分庁が、各報酬額は「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」に該当せず、概算経費額の必要経費算入は認められないと判断して否認、所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、役務提供の対価は消費税法上非課税とならないことを理由に、消費税等の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分等をしてきたわけだ。 そこで医師側が、所得税に係る各処分の一部(概算経費額の必要経費への不算入を理由とする部分)の取消しを求めるとともに、消費税に係る各処分の全部取消しを求めて提訴したという事案である。 判決はまず、クリニックが自ら主体として療養の給付を行ったと評価することができるか、つまり医師が麻酔施術に係る社会保険診療につき支払いを受けるべき地位にあるか否かが問題になると指摘した上で、事実認定をもとに、患者の治療等におけるクリニック側の関与は人と物とが結合された組織体である保険医療機関として、自ら主体となって患者の傷病の治療等に必要かつ相当と認められる医療サービスの給付を行ったと評価することはできないことから、自ら主体として療養の給付を行ったと認めることはできないと判断。 その結果、麻酔施術に係る社会保険診療につき支払いを受けるべき地位にあるとはいえず、報酬額は租税特別措置法26条1項が定める「社会保険診療につき支払を受けるべき金額」には該当しないという判断を示した。結局、概算経費率を乗じて計算した金額(概算経費額)による必要経費算入が認められないとされた所得税の更正処分及び賦課処分はいずれも適法であると判示して、医師側の請求を悉く斥けている。(2020.01.30東京地裁判決、平成28年(行ウ)第469号)提供元:21C・TFフォーラム(株式会社タックス・コム)
2020.09.07 17:07:11